冠着山(かむりきやま)…別名「姨捨山(おばすてやま)」です。
長野市から上山田温泉方面に向かう道すがら千曲川を挟んだ対岸に見える山並の
一部に、頂の下に猪の牙のような小さな岩が目印となります。
平安の御世から大和物語、今昔物語などにも登場し、また月見の名所として松尾芭蕉も
この山にかかる中秋の名月を見にきたそうです。麓には斜面にへばりつくようにいくつも
作られた棚田の水面に映る月が「田毎の月」として有名です。
山に囲まれた信州でも山そのものは標高もそれほど高くなく(1200m程度)
目立つ山でもなく、隣市へ行くと全く人々の口にもあがらない山です。
けれども姨捨山の名前だけは、姨捨伝説とそれを題材にした深沢七郎の名作「楢山節考」
で、大変有名で、実際にそのモデルとなっている山がほんの近くにあることや
まして家から見える山(家からも見えます)であることは、私の住んでいる地域の人々
はほとんど知らない。
そんな知名度だけが優先している例がもうひとつ。
松谷みよ子さんの児童文学の「龍の子太郎」ですが、こちらも全国で知らない人はいない
ほど有名な伝説ですが、これも私の住んでいる市内(山の方)に残る伝説が元となって
います。でも同じ市内でこれを知っている人は大変少ないです。
姨捨伝説にはいくつかの説話があるようですが、
飢饉が続き食べるものも無かった時代、60歳になった年にはそのお年よりを姨捨山
に捨てに行くきまりがあり、村人は従っていたのですが、ある若者はどうしてもそれが
出来ず、一度山へ母親を連れて行くが、翌日には迎えに行き人目のつかない場所に隠し
ます。その頃殿様の所に難題が起こっていました。3つの難しい問題を解かないと
その国が滅ぼされるとのことでした。けれども国中のだれもが解けない問題を、その
老婆が簡単に解いてしまいます。その話を聞いた殿様は改心して、以降お年寄りを
大切にし、尊ぶようになったそうです。
深沢七郎の「楢山節考」はこの伝説を感動的に蘇らせた名作で、是非沢山の人に、特に
子供達が大人になる前に読んでもらいたい作品です。