こんにちは、やや半次郎です。
ご無沙汰もご無沙汰、すっかり存在を忘れられてました。
しばらく遠方に行ってて、さっき戻ったばかりなもので…。
冗談はさて置いて、早速、やや半次郎の可笑しな世界をお楽しみ下さい。
………………
『ふしぎな水道』
おっ、いいところに来た、ちょっとオイラの話を聞いて行けよ。
オイラは怪しいモンじゃない。
尤も、どんな悪人だって、自分で怪しいと言う奴は居ないがな。
オイラはよー、独り暮らしなんだけんども、寂しいと思ったことはない。
独りが馴れてるんだな、きっと。
そりゃあ、昔は家族も居たさ。
親父も母さんも、そして兄も居た。
でも、みんなオイラに愛想を尽かして出て行っちまったさ。
…いや、こんな湿っぽい話をするつもりで呼び止めたんじゃないぞ、いいな。
早く本題に入ろう。
オイラは、不本意ながらサラリーマンをやっている。
若かりし頃は、クリエイティブな仕事に就きたいと思っていた。
芸術家なんか最高の憧れだった。
しかしだ、天賦の才がなさ過ぎたのだ。
そんな夢破れたオイラに、友だちと言える存在があるとしたら、…そら、やっぱ酒だろう。
酒しかない!
酒にはいつも感謝している。
困っている時や、悩んでいる時、塞ぎ込んでいる時など、いつもオイラを励まし、癒やしを与えてくれた。
酒がオイラを助けてくれたのだ。
とても「酒!」などと呼び捨てに出来やしない。
「酒さん」、いや「酒様」だ。
その位、感謝している。
だからオイラは、稼いで何がしかの金が入った時には、酒を買って帰り、神棚に酒を祀るんだ。
もちろん、用が済んだ後は、飲むがな。
それも立派な供養だからな。
そんなことを何度も繰り返していたら、3ヶ月ほど前からオイラの家の水道から酒が出てくるようになった。
蛇口をひねると、あの芳しい日本酒の匂いがして…。
そう、何時でも蛇口から日本酒が出てくるのだ。
それも吟醸酒だ。
オイラはぶったまげた。
そりゃあそうだろう、いくら祀ってあるからといって、その酒が恩返しみたいにオイラにご褒美をくれるなんて思ってもいなかったからな。
オイラは、神様からの贈り物と理解して、有り難く頂戴することにした。
そりゃあ、もう、朝から晩まで、飲んだくれているさ。
尽きることなく蛇口を捻ると出てくる訳だからな。
…う~ん、どうでもいいけど…、“蛇口を捻る”っていう表現はおかしくないか?
蛇口は捻るとこじゃないもんな。
でも、何て言えばいいかは分からないしな~。
まぁ、今は文字数の関係で深く掘り下げないでおこう。
そう、オイラは毎日、酒を飲んでる。
そりゃあ、そうだろう、自分の家の水道から出て来るんだから。
えっ、料理する時に困るだろうって?
おい、オイラが料理するように見えるか?料理をしないオイラにとって、水道から酒が出るのは大歓迎だ。
えっ、何、水を飲みたくなった時にどうするかって?
えっ、そりゃまたストレートな質問だな。
う~ん、考えたこともなかった。
どうしよう…?
今まで3ヶ月、水も飲まずに酒ばかりを浴びるように飲んで来たが、水が飲めないと言うことに今、気付いた。
気付いて見ると水が飲みたくなるもんだな。
どうしよう?
水…、水…。
そうだ、このオンボロアパートの隣にくっ付くように建っている造り酒屋に相談してみよう。
酒屋なら水はタップリあるだろう。
酒もあるがな…、あっはっはっは~。(笑)
…と言う訳で、オイラは早速、隣の造り酒屋に行って、ソームのブチョーと言う人と会ってきた。
“神田”と言う名前だった。
神田に言われて、オイラも自分の名前を必死に思い出した。
オイラは思い出した、ひと昔前に居た相撲取りと同じだったんだ。
“板井”、そうオイラの名前は板井だった。
オイラは吹き出しそうになった。
だってそうだろ、2人の名前を言うだけで笑えて来るんだ。
「あなたが神田、私が板井」…となるだろ?
つまり、「あなたが噛んだ、私が痛い」…だもんな。
“私”の代わりに、“小指”に変えたら、伊東ゆかりの名曲にもなるし…。
そんなこんなで神田とオイラは、直ぐに意気投合した。
意気投合したからオイラの言うことを何でも聞いてくれた。
オレんちの水道のことも心配してくれた。
そして、向こうで費用を払って調べてくれたんだ。
こんなことは滅多にあることじゃない。
有り難いな~。
えっ、何、結果はどうだったかって?
それがな、結果を聞いて大笑いだよ。
何だか、こないだの地震でオレんちの水道管が外れて、それが隣の神田の居る造り酒屋の酒タンクに刺さったんだとよぉ。
笑えるだろ?
だからそのタンクの中の酒がオレんちの水道から出て来たって訳だ。
神田がよぉ、「直ぐに直すから」って言うから、いいよいいよって断ったんだよ。
これはそのままにしておいて、別に水の出る蛇口を作ってくれりゃあ文句ねぇって、そう言ったんだ。
そしたら友だちの神田が言うには、「今すぐ直さなければ、3ヶ月の酒代を徴収するゾ」っつぅ訳よ。
オイラはぶったまげた。
「友だち甲斐のねぇ言い方はヨセ」と言ったんだが、ヤツはソームだから偉いんだ。オイラの言うことなんか聞かないもん。
オイラにゃ肩書きが無いもんな~。
ソーリぐらいの肩書きがないと、ソームにゃ勝てないしな。
しょうがないから、「それが親友に対する態度か~!」
…と、そう言ってやったんだ。
そして「それならお前との縁は切るぞ~!」と、付け足してやった。
そしたら神田の野郎、「ご自由に」と来たもんだ。
ヤッパ、友だちになったバッカで“親友”は、言い過ぎだよな~。
…と言う訳で、神田は勝手にオレんちの水道を元に戻しちまったんだ。
だから今は、水しか出ない。
あ~ぁっ、せっかく夢のような酒浸りの生活を送っていたのに…。
…で、お前さん、この話しを聞いてどう思う?
えっ、何、別に?
「別に」ってどういうこと?
面白いとか、感動したとかの感想はないの?
「ない。」
キッパリ言いやがったねェ、全くぅ。
オイラはその後、どうなったか分かるかい?
えっ、何、興味ない?
何だよ、興味ないって。
興味を抱いてくれよ~。
じゃあ、勝手に話すけどさぁ。
その後、神田ともう1人、ソームの人が来てよぉ、ヤッパリ3ヶ月分の酒代が要るっつぅじゃん。
恐るべし、ソーム。
幾ら請求されたのかは、文字数の関係で伏せとくが、大変だぜ。
だからよぉ、オイラに金を恵んでくれないか?
なぁ、頼むよ、この通りだ。
何だょ、おい、帰るなよぉ!
幾らか置いてけよ~!
…行っちまいやがった。
ほんとに薄情なんだからな、最近の若ぇ野郎は。
次の獲物を狙うとするか…。
我ながら、良くできた話だからな。
無駄に長いのが欠点だがな。
by やや半次郎
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