こんにちは、やや半次郎です。
2020年のオリンピック東京招致も決まり、ムードは最高に盛り上がっています。
それに乗じて、やや半の可笑しな世界をお届けします。
内容は、オリンピックに全く関係ありませんが…。
………………
『ナオユキ』
「ナオユキ、起きて!」
「・・・」
「ほらッ、起きなさい。いつまで寝てるの! もう学校に行く時間よ。全くしょうがないんだから、この子ったら。」
「母さん、お腹空いた~。」
「そこにパンがあるでしょ。自分でチンして食べてね、ナオユキ。」
「母さん、年頃の男の子に向かって『自分でチンして』は危ない表現だよ。」
「何、色気付いてんのよ。違うことくらい分かるでしょ。からかわないでよ、ナオユキ。」
「ところで、父さんは?」
「とっくに仕事に行ったわよ、ナオユキ。」
「父親参観の話し、どうなった? 父さん来れるの?」
「そんなの分からないわよ、母さんは父さんじゃないんだし。」
「訊いてくれてないの?」
「あ~、忘れてた、忘れてた。ゴメン、ゴメン、ナオユキ。父さんが行けなかったら、母さんが父さんの格好して行くから、安心しなさい、ナオユキ。」
「え~っ、その方がヤダ。」
「何を言うのよ、ナオユキ。小さい頃はよく喜んでくれたじゃない。母さんが父さんの格好して行くと、クラス中がドッカンドッカン受けて、あなたも得意そうだったじゃない、ナオユキ。」
「・・・」
「ナオユキ、パン焼けたわよ。」
「今、食べるよ。」
「塩辛は、冷蔵庫に入ってるから。」
「えっ、パンだよ? 塩辛って・・・?」
「ビールでも飲むかと思ったのよ、ナオユキ。」
「母さん、僕はまだ高校生だよ。」
「分かってるわよ。今、父親参観の話ししてたじゃない、ナオユキ。読者だって大体、察しがついてるわよ。心配ないわよ、ナオユキ。」
「いや、心配なんじゃなくて、ビールは飲めないってこと。」
「何でよ? ワケが分からないわ、母さん。だってビールは飲み物よ。飲み物のビールが何で飲めないのよ。飲まないでどうするの? 食べるの、ナオユキ?」
「違うよ母さん、未成年だからお酒は飲んじゃイケないってことさ。」
「あら、知ってるわよ、そんなこと。母さんが知らないとでも思ったの、ナオユキ。試しただけよ。抜き打ちテストよ、ナオユキ。」
「・・・」
「支度が出来たらさっさと行きなさいよ。告白するわよ、ナオユキ。」
「母さん、イキなり何だよ! 何を告白するんだよ?」
「何を身構えてんのよ。告白なんかしないわよ。何よ、変なこと言わないでよ、ナオユキ。」
「今、母さんがそう言ったんだよ!」
「母さん言ったぁ、そんなこと?」
「自分のセリフを読み直してみなよ。」
「どれどれ・・・、あぁ、本当だ。言ってるわね。完璧に言ってるわ、ナオユキ。」
「だろ?」
「母さん本当は、遅刻するって言いたかったのよ、ナオユキ。ダメな母さんね。遅刻と告白も区別が付かないなんて・・・。死にたいわ・・・。」
「母さん、ダメダメ、深刻になっちゃ。そんな大袈裟な問題じゃないから。」
「ありがとう、ナオユキ。母さん、立ち直ったわ。今日も元気だ塩辛が旨い!」
「立ち直りが早いね、母さん。」
「そうよ、母さん、みんなに言われるの。落ち込むのも早いけど、立ち直るのも早いねって。」
「・・・」
「何か言いなさいよ、ナオユキ。」
「・・・」
「あらっ、無言の行かしら? ナオユキ、どうしたの?」
「母さんさぁ、今頃切り出して悪いんだけどさぁ、いつも気になってることがあるんだよね。」
「まぁ、何なの、ナオユキ?」
「・・・」
「いいから、言ってごらん、ナオユキ。気持ちがおさまるわよ、ナオユキ。」
「母さんさぁ、いつも俺のこと、ナオユキって呼ぶじゃん。それ、止めて貰えないかな?」
「何で、何でなの、ナオユキ? ナオちゃんとか、ナオくんがいいの?」
「・・・」
「言ってよ、ナオユキ。」
「母さん俺さぁ、タカシって言うんだ。だから、ナオユキってワケの分からない名前で呼ばないで欲しいんだ!」
小さな不満の中にこそ、小さな幸せがあることに気付いた2人だった。
By やや半次郎
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