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TYPE-MOONの「魔法」(5):第六法という人類滅亡プログラム
筆者-Townmemory 初稿-2022年3月26日 13時31分12秒
今回は第六魔法と第六法を取り上げます。
本稿はTYPE-MOON作品の世界観に設定されている「魔法」に関する仮説です。五回目です。第一回から読まないと意味をなしません。以下のリンクから順番にお読みください。
これまでの記事は、こちら。
TYPE-MOONの「魔法」(1):無の否定の正体
TYPE-MOONの「魔法」(2):初期三魔法は循環する
TYPE-MOONの「魔法」(3):第四魔法はなぜ消失するのか
TYPE-MOONの「魔法」(4):第五の継承者はなぜ青子なのか
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●第六って本当に良いものかしら?
まだ実現されてはいないが、『第六魔法』というものが予見されています。
『空の境界』の限定愛蔵版に付録としてついてきた「空の境界設定用語集」に、
「まだ実現できていない魔法を黒桐幹也が言い当てている」と書いてあるそうです(筆者は未見)。
『空の境界』に、こんなくだりがありました。
なので、大雑把にいうとこうなります。
・第六魔法には、「みんなを幸せにする」と表現できるような現象が付随する。
これはハッピーですね。いいですね。
と、言い切れればよかったんですが、どうも額面通りでないふしがある。例えばこれ。
『魔法使いの夜』の地の文には、「第三魔法までで打ち止めだったらよかったのに、その後にいろいろ出てきたからいけない」というぼやきがあるのです。
本稿(一連の投稿)の説では、第一から第三までの魔法は、「循環しながら人類にプラスの効果をもたらす」ものでした(初期三魔法循環説)。おおむね、いいことずくめだったのです。
ところが、本稿(一連の投稿)の説における第四魔法は、
「この世界(宇宙)が、まるごと無に飲み込まれる危険がある」
というものでした(第四魔法=非実在世界観測説)。
また『魔法使いの夜』で語られたことによれば、第五魔法は「使いようによっては宇宙の終焉が早まる」といったことがあるようです。
この流れでいくと、
・第一から第三まで:人類にプラスの効果をもたらす。
・第四から第六まで:人類にマイナスの効果をもたらす。
というような構成になっていそうな予感がぷんぷんする。
●第六魔法と第六法って同じものなの?
『メルティブラッド』シリーズには、「第六法」「第六」という用語が、何の説明もなしに使われています。
第三魔法のことを「第三法」、第五魔法のことを「第五法」と呼ぶような用例があるので、「第六法とは第六魔法のことだろう」と多くの人が考えています。
用例を抜き出してみましょう。
どうも不吉なことしか言ってない感じですね。
ここで書いてあることをわかりやすく言い換えてみると、
・「第六」は死徒(後天的吸血鬼)たちが実現したがっていることだ。
・いずれ秩序は「第六」に敗北するだろう。
・「第六法」がやってきたらおまえたちは死ぬが、そのまえに私(ここでは朱い月さん)がおまえたちを殺す。
ちなみに、これらのことを言っている話者は、全員が吸血鬼かそれに類する人です。細かいところをさっぴいて、フワッと印象だけ取り出すと、
「吸血鬼たちによる人類絶滅」
にしか見えない感じです。
「第六」「第六法」が語られるとき、ワンセットで「秩序」という言葉が出てきがちなところにも、注目したいところです。
ここでいう「秩序」って、どういう意味なんだ。
暴走アルクェイド(朱い月)に「秩序の飼い犬」って呼ばれているのは第五魔法の使い手・蒼崎青子です。
蒼崎青子は、人類のために戦っている感じがひしひしとする人ですし、この語が使われている状況をざっと眺めてみると、おおざっぱに、
「人間が世界を支配しているという現在の状況」
くらいのことを、「秩序」って呼んでいるっぽい。
……ちょっとだけ余談になりますが、秩序がそのくらいの意味だとすると、これは『FGO』で語られている、
「人理」
という言葉に、ちょっと意味が近い。
こちらによれば、人理とは「人類をより強く永く繁栄させるための理」だそうです。
ようするに、死徒たちによって「第六法」が成立したら、人類社会は終焉をむかえる(秩序が第六に破れる)し、人間は絶滅するだろう、くらいのことが言われていそうだ。
この語(第六)のイメージは、第六魔法として語られている「みんなを幸せにする」とはまったく正反対だ。
だから、いったんこういう仮説を置くべきだと思うのです。
・「第六魔法」と呼ばれているものと、「第六法」(第六)は、別のものである。
・第六魔法は、人類の幸福という効果をもたらすものである。
・いっぽう、「第六」のほうは、吸血鬼たちによるアポカリプス計画である。
ただ、全然関係ないものかというと、そうでもなさそうで、密接に関係しているというかほとんど表裏一体のもののような感じもしています。けれど、まずはいったん「両者は別もの」として考えてみたらどうでしょう。
とにかくまずは上記のような「仮説」を置いて、間尺に合わないところが出てきたら修正していきましょう。
●朱い月のブリュンスタッド登場
「朱い月のブリュンスタッド」という人物がいて、TYPE-MOON世界観における、黒幕中の黒幕とされています。
(そもそも「TYPE-MOON」とは、朱い月のブリュンスタッド氏のことです)
この人は「月の王様」とも呼ばれていて、ザックリした言い方をすると「月の意思が人の形をとったもの」くらいの感じ。
朱い月のブリュンスタッドが地球にやってきた目的は、「地球をまるごと自分のものにする」ためでした。
でも地球には「星の抑止力」「霊長の抑止力」というふたつの防御機構があります。星の抑止力は地球にとって危険な異物を排除するシステム。霊長の抑止力は人類にとって危険なものを排除するシステムです。
朱い月のブリュンスタッドは、いずれ自分が抑止力によって消滅させられることはわかっていたので、あらかじめ自分のスペアボディを作っておくことにしました。自分が消滅しても、スペアボディに乗り移って復活すればいいという考えでした。
