こんにちは、やや半次郎です。
早速、やや半次郎の可笑しな世界をお楽しみ下さい。
………………
『荒野のガーマン』
俺はただ一人で荒野に佇んで我慢している男だ。
人呼んで、“ガーマン”。
“荒野のガーマン”だ。
決して“ガンマン”ではない。
俺は、物騒な武器は嫌いだ。
また“ガードマン”でもないから勘違いしないで貰いたい。
俺はただ、我慢するだけの男だ。
誰をガードする訳でもない。
ただひたすら我慢するだけだ。
ところが、そんな我慢するだけの男であるこの俺を、ある映画会社が気に入ってくれたようだ。
映画を撮りたいとの申し出があった。
勿論、主役だ。
俺は、二つ返事でOKした。
考えてもみろ、我慢するだけしか能のない俺が、映画に主演する話など、そうそう舞い込む筈も無い。
このチャンスを逃したら、何の為に常日頃から我慢していたのか分からないからな。
だから俺は引き受けたんだ。
映画のタイトルはそのものズバリ、“荒野のガーマン”だ。
その昔、“荒野のガンマン”というスパゲティ・ウェスタンとかと呼ばれた西部劇が流行ったことがある。
あ、いや、パスタだったかな?
…マカロニだったかも知れない。
いや、そんなことはどうでもいい。
監督が、その“荒野のガンマン”の向こうを張って撮影に挑むのだから、俺としては目一杯協力するのは当たり前だ。
映画会社が“荒野のガンマン”に対抗して勝てると踏んだのだから、光栄なことだ。
しかし、我慢するだけしか能のないこの俺に、上手く演じることが出来るのか、非常に不安だ。
でも、よくよく考えてみたら、西部劇の主人公は大抵、無口でニヒルときている。
無口だから台詞も少ないだろ?
ニヒルだから表情もワンパターンで済む。
どうだ、この俺に持って来いだろ?
そうと気付いたら、不安は吹っ飛んでしまったよ。
こんなに俺がやる気になっているのは珍しい。
だって、我慢するだけの男だ。
ただ我慢するだけの俺に、積極性は必要ないからな。
ただ、まだ解消されていない不安が1つだけ残っている。
それは…。
現実問題として、この俺は一体、何を我慢しているのかが、分からなくなってしまったんだ。
目的も分からずに我慢していることは、とてもカッコ悪い。
映画の撮影に入る前に、自分なりに“我慢している理由や事柄”をハッキリとさせておくべきだと思う。
そうでなきゃ、いい映画など、とても出来るものではない。
それにしても、俺は我慢強い男だ。
この我慢強さは、一体、どこから来るのだろう?
知りたい!
強く、知りたい!
物凄く、知りたい!
いや、よそう…。
俺は我慢するだけの男だ。
俺の取るべき行動はただ1つ、…我慢だ。
そう、我慢しよう。
あぁ、何て我慢強いんだ!
あぁ、何てカッコいいんだ!
我慢しよう。
何事も、我慢しよう。
映画に主演する話も…、何もかも。
我慢しよう。
それが俺の人生だ。
何故なら、この俺は真実の“荒野のガーマン”だからな。
いや、もうよそう。
自画自賛するのも、我慢するんだ。
…あっ、しまった!
少し有頂天になっている間に、トイレに行きたくなってしまった!
うゥ~ッ…、我慢するんだ!
我慢だ、我慢するんだ!
震えが来た。
まだまだ、我慢するんだ。
う~、もうダメかも知れない…。
ガ、ガマン、す、る、ん、だ…。
う~ゥ…、バタン。
※それが、“荒野のガーマン”の最後だった。
「ありがとうガーマン! あなたは、最後まで立派なガーマンだったよ~!」
「ありがとう、ガーマン!」
※ガーマンを讃える声が、二つ三つ。
荒野を吹いて行く風は、いつも厳しいとは限らない。
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