決め手になったのは「お昼にあそこの天丼でも食べない? 」の一言だったので、まんまと餌に引っかかったわけである。
老婦人は間もなく87歳になるそうだが、どう見たってそんな歳には見えない。
この日はきれいな銀髪に濃くも無く、かと言って明るくもない緑色のワンピース風の洋服を着て、胸にトンボのアクセサリーをつけた姿がとてもオシャレでセンス良く見えたのだ。
妻が解説するところによると、安いものを見つけて来てはそれを上手にコーディネートして着ているファッションセンスは素晴らしく、日ごろから一目置いているのだという。
確かに男のボクが見ても、年寄りじみたところも無く、奇をてらう訳でもなく、シックだけれども何となくオヤッと思わせるような雰囲気を漂わせている人なのだ。
個展は「五人展」で活動拠点にしているサークルの内の腕自慢たちが自作を十数点づつ並べている。
いずれもアラエイティー、アラナインティーのいわば「遊行期」の人たちばかりだが、もう脱帽した。
それぞれが大した腕前である。
ボクがアラエイトとかアラナインになったとして、何かで誰かを脱帽させることが出来るだろうかと自問すれば、即「否」である。
で、ちょっぴり途方に暮れかけたような気分でいたら、その老婦人の絵の中の1枚にボクの目は釘付けとなった。
そこにはわが家の門代わりにしているバラのアーチが描かれていたのだ。
白くてかわいらしい小花を房のようにたくさん咲かせる「伽羅奢」とピンクの差し色を持つやはり白の小花の「バレリーナ」に濃い紫色の花を咲かせる「アフロディーテ・エレガフミナ」ともう一種類のクレマチスを絡めているアーチである。
「もう、とっても素晴らしくきれいだったので描かせていただいたんですよ」
その一言だけでも十二分に嬉しいのだが、描かれた絵には初夏の明るくて清々しい光が満ち溢れていて、写真とは比べものにならない美しさなのだ。
現物にだって引けを取らないかもしれない。
絵というものはそもそもそういうものなのだろうが、これにはほとほと感心させられた。
わが庭もついに額縁に収まるようになったか…
しかも赤い丸印が張られていて、売約済みだという。
誰かどこかのお宅の居間か何かに飾られるのである。しかも、買い上げた客は「バラが咲き出したらこの絵に描かれたアーチの前まで連れて行ってほしい」と老婦人に念まで押していったというのだ。
う~む。何ということでしょう!
驚きはまだ続く。ボクの家の隣に暮らす幼稚園児の龍之介クンが会場にやって来てこの絵を一目見るなり「あっ、〇〇さん家だっ! 」と叫んだそうである。
またしても、う~むである。今度のう~むは前のう~むとは比べようもなく深いう~むである。
龍之介クンの脳裏にも焼き付いているのか…
ボクは妻を突っついて赤丸をひっぺっがしてボクのものになるように交渉して見ろと小声でけしかけたのだ。
すると、もう1枚描いてもいいという返事が返ってきた。
この絵に描かれた5月の清明で明るい空気がたまらなく素晴らしいというようなことを言ったら「とっても励みになります」と「とっても」に力を込めてもう1枚描いていただけることになったのだ。
ボクもこの絵を部屋に飾ってこれからのバラづくりの励みにしようと思う ♪
ご近所の老婦人画伯の手になるわが家のバラのアーチ
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