地球で作ったスペアボディは異物ではないので抑止力の排除対象にならないというもくろみもありました。
(『歌月十夜』に、朱い月と同等の純度を持った肉体が発生したら、そこに朱い月が憑依する、という意味のことが書いてある)
まず、地球の意思をだまして、自分そっくりの生き物を生成させました。この生き物を「真祖」といいます。真祖は、人間とは比較にならないほど超高性能の人型生物となりましたが、朱い月の身体として使用するにはちょっと性能が足りなかった。
しかも、朱い月をモデルに作ったので、朱い月と同様の「人間の生き血を吸いたがる」という欠陥を抱えてしまっていました。
しかたないので朱い月は、「死徒二十七祖」という制度を作ったようです。
死徒というのは、(おおむね)真祖に噛まれて吸血鬼になった元人間たちです。朱い月は、死徒の中で特に力のある者たちに、「決して劣化することなく永遠に生き続ける存在になる方法」を探求させている……らしい。
死徒二十七祖の誰かがこの研究に成功したあかつきには、それを自分の素体として、自分が永遠の存在になる……といったことを模索したもようです。
(またおなじく『歌月十夜』に、「朱い月の憑依できる真祖が生まれないので、しかたなくわるあがきとして死徒二十七祖を作ってみた。アルトルージュはそこそこうまくできたけど朱い月が憑依できるほどの純度ではない」くらいのことが書いてある)
朱い月のブリュンスタッド本人は、現在は第二魔法の使い手ゼルレッチによって滅ぼされており、自分の素体となりうる存在が世界のどこかに発生する日を待っています。ようするに復活の日を待ち望んでいる魔王なんだって考えるとわかりやすい。
(注:ここでいう魔王は、ドラクエ、ロープレ的な意味の魔王ね。TYPE-MOON用語での魔王とは違います)
そんな朱い月さん。前項の引用分で示したとおり、「第六法が成り立ったらおまえら全員滅ぶんだ」みたいなことを言っております。
そして朱い月の配下である死徒たちは、「第六は死徒の悲願だ」と言っているわけです。
以上のような情報を、ふわっとつかんでふわっとまとめると、だいたい以下のような感じになるんじゃないか、と私は考えるのです。つまり、
・朱い月は、「私一人の値打ちは《全人類の全生命》とだいたい同じくらいだ」と思っている。
(天秤に乗せたら、自分一人と全人類でだいたい釣り合うか、ちょっと自分のほうが重い、くらいに思ってる)
・全人類の命を吸い上げてひとまとめにし、それを人型に成形したら、私が憑依するにふさわしい永遠の存在になりそうではないか。
・そのために死徒を使えばいい。
・死徒二十七祖たちに人間の命を一人残らず吸い上げさせ、ブクブクに太らせたあげく、その二十七祖たちを融合させてひとかたまりにすれば、「全人類の命をひとつにまとめたもの」ができる。
・これで人型を作れば、私はそこに降霊して、完全復活することができる。
この計画および目的の成就のことを「第六」っていってそうな感じがするのです。
『メルティブラッド Re・ACT』で、暴走アルクェイド=朱い月は、殺した相手にこんな言葉をかける。
「ソコ」とは第六。第六が成就したら、人類の命はすべてひとつにまとまり、朱い月を構成する要素になる。
そういえば、なぜメルティブラッドは『メルティブラッド』という名前なのか。
人間の《血》を際限なく吸い上げて集積し、その集積した血も《溶かして》まとめて一つにし、「ひとつの究極の存在」を作る計画の一端だから……みたいなふうに考えれば、それなりに筋が通る。
●闇色の六王権
さっき「人の血を集めさせた死徒二十七祖を溶かしてひとかたまりにする」と書きましたが、二十七体でなくとも、「六体」あればよさそうな感じです。
というのも、旧設定の死徒二十七祖の第二位に「the dark six」という、めちゃめちゃ思わせぶりなやつがいるからです。
「six」で「六王権」なので、「こいつ第六と何か関係あるんじゃないの」というのは、かなり昔からユーザー内で言われてきました。
『月姫』のファンディスク『歌月十夜』に、いつか発表されるかもしれない幻の『月姫2』の予告編が収録されています。
それによれば、『月姫2』の正式タイトルは『月姫2 The Dark Six』とのこと。
予告編内には、誰とも分からない謎の人物の、こんなセリフが入っています。
そして前にも引用した通り、『Character material』にはこういう地の文があります。
情報のスキマを埋めると、以下のようになりそうだ、と考えます。
「死徒二十七祖のうち6人が集まれば六王権が発動し、the dark sixがよみがえる。それこそが『第六』である」
前段で展開した仮説と足し合わせるとこうなる。
「the dark sixとは、人の血を吸い上げて強力な存在となった死徒6名を融合し、朱い月を降臨させるための素体とする儀式である。死徒たちはこれを『第六』と呼んでいる」
(この過程、もしくは結果において、全人類の命は吸い上げられて絶滅する)
(地球表面に貼られている織物テクスチャーをバッとひっぺがしてきんちゃくみたいにキュっと絞れば、人類の生命がひとかたまりになるのかもしれないし、ついでに地球は朱い月の望み通り真世界に戻るのかもしれない)
●the dark sixは二十七祖を「束ねる」
さて、そこで、前記の『月姫読本』。the dark sixの項をもういっかい見直してみる。
the dark sixは死徒二十七祖を束ねる。
この「束ねる」はふつうに読んだら、「リーダーになる」くらいに受け取れます。
でもこれ、ひょっとしてダブルミーニングじゃないかしら。
「束ねる」が文字通り「束(たば)にする」という意味を含んでいるとしたらどうだろう。
死徒二十七祖は、人間の命を吸い上げる。つまりは、全人類の命を、二十七本の管で吸い上げて束ねる。
死徒二十七祖のリーダーとなったthe dark sixは、死徒二十七祖の命を吸い上げる。つまり、全人類の命を束ねた二十七本の管を、一本に「束ねる」。
そうしてthe dark sixは、全人類の命が一束に束ねられたものとなる。その状態になってようやく、the dark sixは、朱い月がおりてくるだけの価値のある素体となる。
