「苦虫を噛み潰したような顔してたら美味い酒は出来ねぇ。麹菌やら何やらみんなが見てるから」という場面から始まり、ご本人はもちろん若い蔵人たちまでが力仕事の最中でもみんなニコニコニコニコしているのにまず「へぇ~」と驚く。
この高橋杜氏の仕事の流儀は「できるだけ自然にゆだねること。人は手出しをしないで見守るだけ」という考えで酒を仕込んでいること。
だから日本酒造りで欠かせないとされてきた「櫂入れ」という作業をなくしてしまった。
「櫂入れ」というのは原材料を入れた大きなタンクや樽の中に櫂の棒を入れて定期的にかき回して発酵の均一化を図るための日本酒の仕込みでは欠かせない常識とされてきた作業だという。
それをこの蔵ではぷっつりと止めてしまい、原材料のなすがままにただ見守るだけというやり方に変えてしまった。
ただ見ていると温度管理だけは注意深くしているようで、その調節以外に何ら手を出さずに酵母菌の働きを見守るだけである。
発酵が進まなかったり、微妙な状態でうまくいくかどうかわからないような時には蔵の中の樽の脇に布団を持ち込んで、かすかな音? を聞いたりしながら添い寝をしてじっと待つ。
そういうやり方だからこの人が「酒造りはいじるんじゃなくて育てること」と話すのを聞くと「ほぉ~」と感じ入り、その説得力に胸を突かれる思いである。
達人というのはしばしばこうした思いがけない言葉を発してボクらを驚かせる。
だからこの蔵の酒は来し方の日本酒鑑定会では19年間に13度もの日本一を獲得し、「櫂入れ」作業をやめて自然に任せる酒造りを導入する蔵が全国に広がっているのだという。
酒造りの常識を根底から変えてしまったという訳である。
おまけに櫂入れにとどまらず、「加水」も「濾過」も止めてしまったそうで、文字通り自然に育ったままを飲んでもらおうという酒造りである。
水を加えるとアルコール濃度が下がったり、まろやかになったりして飲みやすくもなるそうだが、原酒には原酒の良さがあるという蔵の心意気でもある。
できるだけ手を加えないようにという配慮は日本酒ではこれまた常識の「濾過」も止めてしまった。作りたてに近いものを飲んでもらいたいという蔵元の自信の表れでもあるのだろう。
この杜氏は酒好きで「仕事で飲めるんだからこれ以上の仕事はないべ」とか「まんずただ酒だぁ」と柄杓に取った聞き酒を舐めながら、これが実に嬉しそうな表情で言うものだから、普段のニコニコ顔と合わせて麹菌たち酒造りを担う役者たちはついつい協力してしまうんじゃないかと思わせるに十分である。
まだ飲んだことがないのだが、近々ぜひ飲んでみたい。
時々見かける銘柄でその名前のどこか俳味を伴ったような雰囲気が気になっていた。
「雪の茅舎」という銘柄らしい。

水がぬるんできましたなあぁ

小さな子はお兄ちゃんが手を取って…

それっ!=稲村ケ崎の岩場で

稲村ケ崎の切り通しを抜けると富士山が目の前にヌッと

ヨットと釣り人と=江ノ島の湘南港堤防から