波部忠重著 「日本産軟体動物分類学 二枚貝綱/掘足綱」学名・和名索引
ver.2011.11.21
太平洋戦争直後、GHQの天然資源局Hubert G. Schenck局長は、軟体動物の生物地理学的興味と、京都大学嘱託であった黒田徳米博士に対する経済的な支援の意味から、黒田博士に当時京都大学にいた気鋭の貝類学者波部忠重博士を助手として日本近海の海産軟体動物の分類と地理的分布〔緯度分布〕の資料を整理して、北米西岸の海産軟体動物の地理的分布(Keen, 1937)と対比されるCheck listを作成する事業を依頼した。その成果は、Leo W. StachによりKuroda & Habe (1952)としてオフセット印刷で出版された。この作業の過程で、波部は多くの分類群の分類学的再検討を行い、Check list作成で得た報酬を基に日本貝類図録(Kuroda, ed., 1949-1955)を刊行した。氏はまた、日本産二枚貝類の属位の検討のために作ったノートを「二枚貝属類図考」(波部1949-1950)として「ゆめ蛤」に発表して貝類学徒の批判を求めた。これらは、科と属の特徴を記載し、日本産の種を図示することにより日本語で書かれた系統的・網羅的教科書を作るという計画の基礎となった。その後、波部は科と属の記述、各属に含まれる日本産全種の有効な学名の検討とシノニムの整理、地理的分布の記録とともに、牧野四子吉画伯による精巧な図を添えて、「日本産貝類概説 斧足綱〔二枚貝類〕及び掘足類〔角貝類〕」(波部1951-1953)4分冊を纏めた。更に、同書出版後に追加された知見を加味して、Cox et al. (1969, 1971)の分類体系に準拠して改稿し,「日本産軟体動物分類学 二枚貝綱/掘足綱」(波部 1977)を出版した。同書は、波部の数多くの軟体動物研究中の最高峰であり、出版以来34年を経た今でもインド・西太平洋産二枚貝綱の研究には欠くことのできない重要な教科書である。本書は日本語で書かれたものではあるが、学名(ラテン語)と図版を備えていることから、日本はもとよりアジアを始めとして諸外国の研究者にも広く利用されている。波部は、同書の改訂と、新たに「日本産軟体動物分類学 腹足綱」の出版を企図していたが、果たせぬまま、2001年に没した。近年、「日本産軟体動物分類学 二枚貝綱/掘足綱」は絶版となっていたが、2011年8月、北隆館は1977年版の復刻版を出版した。この重要な教科書が、再度書店で購入できるようになったことは大変ありがたいが、復刻版であるために巻末に正誤表が追加されただけで単純な誤植も訂正されておらず、初版に比べて図版の質が格段に悪くなり、価格が2倍以上になったことははなはだ残念である。
「日本産軟体動物分類学 二枚貝綱/掘足綱」は、全ての属で模式種が図示されているわけではないほか、索引が属名と和名に限られており、種及び属より上のレベルの学名及び和名索引が無いという不便さがあった。このために筆者は、国内外の「日本産軟体動物分類学 二枚貝綱/掘足綱」利用者の便宜を図るために種(亜種)、属(亜属)、科(亜科)、超科、目、綱(亜綱)の名称を含む総合的な学名索引および和名索引を作ることとした。本索引で取り扱う学名のうち若干のものは、誤植或いは著者の属の性や種小名の品詞の解釈の単純な誤りであることが明らかであるため修正した。なお、「日本産軟体動物分類学 二枚貝綱/掘足綱」の正誤表は「ひたちおび」特別号に報告されている(松隈,2012)。
凡例
学名(太字):「日本産軟体動物分類学 二枚貝綱/掘足綱」中で創設された学名。
数字(太字):学名の主要掲載頁(学名が複数箇所に掲載されている場合)。
引用文献
波部忠重, 1949-1950. 二枚貝属類図考. ゆめ蛤, 第34~48号, 181 pp., 53 pls. [西宮市貝類館蔵書番号 2157-1]
波部忠重, 1951-1953. 日本産貝類概説. 第1冊, 斧足綱, pp. 1-96 (1951); 第2冊, 斧足綱, pp. 97-186 (1951); 第3冊, 斧足綱, pp.187-280 (1952); 第4冊, 斧足綱・掘足綱, pp. 281-326 (1953), 貝類文献刊行会, 京都. [西宮市貝類館蔵書番号 2157-2; 1098-2]