●冬木の聖杯システムとの類似
the dark sixの正体が、
「6名の強大な存在を融合してひとつにする」
ものである、
というアイデアをOKだとすると、これは、
「冬木の聖杯システム」
の構造と酷似しています。
冬木市の聖杯戦争(そのシステム)は、
「英霊6人ぶんの魂を融合して奇跡を起こす」
というコンセプトで成立していました。
酷似しているというか、生成物以外はまったく同じだ。
本稿(一連の投稿)が提示している説では、冬木の聖杯システムは、
「ジーザス・クライスト(イエス・キリスト)を擬似的に再生する儀式」
です。
並べるとこうなる。
・冬木聖杯戦争:英霊6名を融合して「神の子」(救済)を再生する。
・the dark six:死徒6名を融合して「魔王」(絶滅)を再生する。
奈須きのこさんはウェブ日記で、
「Fateの世界と月姫の世界は、同一ではなく、ルールが異なる並行世界だ」
ということを発言なさっています。
■■のところには、否定とか焼却とか「吸血」とかいった、ようは著しくマイナスの意味を持つ言葉が入るのだと思います。
奈須きのこさんがおっしゃるには、月姫の世界では英霊召喚はできない。
ということは、Fate世界には冬木の聖杯システムが存在するが、月姫世界には聖杯システムも冬木の聖杯戦争も存在しないことになる。
ここからは私の考えですが、月姫世界には「冬木聖杯システムが存在しないかわりに」the dark sixが存在するってことなんじゃないかと思うのです。
ようは、冬木の聖杯システムとthe dark sixは「並行世界における同一存在」。本質的に同じものなので、ひとつの世界にはどっちか片方しか存在できないという関係にあるのではと考えました。
とある一人の人物が、あっちの並行世界では善人だが、こっちの並行世界では大悪党だ、というようなことは、ありうることでしょう。英霊エミヤとエミヤオルタなんて、まさにそういう例でした。
冬木聖杯とthe dark sixはそういう関係にあるのではないか。「六体融合の大儀式」というアーキタイプがあって、Fate世界では善性のものとして顕現し、月姫世界では悪性のものとして顕現する。
そういうものとして見ることは可能かな、と考えました。
Fate世界には、死徒二十七祖に相当する吸血鬼は存在しているものの、「死徒二十七祖という枠組み」は存在していないとされます。
これは、「ゲーティアの人理焼却計画と、死徒二十七祖による人類総吸い上げ計画は、並行世界の同一存在だから」じゃないかと思うのです。
ようは「全人類の成果そのものをエネルギーに変換して大それたことをする」というアーキタイプがあって、Fate世界ではそれがゲーティアの人理焼却計画としてあらわれ、月姫世界では死徒二十七祖による第六としてあらわれる、くらいに考えると、私は個人的にすっきりします。
●ズェピアが挑んで敗れた第六法
「第六法」という言葉がやたら乱舞する作品といえば初代『メルティブラッド』。
『メルティブラッド』の黒幕ズェピア・エルトラム・オベローン(ワラキアの夜・タタリ)は「第六法と呼ばれる神秘」に「挑んで」「敗北した」とされます。
第六法とは、「挑んだり」「敗北したり」することができるものであるらしい。
ズェピア氏は、元アトラス院の錬金術師。
アトラス院は、魔術でスパコン的なものを作り、計算によって未来予知をしています。
未来予知の目的は「人類の滅亡を防ぐ」こと。
アトラス院の錬金術師は、「あ、このままいくと人類滅亡ルートだ」ということがわかると、そのルートに入り込まないように人類の選択肢を軌道修正する……ということをやっている模様です。
ようするに人類の歴史がアドベンチャーゲームだとすると、
「この選択肢を選んだらバッドエンドにいってしまう」
ということをあらかじめカンニングして、ちゃんと生存ルートを選ぶようにする。
ところが天才ズェピアは、未来予測の結果、
「どこでどんな選択肢を選んでも人類は絶対にバッドエンドにいきついて滅亡する」
ということを知ってしまった。
どんなに対抗策をねりあげても、滅びの未来しか見えない。
ズェピア氏は狂い始めた。狂ったまま滅びの回避方法を模索し続けた。その手段のひとつとして、自分を吸血鬼(死徒)化した。死徒になれば寿命も大幅に増えるし、能力も増強する。そうすれば計算量もあがるし、滅びの回避のためにできることがふえる。
重要な情報をまとめます。
・ズェピアの目標は人類滅亡の回避であった。
・ズェピアは第六法に挑んだが、敗北した。
・ズェピアはシステムを書き換えようとしたが、できなかった。
この三つをひとつにまとめて、方向性を与えてみると、以下のようになるんじゃないかと思うのです。
・この世界には、「人類は必ず滅ぶ」というシステム(プログラム)が書き込まれている。このプログラムを「第六法」という。
・ズェピアは、このプログラムを書き換えることで、人類滅亡を回避しようとした。
・しかしズェピアは書き換えに失敗した。
・世界に組み込まれた「プログラムを書き換えようとする者を排除するシステム」に攻撃されて、ズェピアの身体は霧散した。
そう。これまでは、「第六とは死徒たちによる人類滅亡&朱い月復活プログラムだ」としてきましたが、もうちょっと広く意味がとれそうなのです。
「この世には、人類が必ず滅ぶ、という運命があらかじめ書き込まれている。『第六法』とは、この滅び、および滅びが記述されたシステムのことである」
第六法とは、絶対に回避できない人類滅亡のことである。
ようするに、人類は環境汚染で滅ぶ。
核戦争で滅ぶ。
巨大隕石の衝突で滅ぶ。
パンデミックで滅ぶ。
死徒二十七祖に血のすべてを吸い尽くされて滅ぶ。
ゲーティアの人理焼却で滅ぶ。
アンリマユの泥に飲み込まれて滅ぶ。
プライミッツ・マーダーに全員噛まれて滅ぶ。
人間嫌いの荒耶宗蓮が根源に到達したことで滅ぶ。
オシリスの砂に人類全員賢者の石に変換されて滅ぶ。
朱い月によって滅ぶ。
何かの理由で滅ぶ。
このどれかが起こって滅ぶ。
ひとつの理由を回避しても、別のものが発生して滅ぶ。
滅びは必ず起こり、決して避けることができないという絶対のルールが「第六法」である。
