「現状打破」という言葉には一定の魅力があるからね。
昨日、スコッチのシングルモルト「ラフロイグ」の10年を買ってきてちびりちびりやりながら、実に残念なことをした、と個性的で強烈な酒の故郷に改めて思いをはせたものである。
そもそも、なぜこの酒を買って帰ったか。
秋晴れの好天に誘われて自転車を引っ張り出し、海沿いのコースに向かったのが発端である。
台風崩れの低気圧の影響で強い風が吹いていたという認識はあったが、驚いた。
サイクリングコースのスタート付近から、見たこともない砂の山に行く手を阻まれてしまった。自転車をこぐどころではない。押すだけで足をとられ難儀する始末。
かつて、社会党が参議院選挙に女性候補をたくさん立候補させて「マドンナ旋風」を巻き起こし、与野党逆転となる大勝利を得た時、率いていた土井たか子委員長が「山が動いた」と表現した。1989年、平成元年のことである。懐かしいなぁ。
かつては山の一部だったんだろうが、海岸の砂はもっと簡単に動いてしまうのだ。
仕方なく引き返したものの、相変わらず風は強く、出鼻をくじかれたこともあって帰ることにした。
その道すがら、ふと頭に浮かんだのが「そういえばラフロイグが空だった」こと。
実に明快。「山の一部だった海岸の砂が大量に動いた」から、このスコッチを買って帰ることになったわけである。
「砂が動いた」のである。
テレビを熱心に見ないので、夜は活字を追うことが多い。その時、小さなショットグラスに入れて、ストレートを舐めるようにちびりちびり飲っている。
このウイスキーの特徴は何と言っても味と香りにある。
ウイスキー製造は麦芽を乾燥させるところから始まるそうだが、アイラ島というところにある蒸留所周辺で採れる泥炭(ピート)には海藻やコケが大量に含まれていて、ピートの煙でいぶしながら乾燥させる間に、香りが麦芽に移り、完成品から匂いたってくるのだ。
例えて言えば海藻の匂い、あるいはヨードチンキの匂いが香り立つ。消毒薬の匂い、と表現する輩もいる。そして舌にはほのかな甘さも。
そういうシングルモルトウイスキーだから、大好きか大嫌いかに分かれてしまう。
独立していたら、さしずめこの酒は主要産品として輸出され、値段も上がって行ったかもしれない。
それはそれでよし、であったのだが…

「砂が動いた」。片瀬海岸の太平洋岸自転車道スタート付近を覆う大量の砂。

ラフロイグ10年