波部忠重, 1977. 日本産軟体動物分類学.二枚貝綱/掘足綱. 371 pp., 72 pls., 図鑑の北隆館, 東京. [西宮市貝類館蔵書番号 1098-1]
KEEN, A. Myra, 1937. An abridged check list and bibliography of west North American marine Mollusca. 87 pp., Stanford University Press, Stanford. [西宮市貝類館蔵書番号 092]
KURODA, Tokubei (ed.), 1949-1955. Illustrated catalogue of Japanese shells貝類図録. Vol. 1, nos. 1-25: 1-216, 1949-1953; vol. 2, nos. 1-2: 1-16, 1955; ser. B, nos. 1-24, 1955, Publishing Committee of Molluscan Literatures, Kyoto. [西宮市貝類館蔵書番号 2031; 2372]
KURODA, Tokubei and HABE, Tadashige, 1952. Check list and bibliography of the Recent marine Mollusca of Japan. 210 pp., Leo. W. Stach, Tokyo. [西宮市貝類館蔵書番号 2007-1]
松隈明彦, 2012. 波部忠重(1977): 軟体動物分類学 二枚貝綱/掘足綱 正誤表. ひたちおび,特別号, 45 pp. [Matsukuma, Akihiko, 2012. The fourth corrigenda of Systematics of Mollusca in Japan - Bivalvia/Scaphopoda by Tadashige Habe (1977). Hitachiobi, The Reports of the Tokyo Malacological Society, special issue, 45 pp.]
ver.2011.11.21
太平洋戦争直後、GHQの天然資源局Hubert G. Schenck局長は、軟体動物の生物地理学的興味と、京都大学嘱託であった黒田徳米博士に対する経済的な支援の意味から、黒田博士に当時京都大学にいた気鋭の貝類学者波部忠重博士を助手として日本近海の海産軟体動物の分類と地理的分布〔緯度分布〕の資料を整理して、北米西岸の海産軟体動物の地理的分布(Keen, 1937)と対比されるCheck listを作成する事業を依頼した。その成果は、Leo W. StachによりKuroda & Habe (1952)としてオフセット印刷で出版された。この作業の過程で、波部は多くの分類群の分類学的再検討を行い、Check list作成で得た報酬を基に日本貝類図録(Kuroda, ed., 1949-1955)を刊行した。氏はまた、日本産二枚貝類の属位の検討のために作ったノートを「二枚貝属類図考」(波部1949-1950)として「ゆめ蛤」に発表して貝類学徒の批判を求めた。これらは、科と属の特徴を記載し、日本産の種を図示することにより日本語で書かれた系統的・網羅的教科書を作るという計画の基礎となった。その後、波部は科と属の記述、各属に含まれる日本産全種の有効な学名の検討とシノニムの整理、地理的分布の記録とともに、牧野四子吉画伯による精巧な図を添えて、「日本産貝類概説 斧足綱〔二枚貝類〕及び掘足類〔角貝類〕」(波部1951-1953)4分冊を纏めた。更に、同書出版後に追加された知見を加味して、Cox et al. (1969, 1971)の分類体系に準拠して改稿し,「日本産軟体動物分類学 二枚貝綱/掘足綱」(波部 1977)を出版した。同書は、波部の数多くの軟体動物研究中の最高峰であり、出版以来34年を経た今でもインド・西太平洋産二枚貝綱の研究には欠くことのできない重要な教科書である。本書は日本語で書かれたものではあるが、学名(ラテン語)と図版を備えていることから、日本はもとよりアジアを始めとして諸外国の研究者にも広く利用されている。波部は、同書の改訂と、新たに「日本産軟体動物分類学 腹足綱」の出版を企図していたが、果たせぬまま、2001年に没した。近年、「日本産軟体動物分類学 二枚貝綱/掘足綱」は絶版となっていたが、2011年8月、北隆館は1977年版の復刻版を出版した。この重要な教科書が、再度書店で購入できるようになったことは大変ありがたいが、復刻版であるために巻末に正誤表が追加されただけで単純な誤植も訂正されておらず、初版に比べて図版の質が格段に悪くなり、価格が2倍以上になったことははなはだ残念である。