このうち、死徒二十七祖がセリフとして言う「第六」は、「朱い月の復活に伴う人類絶滅」を指す場合がほとんどである。(彼らはそれを実現しようとしているので)
ズェピアは、「人類は必ず滅ぶ」という絶対のルールを、消しゴムと鉛筆で書き直そうとした。カーク船長が試験用プログラムを改ざんしてコバヤシマルテストをクリアした、みたいなことをしようとした。
『メルティブラッド』の主人公シオンは自称・霊子ハッカー。そしてズェピアはシオンの大師父。ズェピアもまたハッキングの達人であり、彼は「世界のルールをハッキング」しようとした……という考えは、私には腑に落ちます。
●第六魔法はすでに試みられている
人類は必ず滅ぶという絶対のルールが第六法である。
そのルールを実現するために、世界には大量の人類滅亡要因が配置されている。一個や二個、克服したところで、別のやつが起動して滅ぶ。
だけど、当然、その運命をただいたずらに受け入れるような人類ではないわけです。
TYPE-MOON作品の主人公たちは、だれもかれもみな、その運命と闘ってきたのではなかったか。
衛宮士郎とセイバーはアンリマユという人類滅亡要因に挑戦して克服しました。
ゼルレッチは朱い月という人類滅亡要因を一度はしりぞけた。
ズェピアは世界のルールをハッキングすることで克服しようとした。
死徒二十七祖トラフィム派の第六計画は、遠野志貴とエンハウンスが『月姫2』で阻止する予定だ(たぶん)。
そしてカルデアチームは、「ゲーティアの人理焼却」と「プライミッツ・マーダー」という、ふたつの人類滅亡要因をいちどに克服することに成功した。
人間が死ぬこと、人類が滅ぶことは、(ちょっとおかしな少数の人物を除いた)大多数の人類にとって「不幸」であるはずです。
その不幸をなんとかして克服しようとする人たちがいる。それが描かれている。
もしそれが克服されたとしたら、どうなるか。
人類が滅びに瀕し、だれもかれもがあきらめかけたところで、ぎりぎり滅びが回避される。
そのとき人は、まず泣いて、それから笑顔になるのではないだろうか。
命がつながり、人類の命運がつながる。それは幸せそのものではないだろうけれど、「幸せになるための次の一歩」を踏み出す余地は残される。「みんなが幸せになる」という願いの土台は残される。
私は、フワッとこういうことを思うのです。
「魔法」とは、「どんな手段をとったとしても絶対に実現不可能なことを実現すること」でした。
今、ここに、「人類は必ず滅ぶ」という、どんな手段をもってしてもくつがえせない現実があります。
だから私の説ではこうなる。
第六魔法とは、「《人類は必ず滅ぶという絶対のルール=第六法》の克服」だ。
だからこうなります。
第六法は、人類全体が一丸となって克服しなければならないものだ。
人類の終末を回避して、みんなで幸せになること。少なくとも、その手がかりを掴むこと。
それはおそらく、特定の個人が根源に接続して、奇跡の力でなしとげるものではなさそうだ。
人類全員で第六法を克服することが第六魔法だ。
それをなしとげたとき人類という群体ひとまとまりが魔法使いだ。
TYPE-MOON作品で書かれていることは、ほとんどすべてが第六魔法実現のための人間たちの苦闘だ。
『FGO』第一部の結末にて、どうして「人類滅亡要因プライミッツ・マーダーの克服」という物語が置かれているのか。
それは、『FGO』で真にフォーカスされていたのは、「ゲーティアの人理焼却の阻止」ではなかったから。
もっと大きな視点で、「人類が、滅亡要因をひとつひとつ克服していく」という姿を描くことが意図されていたから。
だと、私は思っています。
●初期三魔法を裏返したもの
ここまで論じてきた私の説をOKだとすると、初期三魔法(第一から第三)を、くるっと裏返したものが後期三魔法(第四から第六)だといえそうです。
裏返した……というか、第一から第三と、第四から第六は、一対一で対応していそうな感じがする。
以下のようなことです。
■第一魔法:根源の「存在」の発見
■第四魔法:根源の「不在」の発見
●共通点 :世界のありかたを再定義した
■第二魔法:現行世界と無関係な別世界の事象の入手
■第五魔法:原因と結果の間にある関係性の操作
●共通点 :擬似的な現実変更・疑似時間旅行・使用者の現存
■第三魔法:個体としての人間の限界の突破
■第六魔法:人類の未来をふさいでいる限界の突破
●共通点 :人を新たなステージに導く・現状実現不能
今回はここまでです。次回の内容は、ズェピアの思惑、第六魔法の話の続き、ネロ・カオス、ロアに関する余談。
続きはこちらです。TYPE-MOONの「魔法」(6):「第六法」と「第六魔法」という双子
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※ご注意●本稿は現実に存在する筆者(Townmemory)の思想・信条・思考・研究結果を表現した著作物です。内容の転載・転用・改変等を禁じます。紹介ないし引用を行う際は必ず出典としてブログ名・記事名・筆者名・URLを明示しなければなりません。ネットで流布している噂ないし都市伝説の類としての紹介を固くお断りします。これに反する利用に対して法的手段をとる場合があります。
※『うみねこのなく頃に』はこちらから→ ■うみねこ推理 目次■
TYPE-MOONの「魔法」(5):第六法という人類滅亡プログラム
筆者-Townmemory 初稿-2022年3月26日 13時31分12秒
今回は第六魔法と第六法を取り上げます。
本稿はTYPE-MOON作品の世界観に設定されている「魔法」に関する仮説です。五回目です。第一回から読まないと意味をなしません。以下のリンクから順番にお読みください。
これまでの記事は、こちら。
TYPE-MOONの「魔法」(1):無の否定の正体
TYPE-MOONの「魔法」(2):初期三魔法は循環する
TYPE-MOONの「魔法」(3):第四魔法はなぜ消失するのか
TYPE-MOONの「魔法」(4):第五の継承者はなぜ青子なのか
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●第六って本当に良いものかしら?
