わが家の風呂場には「アレッポの石鹸」が置いてある。
この石鹸で顔を洗い身体を洗う。
薄茶色の角ばった四角形をしていてお世辞にも見た目がいいとは言えないが、オリーブオイルとローレルオイルを原料とした無添加の石鹸で、薄茶色の部分が使うにつれてなくなって行き、すると中から濃い緑色が現れる。
なかなか深い色合いの緑で、おそらく原料に使われているオリーブと何か関係がありそうなところがまた良い。
乾燥地帯に広がるオリーブ畑の豊かでみずみずしい緑が目に浮かぶ。
ジジイが言うのも変だが、初めて使った時、使うにつれて顔や肌がつるつるになっていくのを感じてびっくりした覚えがある。
そりゃぁ誰だろうとガサガサした汚らしい肌よりすべすべつるつるした肌の方がいいに決まっている。
日常的に風呂で身体を洗う時の石鹸一つで違いが出るなら、それを使うに越したことはないだろう。
この石鹸を知ったのは新聞記事だった。
未だに内戦が続いている中東シリアのアレッポという商業都市でシルクロード時代から作られていた伝統的な石鹸なのだが、内戦の激化によってアレッポも激しい戦闘地帯に巻き込まれ、石鹸工場がどんどん操業不能になっていて、世界的に名高い伝統的なアレッポの石鹸が風前の灯火になっている、と伝えていた。
隣国トルコに逃れて、そこで細々と生産を再開したり、アレッポに残って戦闘におびえながら細々と造り続けているが、製品を見捨てずに買い続けてくれることが何よりの支援になるとも伝えていて、そういうことならという思いと、シルクロードの昔から続いているという伝統の重みに魅かれて一つ買ってみたのだった。
昨日、この石鹸を買うためだけに電車とバスを乗り継いで隣町のショッピングモールまで出かけて行った。
もっと身近なところでも売っているかもしれないが、そこで見つけたのが最初なので、そこでの調達が続いているという訳なのだ。
わが家から10キロにも満たない距離だから自転車で行っても訳はないのだが、たまには人物観察もしてみたくなるではないか。
手数をかけて目的に至るというのは気分転換にもなるものなのだ。
いや、手数をかけることが目的だったのかも…
それもまた楽しからずや。
枯れてるんじゃないからねっ!
見出し写真を含めて横浜イングリッシュガーデンのアジサイから