久しぶりに横浜まで出かけて中華街で昼ご飯を食べてきた。
春休みが終わったので、それほど込み合ってはいないだろうと思っていたら、中華街大通りとその南側の関帝廟通りは人をよけながらでなくてはスームースに歩けないくらい混んでいる。
もっとも、年末年始や春秋の行楽シーズンにでもなると昼といわず夕方といわず空間という空間は人で埋まり、道路は満員電車状態になるから、それに比べたら随分とマシだったのだが中華街の人気は相変わらずである。
この中華街には、さして広くも無いエリアに600店を超す店がひしめき合い、そのうち約230店で中華料理が食べられる。
ボクは妻と一緒に関帝廟通りを歩いて目指す店に行こうとしていた。
この通りの途中には現役時代によく通った馴染みの店があり、タケさんという話好きのオーナーシェフがいる。
不思議なことなのだが、タケさんの店に行くつもりがない時に限ってすれ違うのだ。それも1度や2度ではない。
店の前ならいざ知らず、全く離れた道の上でばったり会ったりすると、こちらが気づくのと同時かむしろ早いくらいにタケさんが気づいてニコニコしながら近寄って来るのが常なのだ。
昨日は店の真ん前を通りかかったのだから、ばったり会うのも不思議ではないのだが、人混みの間に料理人が着る白い上着を羽織ったタケさんが立っていて、一瞬「あっ! 」と声を出して吸っていたタバコを口から離し、ボクに気付いた様子が離れていても分かった。
昼飯時で込み合う時間帯にオーナーシェフが店の前の道路に出てタバコをふかしながらキョロキョロしていること自体、あり得ないことなのだが、そういう常識めいたことはタケさんには縁がないのだ。
ここで会ったが百年目ってやつで、いつもだと店に入ってお腹がいっぱいでもビールか紹興酒でも飲みながら話すのだが、昨日は妻と一緒だったし、タケさんには内緒にしておいたが、行きたい店があって立ち話で済ませたのだが、それでも10分を優に超えるくらいの立ち話になった。
もう半年ぶり以上のご無沙汰だったのだが、腹が少し引っ込んでいるのに気付いて「ありゃ? 少しスマートになったね」と水を向けたらひと月ばかり入院していたんだという。
腸の病気だったようだが、声を潜めて「癌じゃなくてよかったよ」と嬉しそうで、「退院した時にこれであと10年は元気でやれそうだと思っちゃってね」とニコニコしていた。
ボクより3つ4つ下のはずだからまだまだタケさんの料理を味わえるようで重畳である。
込み合う時間帯にもかかわらず店の前の道路に出てタバコをふかし、街行く人々を眺め、賑わいに目を細めるなんていう料理人の作る料理を愛する人は案外少なくなく、特に経済界を中心に時々名の知れた人物がたった一人でやってきたり、あるいは極少人数で静かに食べていたりする。
タケさんの作る酢豚は日本一だという評判が立っていて何度か食べたことはあるが確かに野菜はシャキシャキしているし、ニンジンの色など抜群にきれいで、もちろん肉が美味しい。
日本一と言うのもあながち誇張じゃないなと思うのだが、メニューには載っていないから、「スブタ食べたい」と頼むしかない。
そして創作料理が目玉なのだが、特にワタリガニの中身を茹でた麺に絡めて食べる正式名称は忘れたが「アレ」とか「カニ」とか言っている料理は絶品で、中華街広しといえどここでしか食べられない。
こういう料理が風前の灯火だったことは知らなかったが、ヤレヤレ、まだしばらくは食べられそうで、今度は「アレ」を食べに来るからねと約束して別れたのだった。
店の名前?
関帝廟と同じ側の歩道沿いのミナト寄り3軒目にネオンで飾ったワタリガニの看板を掲げた店がそこで、いつだって空いているからすぐわかるさ。
ただ中華料理の定番を出す店じゃないからね。
わが家の「空蝉」のつぼみがこんなになって…
あと1週間から10日あれば開きそう ♪