まだ実現されてはいないが、『第六魔法』というものが予見されています。
『空の境界』の限定愛蔵版に付録としてついてきた「空の境界設定用語集」に、
「まだ実現できていない魔法を黒桐幹也が言い当てている」と書いてあるそうです(筆者は未見)。
『空の境界』に、こんなくだりがありました。
いつか――人間は魔法そのものを排除してしまうだろう。幼い頃、不思議に思えた様々な出来事に惹かれて科学者になった青年が、研究を重ねるうちにその不思議自体をただの現象に引きずり下ろしてしまうみたいに。奈須きのこ『空の境界 上』講談社ノベルズ版 p.327
「ふぅん。そうなると最後の魔法っていうのは、みんなを幸せにする事くらいになっちゃうな」
なので、大雑把にいうとこうなります。
・第六魔法には、「みんなを幸せにする」と表現できるような現象が付随する。
これはハッピーですね。いいですね。
と、言い切れればよかったんですが、どうも額面通りでないふしがある。例えばこれ。
三つ目で終わっていれば良かったのに、と誰かが言った。『魔法使いの夜』
『魔法使いの夜』の地の文には、「第三魔法までで打ち止めだったらよかったのに、その後にいろいろ出てきたからいけない」というぼやきがあるのです。
本稿(一連の投稿)の説では、第一から第三までの魔法は、「循環しながら人類にプラスの効果をもたらす」ものでした(初期三魔法循環説)。おおむね、いいことずくめだったのです。
ところが、本稿(一連の投稿)の説における第四魔法は、
「この世界(宇宙)が、まるごと無に飲み込まれる危険がある」
というものでした(第四魔法=非実在世界観測説)。
また『魔法使いの夜』で語られたことによれば、第五魔法は「使いようによっては宇宙の終焉が早まる」といったことがあるようです。
この流れでいくと、
・第一から第三まで:人類にプラスの効果をもたらす。
・第四から第六まで:人類にマイナスの効果をもたらす。
というような構成になっていそうな予感がぷんぷんする。
●第六魔法と第六法って同じものなの?
『メルティブラッド』シリーズには、「第六法」「第六」という用語が、何の説明もなしに使われています。
第三魔法のことを「第三法」、第五魔法のことを「第五法」と呼ぶような用例があるので、「第六法とは第六魔法のことだろう」と多くの人が考えています。
用例を抜き出してみましょう。
招集される祖は少なくとも六鬼。『Character material』
第六は死徒たちにとっての悲願だ。
(ネロ・カオス)『MELTY BLOOD Re・ACT』
この世の果て、秩序が第六に敗れるその日まで、秩序の裏で生き続けよう
(暴走アルクェイド=朱い月が、蒼崎青子に対して)『MELTY BLOOD Re・ACT』
忌まわしい秩序の飼い犬……!
第六法を待つまでもないわ、おまえたちは私の手で一人残らず消し去ってやる……!
どうも不吉なことしか言ってない感じですね。
ここで書いてあることをわかりやすく言い換えてみると、
・「第六」は死徒(後天的吸血鬼)たちが実現したがっていることだ。
・いずれ秩序は「第六」に敗北するだろう。
・「第六法」がやってきたらおまえたちは死ぬが、そのまえに私(ここでは朱い月さん)がおまえたちを殺す。
ちなみに、これらのことを言っている話者は、全員が吸血鬼かそれに類する人です。細かいところをさっぴいて、フワッと印象だけ取り出すと、
「吸血鬼たちによる人類絶滅」
にしか見えない感じです。
「第六」「第六法」が語られるとき、ワンセットで「秩序」という言葉が出てきがちなところにも、注目したいところです。
ここでいう「秩序」って、どういう意味なんだ。
暴走アルクェイド(朱い月)に「秩序の飼い犬」って呼ばれているのは第五魔法の使い手・蒼崎青子です。
蒼崎青子は、人類のために戦っている感じがひしひしとする人ですし、この語が使われている状況をざっと眺めてみると、おおざっぱに、
「人間が世界を支配しているという現在の状況」
くらいのことを、「秩序」って呼んでいるっぽい。
……ちょっとだけ余談になりますが、秩序がそのくらいの意味だとすると、これは『FGO』で語られている、
「人理」
という言葉に、ちょっと意味が近い。
こちらによれば、人理とは「人類をより強く永く繁栄させるための理」だそうです。
ようするに、死徒たちによって「第六法」が成立したら、人類社会は終焉をむかえる(秩序が第六に破れる)し、人間は絶滅するだろう、くらいのことが言われていそうだ。
この語(第六)のイメージは、第六魔法として語られている「みんなを幸せにする」とはまったく正反対だ。
だから、いったんこういう仮説を置くべきだと思うのです。
・「第六魔法」と呼ばれているものと、「第六法」(第六)は、別のものである。
・第六魔法は、人類の幸福という効果をもたらすものである。
・いっぽう、「第六」のほうは、吸血鬼たちによるアポカリプス計画である。
ただ、全然関係ないものかというと、そうでもなさそうで、密接に関係しているというかほとんど表裏一体のもののような感じもしています。けれど、まずはいったん「両者は別もの」として考えてみたらどうでしょう。
とにかくまずは上記のような「仮説」を置いて、間尺に合わないところが出てきたら修正していきましょう。
●朱い月のブリュンスタッド登場
「朱い月のブリュンスタッド」という人物がいて、TYPE-MOON世界観における、黒幕中の黒幕とされています。
(そもそも「TYPE-MOON」とは、朱い月のブリュンスタッド氏のことです)
この人は「月の王様」とも呼ばれていて、ザックリした言い方をすると「月の意思が人の形をとったもの」くらいの感じ。
朱い月のブリュンスタッドが地球にやってきた目的は、「地球をまるごと自分のものにする」ためでした。
でも地球には「星の抑止力」「霊長の抑止力」というふたつの防御機構があります。星の抑止力は地球にとって危険な異物を排除するシステム。霊長の抑止力は人類にとって危険なものを排除するシステムです。
朱い月のブリュンスタッドは、いずれ自分が抑止力によって消滅させられることはわかっていたので、あらかじめ自分のスペアボディを作っておくことにしました。自分が消滅しても、スペアボディに乗り移って復活すればいいという考えでした。
