こんにちは、やや半次郎です。
首都圏を直撃した台風も消え、秋晴れの青空が広がっています。
それでも北海道では一昨日、昨年より33日も早い初雪が降ったそうです。
先週まで夏日だ、真夏日だと騒いでいたのに…。
そんな目まぐるしく変わる季節を、やや半次郎の可笑しな世界で乗り越えましょう。
………………
『ただ酒』(後編)
「神様、この酒は何て酒ですか? いやぁ、こんな旨い酒は飲んだことないよ。肴も美味いし。言うことなしだ。まるで天国にいるみたいだ。」
「天国に居るんじゃよ。どうやら、気に入って貰えたようじゃな。 その酒は、“天の雫”と言って、ここにしかない銘酒じゃ。」
「“天の雫”か? 何だか雨のような名前だなぁ。いや、それにしても旨い。神様たちは、こんな旨い酒を飲んでるんだ。羨ましいな~。」
「どうじゃ、ショーを観るかな? 天国のショー・ダンサーが踊りを披露するがな。今なら丁度、秋の踊りに変わったところじゃから、ワシも観たいしのぅ。」
「ショーか…? 見る、見る。秋の踊り? 季節ごとに演出が変わるんだね? 凄いな~。」
「そら、始まったようじゃ。」
「うわ~、凄いな~。これ、みんな天女? 天井から吊されてるん…じゃなくて、みなさん自力で飛んでるんだね。」
「そら、酒じゃ、酒じゃ。」
「ありがとうございます。旨い酒だね。だいぶ、いい心持ちになって来たよ。」
「お前さん、確か名前を若林と言うたのぅ? 実は頼みたいことがあるんじゃ。」
「ほら来なすった。命は上げられないよ。」
「いや、そうでない。頼みと言うのは、他でもない。実は…、最近、下界の方が荒れておるようじゃが、犯罪の質が変わって来たように見えるのじゃ。ワシらは人間たちに警告を発する意味で、様々な天変地異を起こして来た。しかし、その当座は犯罪の数が減るものの、しばらくするとまた元に戻ってしまう。情けないのう。」
「確かに犯罪の質が凶悪になってきたように思えるけど、いくら頼まれても、俺は警察じゃぁないし…。」
「いやいや、話を最後まで聞きなされ。ワシらは犯罪を減少させる新しい方法を試してみることにした。その方法とは、この酒じゃ。この酒には飲むと争いごとが嫌いになる成分が入っておる。しかもその成分は、一旦、体内に入ると、ず~っと体内に留まり、効果を発揮し続けるのじゃ。若林さんには、この酒を1人でも多くの人間に飲ませて欲しいのじゃ。どうじゃ、長い台詞じゃったが、分かったかな? 何なら、もう一度言おうか?」
「いやいやそれは結構で…。話は分かりました。これだけご馳走になったら断る訳にもいかないし。」
「おぉ、引き受けてくれるか! かたじけない。」
「その酒の効果か、断るより素直に受け入れたいと思うようになったみたいだ。…ところでその酒は、どうやって手に入れればいいのかなぁ?」
「これをお前さんにやろう。」
「何ですか、スマホのような、携帯電話のような機械は?」
「それは、この酒を天国の流通センターに注文するための機械だ。これで注文したらどこにいても15分で届くのじゃ。」
「早い! ピザより全然早いよ神様。 じゃあ、早速、やってみるか。何だか面白そうだ」
「頼んだぞ!」
………
「…う~ん。ハッ、何だ、夢か? …いや違う、酒の瓶がたくさんある。ラベルはみんな“天の雫”だ。夢じゃなかったんだ。よし、ちょっと町を歩いててみよう。争いごとがあるかも知れないからな。パトロールだ。」
「てめェー、このやろー。」
「何を~、このやろー、やろうってぇのか!」
「おぅ、やってるやってる。あらあら、今にも殴りかかりそうな勢いだな。早速、出番だ。」
「おい、おい、君たち、喧嘩してる場合じゃないぞ。珍しい酒が手に入ったから飲んでみてくれないか? “天の雫”って酒だ。飲んだことないだろ?」
「何だ、お前ェ?」
「変なモノ飲ますと承知しねぇぞ!」
「この酒は今、世界中で評判になってる“天の雫”と言う酒です。今ならサービスで只にしときますよ。」
「何を~? 只だと~? 只ならちょっと飲んでみよう。…あら~、美味い! …おや~、僕たち何で言い争っていたのかしら?」
「オレにもくれよ! おっ、美味い酒だな~。あらっ、この手はどうして握り拳なんぞ作っているのかしら。…不思議~?」
「争うより酒を飲んでた方がいいよね。」
「そうそう。仲直りっと。」
「いやはや、効果バツグンだな。これなら世界が平和になる日も遠くない。」
「…待てよ。老酒や紹興酒、マッコリ、ウォッカやワイン、ウィスキーも作らなければいけないよね。
…まっ、いいか、余所の国のことは。取り敢えず日本酒だけで様子を見よう。」
そんな訳で日本は、彼が“天の雫”を広めて歩くことで、徐々に凶悪犯罪が減っていき、街中から喧嘩やイジメが消えて無くなりました。
不思議なことに、大人たちの社会から喧嘩やイジメが無くなったら、子どもたちの世界からも喧嘩やイジメが消えて無くなりました。
やっぱり子どもたちは、大人を見て育っていたのですね。
皆さんの街に若林純一さんが“天の雫”を持って現れた時には、ぜひ飲んでみて下さいね。
きっと争いごとが嫌いになりますよ。
只でも良いものはあるのですね。
これで日本の将来は安泰ですね。
By やや半次郎
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