audibleにて。著者である高山真の自伝的小説。(小学館/2022年刊)朗読は声優の林祐人。
映画は観ていないけど映画化したことで知って聴いてみた。
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地方で生まれ育ち「女男」などと貶され虐められていた浩輔(こうすけ)は、14 歳のとき母を亡くす。大学進学を機に生きづらい田舎を捨て上京。30代の気ままな生活を謳歌するなかで、病気の母親を支えて生きる20代のパーソナルトレーナー、龍太と出会う。
亡き実母と自身の関係を龍太とそのに母に投影し、彼らにのめり込んでいくが、ふたりとの幸せな生活は長くは続かず、やがて残酷なできごとが…。
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最初のほうのあらすじだけ考えると、こういうBL読んだことあるような…という気もしたけれど、恋愛ものの甘さは少ない。というより、意外なほど「母親」への気持ちが溢れてしまっている話だった。
語り手である浩輔は、「なぜ自分は親に謝らないといけない生き方しかできないのか」と懊悩していたが、マイノリティの人々に限らず、親に対してすまない思いを抱えている人は多いだろう。別に謝る必要はないとしても。
彼の場合は同性愛者で結婚も子供も諦めているということ等だけど、私だって施設にいる母のことは、自分で面倒を見れないことを常に申し訳なく思っている。
ところで、自分も母親という存在ではあるのだが、自分とはかけ離れた遠い話、孝行息子と理想的なお母さんの話のようにも思えた。
確かに私も「子どもが大事な人を見つけて幸せだったらそれでいい」とは思うけど、この話の登場人物たちはあまりにものわかりが良くいい人たちすぎないだろうか。実際にあったことかは別として、これは作者が自分が言われたかった言葉なのではないのかな。
浩輔のことをエゴイストと責めることなどとてもじゃないけどできない。けれど、親は子どもが幸せなら良いと言ってもらえる理想を描いて自身の癒やしとしたようにも思えた。
なお、あとがきを映画で主演をつとめた鈴木亮平が書いている。作者へのリスペクトと演技に対する情熱にあふれた、理知的で秀逸な文章だった。