地球で作ったスペアボディは異物ではないので抑止力の排除対象にならないというもくろみもありました。
(『歌月十夜』に、朱い月と同等の純度を持った肉体が発生したら、そこに朱い月が憑依する、という意味のことが書いてある)
まず、地球の意思をだまして、自分そっくりの生き物を生成させました。この生き物を「真祖」といいます。真祖は、人間とは比較にならないほど超高性能の人型生物となりましたが、朱い月の身体として使用するにはちょっと性能が足りなかった。
しかも、朱い月をモデルに作ったので、朱い月と同様の「人間の生き血を吸いたがる」という欠陥を抱えてしまっていました。
しかたないので朱い月は、「死徒二十七祖」という制度を作ったようです。
死徒というのは、(おおむね)真祖に噛まれて吸血鬼になった元人間たちです。朱い月は、死徒の中で特に力のある者たちに、「決して劣化することなく永遠に生き続ける存在になる方法」を探求させている……らしい。
死徒二十七祖の誰かがこの研究に成功したあかつきには、それを自分の素体として、自分が永遠の存在になる……といったことを模索したもようです。
(またおなじく『歌月十夜』に、「朱い月の憑依できる真祖が生まれないので、しかたなくわるあがきとして死徒二十七祖を作ってみた。アルトルージュはそこそこうまくできたけど朱い月が憑依できるほどの純度ではない」くらいのことが書いてある)
朱い月のブリュンスタッド本人は、現在は第二魔法の使い手ゼルレッチによって滅ぼされており、自分の素体となりうる存在が世界のどこかに発生する日を待っています。ようするに復活の日を待ち望んでいる魔王なんだって考えるとわかりやすい。
(注:ここでいう魔王は、ドラクエ、ロープレ的な意味の魔王ね。TYPE-MOON用語での魔王とは違います)
そんな朱い月さん。前項の引用分で示したとおり、「第六法が成り立ったらおまえら全員滅ぶんだ」みたいなことを言っております。
そして朱い月の配下である死徒たちは、「第六は死徒の悲願だ」と言っているわけです。
以上のような情報を、ふわっとつかんでふわっとまとめると、だいたい以下のような感じになるんじゃないか、と私は考えるのです。つまり、
・朱い月は、「私一人の値打ちは《全人類の全生命》とだいたい同じくらいだ」と思っている。
(天秤に乗せたら、自分一人と全人類でだいたい釣り合うか、ちょっと自分のほうが重い、くらいに思ってる)
・全人類の命を吸い上げてひとまとめにし、それを人型に成形したら、私が憑依するにふさわしい永遠の存在になりそうではないか。
・そのために死徒を使えばいい。
・死徒二十七祖たちに人間の命を一人残らず吸い上げさせ、ブクブクに太らせたあげく、その二十七祖たちを融合させてひとかたまりにすれば、「全人類の命をひとつにまとめたもの」ができる。
・これで人型を作れば、私はそこに降霊して、完全復活することができる。
この計画および目的の成就のことを「第六」っていってそうな感じがするのです。
『メルティブラッド Re・ACT』で、暴走アルクェイド=朱い月は、殺した相手にこんな言葉をかける。
(暴走アルクェイド)『MELTY BLOOD Re・ACT』
先に逝きなさい。
いずれ、みんなソコに連れて行ってあげるから。
「ソコ」とは第六。第六が成就したら、人類の命はすべてひとつにまとまり、朱い月を構成する要素になる。
そういえば、なぜメルティブラッドは『メルティブラッド』という名前なのか。
人間の《血》を際限なく吸い上げて集積し、その集積した血も《溶かして》まとめて一つにし、「ひとつの究極の存在」を作る計画の一端だから……みたいなふうに考えれば、それなりに筋が通る。
●闇色の六王権
さっき「人の血を集めさせた死徒二十七祖を溶かしてひとかたまりにする」と書きましたが、二十七体でなくとも、「六体」あればよさそうな感じです。
というのも、旧設定の死徒二十七祖の第二位に「the dark six」という、めちゃめちゃ思わせぶりなやつがいるからです。
2/the dark six宙出版『月姫読本 PLUS PERIOD』p.181
最初の死徒。闇色の六王権。現在蘇生中。
蘇生した暁には死徒二十七祖を束ねる、といわれるがコレの正体を知る使徒はいない。
「six」で「六王権」なので、「こいつ第六と何か関係あるんじゃないの」というのは、かなり昔からユーザー内で言われてきました。
『月姫』のファンディスク『歌月十夜』に、いつか発表されるかもしれない幻の『月姫2』の予告編が収録されています。
それによれば、『月姫2』の正式タイトルは『月姫2 The Dark Six』とのこと。
予告編内には、誰とも分からない謎の人物の、こんなセリフが入っています。
―――私を含めて祖は六人。条件付けも素晴らしい。『歌月十夜』
これならば―――六王権が発動する。
そして前にも引用した通り、『Character material』にはこういう地の文があります。
招集される祖は少なくとも六鬼。『Character material』
第六は死徒たちにとっての悲願だ。
情報のスキマを埋めると、以下のようになりそうだ、と考えます。
「死徒二十七祖のうち6人が集まれば六王権が発動し、the dark sixがよみがえる。それこそが『第六』である」
前段で展開した仮説と足し合わせるとこうなる。
「the dark sixとは、人の血を吸い上げて強力な存在となった死徒6名を融合し、朱い月を降臨させるための素体とする儀式である。死徒たちはこれを『第六』と呼んでいる」
(この過程、もしくは結果において、全人類の命は吸い上げられて絶滅する)
(地球表面に貼られている織物テクスチャーをバッとひっぺがしてきんちゃくみたいにキュっと絞れば、人類の生命がひとかたまりになるのかもしれないし、ついでに地球は朱い月の望み通り真世界に戻るのかもしれない)
●the dark sixは二十七祖を「束ねる」
さて、そこで、前記の『月姫読本』。the dark sixの項をもういっかい見直してみる。
蘇生した暁には死徒二十七祖を束ねる、といわれるがコレの正体を知る使徒はいない。宙出版『月姫読本 PLUS PERIOD』p.181
the dark sixは死徒二十七祖を束ねる。
この「束ねる」はふつうに読んだら、「リーダーになる」くらいに受け取れます。
