ちょっとネタが思いつかなかったので、過去の話をします。
私がまだ小学校に上がる前のこと。
父方の祖父母の家に遊びに行って、祖父母の家には風呂がなかったため、代わりに父親と一緒に近所の銭湯に行くことになりました。
それまで自宅のせまい風呂しか知らなかった私は、まず銭湯の広さに驚いたものでした。
また普通の湯船とは別に、ちょっと熱めのお湯が張ってある湯船があることも不思議でした。
手足が不自由なもんで自分で自分の身体を洗うことも難しい私が、父親に身体を洗ってもらっていたときのこと。
なんにも知らなかったた若き日の私は、すぐそばに見たこともないすごいものを見つけて喜んだのでした。それはお正月に母方の田舎で見た
《ししまい》 や神社にお参りに行ったときの《こまいぬ》というのにちょっとだけ似ている気がしました。
『ねえパパ、あのおっちゃん背中に動物の絵が描いてあるよ カッコイイね(^o^)』
うん、そうだねと、いっさい感情のそげ落ちた声で応える父親。
30年以上も昔の、人の少ない田舎の事でした。彫り物背負ったオニイサン達をいちいち閉め出したりしたら、お風呂屋さんも商売が成り立たなかったのでしょうね。
「そうか坊主、この絵がカッコイイか…」
と気さくに返してくれるオニイサン。相手が子どもだったとはいえ、褒められたのはやはり嬉しいようでした。
「ウン(^o^)」
となんの屈託もなく応じる私。なんにも怖くありませんでした。
オニイサンは、勝手知ったる我が家と違い、慣れぬ洗い場で悪戦苦闘する私たち親子の姿に、何か感じるものがあったのでしょうか。
「お父さんもこういう子(=障害児、つまりオイラ)抱えていろいろ大変だねえ。この子はオレが洗っててやるから、お父さんは先に湯船入ってなよ」
「ハイ、ありがとうございます…」
なおも感情に乏しい声を発するする父親。幼少の私にはなぜ急に父親の元気がなくなったのか不思議でしたが、おっちゃんの背中に書いてあるカッコイイ絵に対する興味の方が大きかったのでした。
『背中に書いてあるのは、なんの動物?』
「これはなあ、中国のライオンさん(いわゆる唐獅子)だよ」
『中国にライオンがいたの?』
「いまはいねえけど、昔は、たくさんいたみたいだよ。おじさんがカッコ良くて、強い男になれるように背中に書いてもらったんだよ」
30年以上も昔の、人の少ない田舎のことででした。あの業界にも、まだまだ古き良き時代の義理と人情が色濃く残っていたのでしょう。
子どもだからとバカにせず、なんと的確で、かつ情のこもった受け答えであったことか。
『おーい』
オニイサンに背中を流してもらいながら、上機嫌で湯船の父親に手を振るオイラ。
暖かい湯船に肩までつかっているはずの父親の顔は、どういう訳か少し青ざめて見えました…
お湯から上がった私は、背中にライオンの絵を背負ったカッコイイおっちゃんから、これまた初体験のフルーツ牛乳をおごってもらい、終始上機嫌のまま銭湯を満喫したのでした。