○○孝行

私の友達からの話です。

友達の家の近くにＤさんという人がいます。
Ｄさんは母親の介護を１０年続けています。
ディホームに週３日行っていますが、後の４日はＤさんが自宅で面倒をみています。
母親は、上手く歩けず、トイレも２時間おきだとか。
夜中でも、ベットサイドのトイレで、思うように出来ないと、Ｄさんを呼ぶそうです。
なので、Ｄさんは、
「いつも仮眠で、ベットでは寝られない。
もう、くたくたで、これ以上お母さんの具合が悪くなったら、どうしようかと思っている。」
と言っているそうです。
Ｄさんの家は資産家で、かの有名な東京の高級住宅地に広い敷地の家を構えています。
長男のお嫁さんは、同じ敷地に住んでいるけれどノータッチ。
後々、ものすごい財産を継ぐのに、お義母さんの面倒は一切看ないらしい。
お嫁さんは、
「私の親じゃないから」
と、はっきり言っているそうです。
長男夫婦は、二人で地域の活動に力を入れているそうですが、
「”力を入れる所が違うでしょ”と思う。」
と友達は言っていました。
Ｄさんには、弟もいるけれど、Ｄさん任せ。
どうしてもと言う時は、変わってくれるらしいですが。

以前、友達は、Ｄさんと日帰りで京都に桜を見に行ったので、今年の春も誘ってみたけれど、無理だと言われたそうです。
「歩くのが大変だし、２時間おきのトイレでは、弟に頼むのも無理だろう。」
と、Ｄさんは言うそうです。
インシュリンの注射を打ったりするのも毎朝Ｄさんがやっているので、それを、頼める人がいないのと、母親自身もショートスティは嫌だと言い、
「私が死んでから、どこでも好きな所に行けばいい。」
と言っているそうです。
なので、Ｄさんは、介護が終わるまで、旅行も行けないと言っているとか。

その友達も、両親の介護の経験者です。
「父親の介護の６年のうち、ストレスが最高潮で、一度だけ一泊で軽井沢に行ったけれど、車で家を出た途端、父が心配で戻りたくなった。
そんなことがあったので、旅行はそれだけで、それ以外どこにも行かなかった。
だから、Ｄさんが旅行に行きたいけれど、行かない気持ちが良くわかる。
私がＤさんに出来る事は、せいぜい一緒にランチをするか、買い物をするか位で、後、たまに夕食のおかずを届ける事かな。」
と言います。
「Ｄさんも大変、私も大変だったけど、決して親の介護は嫌じゃない。親が好きだったから、出来るんだと思う。親の介護で得られた事もいっぱいある。その大変さがあって、成長出来た事もある。終わってみれば、大好きな親との共有時間は、財産だ。確かにその最中は、いろんな葛藤との戦いだけどね。それでも私の介護は楽だったと思うよ。
今でも最後まで、父と母を自宅で見守れたのは、主人と息子の協力があったから出来たと思っている。
けれど、Ｄさんは一人でやっているから、私の何倍も大変だと思う。」
と友達は言っていました。

『子孝行』と言う言葉をご存知ですか？
子供に介護などの世話をさせないうちに亡くなった親のことを、”子供に孝行をしてくれた”と言う意味で使うそうです。
友達は、この言葉が嫌いだと言います。

「ある人が、
『Ｄさんは親の介護で大変だけど、私達は親の介護をしなくて、幸せだ』
と言ったの。
『父親はこたつに入っていてそのまま亡くなっていて、母親は、悪くなってすぐに病院に入れてしまったから、介護をしなくて済んだ。だから、自分たちは、幸せだ』と言うんだけど、そう言われた事が、なんだか、嫌な気がした。
『介護して大変ね』とは言ってもいいけれど、『私達は介護しないから、幸せ』と言うのは、なんだか私達が不幸だと言われているみたいで、Ｄさんも聞いたら嫌な気持ちがするだろうなと思った。」
と言います。

私も義母が亡くなったとき、会社の人から「あなたのお姑さんは嫁さん孝行ね」
と言われました。
くも膜下出血で突然倒れて、そのまま意識が戻らず、１ヶ月後に亡くなったからです。
私たち家族の手を煩わせずに亡くなったから、嫁さん孝行だということらしい。。
そう言われた時も、私はイヤーな気分になりました。
確かにたいした介護をすることなく、義母は亡くなってしまいましたが、それが良かったとは思えず、逆に心残りや後悔もたくさんありました。
これが、寝たきり状態が長い間続くようなら私たちも参っていたかもしれません。
そういう意味では『嫁さん孝行』、そんな風に言うのかも知れませんが、あまり響きの良くない言葉だなと思いました。
『親孝行』という言葉は、純粋に褒め言葉だと思いますが、それ以外の『孝行』は、言われて気持ちのよくないものもあると思いました。

介護と言う重い内容の話ですが、物事ちょっとした言い方一つで受け取り方も違うという話で締めくくりたいと思います。