1905年にスウェーデンから独立したノルウェーは、デンマークの王族から「ホーコン7世」を国王として迎えます。政治は内閣が行いました。王様は象徴的な存在、という意味で日本の天皇制と同じです。
私は最近、正直言って天皇制はなくてもいいのではと、その意義を疑問視することがあったのですが、この映画は「民主主義の国で政治を行わない王様がどういう機能を果たすか、どうあるべきか」に気付くものがありました。
【あらすじ】
1940年、ナチス・ドイツはヨーロッパの覇権を狙い、中立国であるノルウェーに侵攻する。
「イギリスの攻撃からノルウェーを守ってやる」という名目でドイツに従うことを求められるが、ノルウェー政府はそれを拒否。本格的な攻撃が始まった。
首相や閣僚たちは弱腰で、ドイツの傀儡政権がクーデターを起こし事実上政権を握ってしまう。ヒトラーは国王に、攻撃をやめて欲しければ傀儡政権を認めろと迫る。つまり、国王が直々に国民に対して「ノルウェーはドイツの属国となったと示せ」と要求してきたのだ。
* * * 以下ネタバレになります
ヒトラーの命令で直接交渉を行ったのは、ノルウェー大使館駐留の外交官ブロイアー。この人、最初は凡庸な感じなのですが、なんとかノルウェーに要求を飲ませて平和的に解決したいと奔走するところ、人間味が出てきてよかったです。軍とノルウェー、奥さん(平和主義で頭脳明晰)との間で板挟みになるのがなんとも気の毒でした。
国王は、孫と遊ぶところから始まり、とても家族思いの良いおじいちゃんとして描かれています。ですが、弱腰内閣が総辞職しようとするのを毅然とした態度で止めたり、多少血気盛んな皇太子が「軍に任せたほうが」というところを厳しく諭したり。「いざという時の国の責任者」としての態度がとにかく素晴らしい。
* * *
ブロイアーと交渉の際、2人きりの密室で書類へのサインを求められた国王は、厳しい言葉でそれを拒否します。
「私はノルウェーで初めて、国民に選ばれた王だ。ノルウェーの運命は密室で決まるのではない。国民によって決められるのだ」(※ウロおぼえですが…)
いま自分が勝手に決定すれば、「民主主義ではなくなってしまう」ことに、強い信念を持っての拒絶でした。
結果、交渉は決裂。ノルウェーへの侵攻は激しさを増し、数日で降伏したと映画では説明していました。それでも、信念を貫き通したホーコン7世は、民主主義の象徴として国民に讃えられているそうです。
* * *
これ、100%王様の選択が正しかったのかと言えるのか、複雑だと思います。ひとたびドイツの属国になれば、どんな目に遭うのか分からないのが戦時中です。しかし、兄が国王を務めるデンマークのように、早めに降伏していれば犠牲は少なく済んだかもしれない。それは、国王自身が一番わかっていて葛藤した部分だったでしょう。
交渉決裂直後、空爆に襲われ一般市民とともに森に逃げこんだ王は、孫ほどの幼い子どもが雪の中に倒れているのを目にして悲痛な思いに襲われます。その場面が、非常に王様の葛藤を表しているように見えました。これでよかったのかと。
1人の人間に委ねるにはあまりにも大きな責任ですが、それが王の務めなのだと、映画の中でも何度も話していました。
印象的で象徴的だったのが、王様が16歳くらい少年兵に「すべては国王のため」と言われて「そうではない。祖国のためだ」と穏やかに訂正する場面です。王のためではなく、国のために尽くす、それは自分もおなじこと。という意味に、こみ上げるものがありました。
公式サイト:http://kings-choice-jp.com/
最新の画像もっと見る
最近の「映画」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
人気記事