でもこれ、ひょっとしてダブルミーニングじゃないかしら。
「束ねる」が文字通り「束(たば)にする」という意味を含んでいるとしたらどうだろう。
死徒二十七祖は、人間の命を吸い上げる。つまりは、全人類の命を、二十七本の管で吸い上げて束ねる。
死徒二十七祖のリーダーとなったthe dark sixは、死徒二十七祖の命を吸い上げる。つまり、全人類の命を束ねた二十七本の管を、一本に「束ねる」。
そうしてthe dark sixは、全人類の命が一束に束ねられたものとなる。その状態になってようやく、the dark sixは、朱い月がおりてくるだけの価値のある素体となる。
●冬木の聖杯システムとの類似
the dark sixの正体が、
「6名の強大な存在を融合してひとつにする」
ものである、
というアイデアをOKだとすると、これは、
「冬木の聖杯システム」
の構造と酷似しています。
冬木市の聖杯戦争(そのシステム)は、
「英霊6人ぶんの魂を融合して奇跡を起こす」
というコンセプトで成立していました。
酷似しているというか、生成物以外はまったく同じだ。
本稿(一連の投稿)が提示している説では、冬木の聖杯システムは、
「ジーザス・クライスト(イエス・キリスト)を擬似的に再生する儀式」
です。
並べるとこうなる。
・冬木聖杯戦争:英霊6名を融合して「神の子」(救済)を再生する。
・the dark six:死徒6名を融合して「魔王」(絶滅)を再生する。
奈須きのこさんはウェブ日記で、
「Fateの世界と月姫の世界は、同一ではなく、ルールが異なる並行世界だ」
ということを発言なさっています。
英霊がサーヴァントとして使役できるFate世界と、『竹箒日記 : 2017/04』(■■は原文ママ)
英霊なんて強大な概念を“自律した使い魔”なんて術式に落とし込めるワケねーだろ、という月姫世界ですね。
Fate世界の下地は『人類史を肯定するもの』なので英霊も主役として考えられますが、
月姫世界の下地は『人類史を■■するもの』なので、その敵対者である死徒たちが主題となる、みたいな違いです。
■■のところには、否定とか焼却とか「吸血」とかいった、ようは著しくマイナスの意味を持つ言葉が入るのだと思います。
奈須きのこさんがおっしゃるには、月姫の世界では英霊召喚はできない。
ということは、Fate世界には冬木の聖杯システムが存在するが、月姫世界には聖杯システムも冬木の聖杯戦争も存在しないことになる。
ここからは私の考えですが、月姫世界には「冬木聖杯システムが存在しないかわりに」the dark sixが存在するってことなんじゃないかと思うのです。
ようは、冬木の聖杯システムとthe dark sixは「並行世界における同一存在」。本質的に同じものなので、ひとつの世界にはどっちか片方しか存在できないという関係にあるのではと考えました。
とある一人の人物が、あっちの並行世界では善人だが、こっちの並行世界では大悪党だ、というようなことは、ありうることでしょう。英霊エミヤとエミヤオルタなんて、まさにそういう例でした。
冬木聖杯とthe dark sixはそういう関係にあるのではないか。「六体融合の大儀式」というアーキタイプがあって、Fate世界では善性のものとして顕現し、月姫世界では悪性のものとして顕現する。
そういうものとして見ることは可能かな、と考えました。
Fate世界には、死徒二十七祖に相当する吸血鬼は存在しているものの、「死徒二十七祖という枠組み」は存在していないとされます。
これは、「ゲーティアの人理焼却計画と、死徒二十七祖による人類総吸い上げ計画は、並行世界の同一存在だから」じゃないかと思うのです。
ようは「全人類の成果そのものをエネルギーに変換して大それたことをする」というアーキタイプがあって、Fate世界ではそれがゲーティアの人理焼却計画としてあらわれ、月姫世界では死徒二十七祖による第六としてあらわれる、くらいに考えると、私は個人的にすっきりします。
●ズェピアが挑んで敗れた第六法
「第六法」という言葉がやたら乱舞する作品といえば初代『メルティブラッド』。
『メルティブラッド』の黒幕ズェピア・エルトラム・オベローン(ワラキアの夜・タタリ)は「第六法と呼ばれる神秘」に「挑んで」「敗北した」とされます。
第六法とは、「挑んだり」「敗北したり」することができるものであるらしい。
ズェピア氏は、元アトラス院の錬金術師。
アトラス院は、魔術でスパコン的なものを作り、計算によって未来予知をしています。
未来予知の目的は「人類の滅亡を防ぐ」こと。
アトラス院の錬金術師は、「あ、このままいくと人類滅亡ルートだ」ということがわかると、そのルートに入り込まないように人類の選択肢を軌道修正する……ということをやっている模様です。
ようするに人類の歴史がアドベンチャーゲームだとすると、
「この選択肢を選んだらバッドエンドにいってしまう」
ということをあらかじめカンニングして、ちゃんと生存ルートを選ぶようにする。
ところが天才ズェピアは、未来予測の結果、
「どこでどんな選択肢を選んでも人類は絶対にバッドエンドにいきついて滅亡する」
ということを知ってしまった。
どんなに対抗策をねりあげても、滅びの未来しか見えない。
ズェピア氏は狂い始めた。狂ったまま滅びの回避方法を模索し続けた。その手段のひとつとして、自分を吸血鬼(死徒)化した。死徒になれば寿命も大幅に増えるし、能力も増強する。そうすれば計算量もあがるし、滅びの回避のためにできることがふえる。
(シオン)『MELTY BLOOD』(傍線は引用者による)
ズェピアと呼ばれた死徒は第六法と呼ばれる神秘に挑み、これに敗北したと言います。
……それでも流石に死徒と言うべきでしょうか、彼は完全に敗北した訳ではなかった。
システムそのものを書き換える事はできませんでしたが、システムに留まる事はできたのです。
第六法に敗れたズェピアの体は霧散した。
けれどその霧散は彼が望んだ通りの霧散でした。
重要な情報をまとめます。
・ズェピアの目標は人類滅亡の回避であった。
・ズェピアは第六法に挑んだが、敗北した。
・ズェピアはシステムを書き換えようとしたが、できなかった。
この三つをひとつにまとめて、方向性を与えてみると、以下のようになるんじゃないかと思うのです。