「日本産軟体動物分類学 二枚貝綱/掘足綱」は、全ての属で模式種が図示されているわけではないほか、索引が属名と和名に限られており、種及び属より上のレベルの学名及び和名索引が無いという不便さがあった。このために筆者は、国内外の「日本産軟体動物分類学 二枚貝綱/掘足綱」利用者の便宜を図るために種(亜種)、属(亜属)、科(亜科)、超科、目、綱(亜綱)の名称を含む総合的な学名索引および和名索引を作ることとした。本索引で取り扱う学名のうち若干のものは、誤植或いは著者の属の性や種小名の品詞の解釈の単純な誤りであることが明らかであるため修正した。なお、「日本産軟体動物分類学 二枚貝綱/掘足綱」の正誤表は「ひたちおび」特別号に報告されている(松隈,2012)。
凡例
学名(太字):「日本産軟体動物分類学 二枚貝綱/掘足綱」中で創設された学名。
数字(太字):学名の主要掲載頁(学名が複数箇所に掲載されている場合)。
引用文献
波部忠重, 1949-1950. 二枚貝属類図考. ゆめ蛤, 第34~48号, 181 pp., 53 pls. [西宮市貝類館蔵書番号 2157-1]
波部忠重, 1951-1953. 日本産貝類概説. 第1冊, 斧足綱, pp. 1-96 (1951); 第2冊, 斧足綱, pp. 97-186 (1951); 第3冊, 斧足綱, pp.187-280 (1952); 第4冊, 斧足綱・掘足綱, pp. 281-326 (1953), 貝類文献刊行会, 京都. [西宮市貝類館蔵書番号 2157-2; 1098-2]
波部忠重, 1977. 日本産軟体動物分類学.二枚貝綱/掘足綱. 371 pp., 72 pls., 図鑑の北隆館, 東京. [西宮市貝類館蔵書番号 1098-1]
KEEN, A. Myra, 1937. An abridged check list and bibliography of west North American marine Mollusca. 87 pp., Stanford University Press, Stanford. [西宮市貝類館蔵書番号 092]
KURODA, Tokubei (ed.), 1949-1955. Illustrated catalogue of Japanese shells貝類図録. Vol. 1, nos. 1-25: 1-216, 1949-1953; vol. 2, nos. 1-2: 1-16, 1955; ser. B, nos. 1-24, 1955, Publishing Committee of Molluscan Literatures, Kyoto. [西宮市貝類館蔵書番号 2031; 2372]
KURODA, Tokubei and HABE, Tadashige, 1952. Check list and bibliography of the Recent marine Mollusca of Japan. 210 pp., Leo. W. Stach, Tokyo. [西宮市貝類館蔵書番号 2007-1]
松隈明彦, 2012. 波部忠重(1977): 軟体動物分類学 二枚貝綱/掘足綱 正誤表. ひたちおび,特別号, 45 pp. [Matsukuma, Akihiko, 2012. The fourth corrigenda of Systematics of Mollusca in Japan - Bivalvia/Scaphopoda by Tadashige Habe (1977). Hitachiobi, The Reports of the Tokyo Malacological Society, special issue, 45 pp.]