平方録

花よりういろう おしつけ おでん

「ういろう」を買いに小田原へ。
つわりに苦しむ娘に何とか口に入るものをと心配する、母親の親心に付き合う。
羊羹のような棒状のお菓子で、小田原で600年も続く老舗のお菓子である。

中国から帰化した人物の息子が足利将軍の求めに応じて幕府や朝廷に仕えるようになり、最初は薬から出発し、後に接待役も務めるようになった際、客をもてなすためのお菓子として作り始めたのが由来であるという。
その子孫が北条早雲に招かれ、小田原に暮らすようになってその薬の「透頂香」(とうちんこう)と「ういろう」が代々、小田原で作り続けられている。
あまり日持ちがしないため、小田原に出向かないと買えないので口にする機会が少ないが、混じりけのない、昔ながらの製法を守っているんだな、としみじみ感じさせる味と食感である。
今でも美味しいが、600年も前だったら、素晴らしく美味しかったであろうと思われる味である。

小田原城ではサクラが満開で、全国のおでんを集めた「おでんサミット」というイベントも開かれて大賑わいであった。
前日の強風と雨で、サクラはあまり期待していなかったが、なかなかどうして、そん色ない満開ぶりで、宮城県塩釜市のおでんと福井県敦賀市のおでんをつまんでみた。
小田原の町おこしに取り組んでいる旦那衆だろう、二人合わせて117歳のコンビがギターを抱えて出てきて、30年前から歌っているとかいう、自作の“小田原賛歌”のいくつかを熱唱するのを聞いた。
町おこしと自分たちの趣味をうまくミックスさせて、すっかり気分良く歌っている姿に、おでんをほお張りながら拍手など送ってみるのも悪くはない。

ここは梅干しの産地でもある。
街を散策していたら、自家製の練り梅やわさび漬を売っている店を見つけ、とても愛想の良い女将さんに乗せられていくつか買ってきた。
この店の近くには知る人ぞ知る(実は庄野潤三のエッセイで知ったのだが)、ウナギの名店があり、ぜひ立ち寄りたかったのだが、そのタイミングにあらずと、またの機会に譲ったが、なかなか趣のある店構えであった。

これまた国道1号を挟んだ路地裏に「大学酒場」という居酒屋があり、これは商売柄、歴代のこの地域の担当者がひいきにしてきた店に、常連さんに交じって一杯やってきた。
ウリは地元で上がった新鮮な魚の刺し身である。
ヤリイカが特に美味しかった。
しかし、ここに来たからには「おしつけ」を食べなくてはいけない。
妻は初めてだと言うのでなおさらである。

「おしつけ」はアブラボウズの別称で、本来は高級魚のクエに似た大型の魚で脂の多い、白身の魚である。
脂が多いので、食べ過ぎたりすると消化不良でお腹を下すこともあるらしいが、何事もほどほど、である。
酢味噌で食べるが、これが燗酒によくあって美味しい。伊豆半島の東側でも食べるそうだが、神奈川県では小田原以外では食べないようである。
もちろん鎌倉では売っていない。
たまには口にしても良いのだけれど…

ほろ酔い気分で「大学」を卒業し、ライトアップされた小田原城に戻り、天守閣に登って夜桜を楽しんだ。
与謝野晶子は「清水へ祇園をよぎる桜月夜 今宵会う人みな美しき」と詠んだとおり、小田原もみな美しき人たちばかりであった。
酔いに目がかすんでいたからなおさらだったかもしれない。
桜月夜は皆既月食のはずであったが、こちらは恥ずかしがって雲に隠れたままだったのが、ちょっぴり残念である。










小田原城の桜


国道1号に面した「ういろう」を売っているお店


大学酒場の「おしつけ」
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