『さよなら、田中さん』でデビューした現役中学生、鈴木るりかの2作目なのかなこれは。小さい頃から図書館に通い本が大好きだったとNHKで見ました。小学4年生から3年連続で小学館主催の『12歳の文学賞』大賞受賞とのこと。
どんなもんかなと思って「さよなら、田中さん」を図書館で借りたのですが、1ページ目を読んで文章が上手いと納得はしたものの読み切れず返却。今回リベンジでした。
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ちゃんと読んでみると思っていたよりずっと良くてびっくり。この方、志賀直哉と吉村昭が好きな作家とあるし、小説のなかに山本周五郎(の本)が出てくるので自分的にとても相性がいい文章というか、好きなタイプの小説でした。
地方の中学校が舞台の、中2女男それぞれが一人称で自分の身辺を語る短編連作。各話のタイトルを並べると中学校の一日というつくりです。難しい言葉を使わず読みやすいのに語彙が豊富で表現力が豊かだなあと思いました。コミカルと哀愁のバランスがいいです。以下、各話の感想メモを。
「国語」中学生作家として注目を浴びた本人の話かと感じさせる。小説家志望の先生に振り回されるコミカルな話。
「家庭科」家庭科が壊滅的に苦手な母を持つ家庭科得意少女の話。初恋以前の淡い感情がみずみずしい。考え方は大人びてくるが、居場所を選べない子どもたちであることに気づく。コミカルに始まるけど最後は切なく落とし読後感がみごと。
「道徳」失踪癖のある父といいかげんな母を持つ男子のお話。かなりワケアリと思しき大人たちの現在の描写だけでかなりの読み応え。ここで、すべての話に出てくる「中原くん」の存在をキャッチしてわくわくした。
「数学」父親の仕事の関係で、高校から東京で暮らすので受験に備える男子の話。今までそこそこの成績だったのが都立を目指すとなるとワケが違うと焦る描写や、自己分析が身につまされる子もいるのでは。中原くんの包容力の大きさを感じて、良い話。
「昼休み」文学少女を隠れ蓑にする、ぼっち少女の話。両親も「孤独上等」なのがいっそ清々しいが、中学時代はつらいわな。ここで中原くんの役割に大いに期待する自分がいた。そして期待通りで嬉しい。話は甘いようで切ないという完成度。
「体育」体育が壊滅的に苦手な少女の話。体育に対する呪わしい気持ちの描写が面白い。確かにスポーツ庁の目標「1億総スポーツ社会」はこういう子を絶望させるにはあまりある。
ワケありの兄を持つ中原くんや、容姿をお母さんにディスられ続ける友だちの話が切ない。お爺さんの話にもちょっと涙ぐんでしまう。自分の父親は戦争に行って27歳までしか生きられなかったから、自分はもう十分だとか、年を取って体や気力が弱って、死ぬ準備をどんどんしていく(からそれでいい)、でも「最後のひと粒が落ち切る瞬間までは生きている」と孫に教える場面だとか。「体育って自分の命を守る実学だったりすると思うよ」と言う中原くん男前だし。
「放課後」これはバラすとつまらないのでないしょで。現役中学生作家として、嫉妬や偏見をぶつけられることもあるだろう。それに対するしなやかな(決して攻撃的じゃなく、全部わかってますからほっといてという)反論に感じた。
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すべてに共通して登場する「中原くん」が一本の串のように作品を貫いて引き込まれます。同じ学校や町で暮らす人が各々の視点から語る話は「桐島、部活やめるってよ」「ラヴァーズ・キス」「どこから行っても遠い町」などなどを思い出しました。
「体育」では、主人公の茜が中原くんに「バレンタインは山本周五郎の命日以外のなにものでもない!」というので笑いました。山本周五郎私も好きだから勝手に親近感でした。
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