・この世界には、「人類は必ず滅ぶ」というシステム(プログラム)が書き込まれている。このプログラムを「第六法」という。
・ズェピアは、このプログラムを書き換えることで、人類滅亡を回避しようとした。
・しかしズェピアは書き換えに失敗した。
・世界に組み込まれた「プログラムを書き換えようとする者を排除するシステム」に攻撃されて、ズェピアの身体は霧散した。
そう。これまでは、「第六とは死徒たちによる人類滅亡&朱い月復活プログラムだ」としてきましたが、もうちょっと広く意味がとれそうなのです。
「この世には、人類が必ず滅ぶ、という運命があらかじめ書き込まれている。『第六法』とは、この滅び、および滅びが記述されたシステムのことである」
第六法とは、絶対に回避できない人類滅亡のことである。
ようするに、人類は環境汚染で滅ぶ。
核戦争で滅ぶ。
巨大隕石の衝突で滅ぶ。
パンデミックで滅ぶ。
死徒二十七祖に血のすべてを吸い尽くされて滅ぶ。
ゲーティアの人理焼却で滅ぶ。
アンリマユの泥に飲み込まれて滅ぶ。
プライミッツ・マーダーに全員噛まれて滅ぶ。
人間嫌いの荒耶宗蓮が根源に到達したことで滅ぶ。
オシリスの砂に人類全員賢者の石に変換されて滅ぶ。
朱い月によって滅ぶ。
何かの理由で滅ぶ。
このどれかが起こって滅ぶ。
ひとつの理由を回避しても、別のものが発生して滅ぶ。
滅びは必ず起こり、決して避けることができないという絶対のルールが「第六法」である。
このうち、死徒二十七祖がセリフとして言う「第六」は、「朱い月の復活に伴う人類絶滅」を指す場合がほとんどである。(彼らはそれを実現しようとしているので)
ズェピアは、「人類は必ず滅ぶ」という絶対のルールを、消しゴムと鉛筆で書き直そうとした。カーク船長が試験用プログラムを改ざんしてコバヤシマルテストをクリアした、みたいなことをしようとした。
『メルティブラッド』の主人公シオンは自称・霊子ハッカー。そしてズェピアはシオンの大師父。ズェピアもまたハッキングの達人であり、彼は「世界のルールをハッキング」しようとした……という考えは、私には腑に落ちます。
●第六魔法はすでに試みられている
人類は必ず滅ぶという絶対のルールが第六法である。
そのルールを実現するために、世界には大量の人類滅亡要因が配置されている。一個や二個、克服したところで、別のやつが起動して滅ぶ。
だけど、当然、その運命をただいたずらに受け入れるような人類ではないわけです。
TYPE-MOON作品の主人公たちは、だれもかれもみな、その運命と闘ってきたのではなかったか。
衛宮士郎とセイバーはアンリマユという人類滅亡要因に挑戦して克服しました。
ゼルレッチは朱い月という人類滅亡要因を一度はしりぞけた。
ズェピアは世界のルールをハッキングすることで克服しようとした。
死徒二十七祖トラフィム派の第六計画は、遠野志貴とエンハウンスが『月姫2』で阻止する予定だ(たぶん)。
そしてカルデアチームは、「ゲーティアの人理焼却」と「プライミッツ・マーダー」という、ふたつの人類滅亡要因をいちどに克服することに成功した。
人間が死ぬこと、人類が滅ぶことは、(ちょっとおかしな少数の人物を除いた)大多数の人類にとって「不幸」であるはずです。
その不幸をなんとかして克服しようとする人たちがいる。それが描かれている。
もしそれが克服されたとしたら、どうなるか。
人類が滅びに瀕し、だれもかれもがあきらめかけたところで、ぎりぎり滅びが回避される。
そのとき人は、まず泣いて、それから笑顔になるのではないだろうか。
命がつながり、人類の命運がつながる。それは幸せそのものではないだろうけれど、「幸せになるための次の一歩」を踏み出す余地は残される。「みんなが幸せになる」という願いの土台は残される。
私は、フワッとこういうことを思うのです。
「魔法」とは、「どんな手段をとったとしても絶対に実現不可能なことを実現すること」でした。
今、ここに、「人類は必ず滅ぶ」という、どんな手段をもってしてもくつがえせない現実があります。
だから私の説ではこうなる。
第六魔法とは、「《人類は必ず滅ぶという絶対のルール=第六法》の克服」だ。
だからこうなります。
第六法は、人類全体が一丸となって克服しなければならないものだ。
人類の終末を回避して、みんなで幸せになること。少なくとも、その手がかりを掴むこと。
それはおそらく、特定の個人が根源に接続して、奇跡の力でなしとげるものではなさそうだ。
人類全員で第六法を克服することが第六魔法だ。
それをなしとげたとき人類という群体ひとまとまりが魔法使いだ。
TYPE-MOON作品で書かれていることは、ほとんどすべてが第六魔法実現のための人間たちの苦闘だ。
『FGO』第一部の結末にて、どうして「人類滅亡要因プライミッツ・マーダーの克服」という物語が置かれているのか。
それは、『FGO』で真にフォーカスされていたのは、「ゲーティアの人理焼却の阻止」ではなかったから。
もっと大きな視点で、「人類が、滅亡要因をひとつひとつ克服していく」という姿を描くことが意図されていたから。
だと、私は思っています。
●初期三魔法を裏返したもの
ここまで論じてきた私の説をOKだとすると、初期三魔法(第一から第三)を、くるっと裏返したものが後期三魔法(第四から第六)だといえそうです。
裏返した……というか、第一から第三と、第四から第六は、一対一で対応していそうな感じがする。
以下のようなことです。
■第一魔法:根源の「存在」の発見
■第四魔法:根源の「不在」の発見
●共通点 :世界のありかたを再定義した
■第二魔法:現行世界と無関係な別世界の事象の入手
■第五魔法:原因と結果の間にある関係性の操作
●共通点 :擬似的な現実変更・疑似時間旅行・使用者の現存
■第三魔法:個体としての人間の限界の突破
■第六魔法:人類の未来をふさいでいる限界の突破
●共通点 :人を新たなステージに導く・現状実現不能
今回はここまでです。次回の内容は、ズェピアの思惑、第六魔法の話の続き、ネロ・カオス、ロアに関する余談。
続きはこちらです。TYPE-MOONの「魔法」(6):「第六法」と「第六魔法」という双子
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