平方録

考えは隔たっているけれど

昨日のパーティーで隣に座った一部上場の大手製造業の常務サンが、酒が進むうち、しきりに「あれは惜しかった」とぼやくのである。

仕事の上で関係が出来、ここ2、3年よく食事を共にした仲なので、気心が知れていることもある。
2次会でカラオケバーなどに行くと、必ず「どう思います?」と政治向きの質問してくる人だった。
本心を明かさず、当たり障りのない話に終始しがちな付き合い方が多い中で、この人は珍しい人物の一人であると言える。
遠慮なくズバリと質問してくるあたり、それだけ打ち解けていた、とも言えるのである。

嘆いていたのは、大阪都構想の住民投票の結果のことである。
東京のように、市をなくして特別区に改編し直そうという提案だった。
結果は50.38%対49.62%。票数にして1万741票差の僅差で否決されたことを悔しがっているのだ。
理由を聞くと「憲法改正をするうえで、住民投票を仕掛けた橋下徹大阪市長の政界引退が痛い」のだという。

橋本市長が呼びかけた二重行政の弊害・税金の無駄遣いを取り除こうという試みが、大阪で失敗したことそのものを嘆いているのではない。
この取り組みの成功を引っ提げて中央の政界に進出する予定だった改憲論者の論客の政界引退が痛いというわけである。
かつて「憲法改正のためなら何でもやる」と公言してはばからなかった人物の政界引退は、確かに痛かろう。

この常務サンが言っている意味も、賛否は別にして理解できるのである。
つまり、海外から原料を調達し、出来上がった製品を海外で売る典型的な日本の製造メーカーにとって、いざとなれば手助けしてくれるはずの自国の軍隊を持たない中での仕事は、まるで丸腰で戦場へ向かうように思えているらしい、ということ。

だから集団的自衛権腰を決定した政府を支持するし、更に望むべくは憲法9条を改正して堂々と軍隊を海外に派遣すべきなのだ、と主張する。
産業を強化し、たくさんの製品を作り出し、輸出して稼いで行くためには電力の安定供給は欠かせないし、太陽光などの自然エネルギーに依存しようなんてもってのほか。
従って原発廃止なんて狂気の沙汰。自殺行為、とさえ思えるらしい。

日本の政財界を通して、こうした考え方は共通のものだろう。改めて驚くほどのことでもないのだが、やはり面と向かって言われてみると、取りつく島がないようにも感じられるのである。
そうした考え方について、一点の疑いもなく信じ込んでしまっているようなのである。
おそらく業界内、仲間内の酒席ではそうした考えを述べあって夜な夜な盛り上がっているに違いない。

ものすごく違和感を覚える。どうしようもないような“ずれ”である。

常務サンたちの考え方に感じるのは、手順を省きたがっている、ということである。
原料を調達して製品に変え、さらにこれを売る、という一連の行為の中で、例えば原料の調達を考えた場合、極端ではあるが一番安く済んで手っ取り早いのは略奪することだろう。
しかし、そういうやり方は当然のことながら過去のものである。

原材料はできるだけ高く買ってあげ、良い製品に作り変えて、出来るだけ安い値段で売る。
そうした地道な努力を重ね、回りくどくても手順を踏んだ人が、あるいは商いが、信用を育み、業績を拡大させていくというのが、時代が変わっても変わらない本質なのではないかと思う。
急に原材料を売ってくれなくなったりしたら、息の根が止まってしまうこともあるだろう。
そうしたことが起きないように、日ごろから何らかの手を打っておくべきなのであって、その手立てが軍事力、というのはいささか違うんじゃないかと思うんである。

これがなかなか分かってもらえない。
まあ、意見の隔たりというのはそういう歯がゆさでもあるのだ。でも、これはお互いさま。
ならば、相手の意見をよく聞きながら、主張し合って行くしかない。
どうしても意見の調整がつかないのであれば、最後は国民の直接投票によって多数決で決めるしかないのである。

時の政権の都合で憲法解釈を変えるなどというコソ泥みたいなやり方はご免こうむりたい。恥ずかしい。



「正雪」
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