平方録

美人に取り囲まれてきた

八幡宮の境内にある鎌倉国宝館の前を通ったら、ピンク色の大きな看板が目に飛び込んできた。
「氏家浮世絵コレクション設立40周年記念 肉筆浮世絵の美」と書かれている。
北斎、広重、歌麿、師宣、雪鼎、春章、長春…と画家の名前も書き連ねられている。
何より、版画ではなくて一つしか存在しない肉筆画というところに魅かれて覗いてみる気になった。

もとより、市民は「福寿手帳」を見せれば無料で見ることができる。高い住民税を巻きあげておきながら、ろくな住民サービスを行っていない鎌倉市唯一のささやかなサービスなのである。利用しない手はない。遠慮はいらぬ。
この手帳の利用価値はこれ以外に、鎌倉文学館と一部を除く市内の寺の拝観料が無料になることである。それだけのことである。
横浜市などは市内の民営バスを含めたバスと市営地下鉄はものすごく安いお金を払ってパスを手に入れれば1年間乗り放題である。
もともとは無料だったのが公営交通の大幅な赤字を前にして、いくらなんでもただというのは如何なものか、と当局の走狗となって議会で口にした奴がいて、有料になってしまった。この議員の家が、よく焼き打ちに遭わなかったものである。
とはいえ横浜市内を走るバスは日中、年寄りでとても込み合っているから、働き盛りの若者たちが小さくなっている。
この点は老人天国で、弁当を持って知らない路線のバスに乗ってくるだけでも、楽しみを見つけられるというものだ。

話がずれた。
浮世絵展を覗かねばならない。
氏家コレクションは製薬会社を興して財をなした氏家武雄という人が浮世絵の肉筆画ばかりを集めたもので、58点の作品群である。
葛飾北斎の「酔余美人図」、歌川豊広「柳下二美人図」、懐月堂安度「美人愛猫図一人立」、菱川師宣「桜下遊女と禿図」など素晴らしい。

北斎の酔余美人図は小さい作品だが、その存在感たるや大作をしのいで圧倒的ですらある。
しばし立ちつくして見入ってしまった。着物の色や模様なども落ち着いていて何とも言えない。
四角くて真っ黒の長持が画面をきりりと引き締めているし、何より白いうなじをさらして酔いを覚ましている女性の温かい吐息がこちらにまで届いてくるようである。真っ白な指もまた何かを語ろうとしている…
手前に朱塗りの杯を置いて酔い覚ましを表現しているんである。人物が対角線に描かれているところも動きを感じさせている。
そして何より色っぽい。実に色っぽい。

この国宝館の良いところは、何と言っても空いているところである。
空いているどころか、鑑賞者はパラパラ程度だから、じっくりタメツスガメツ見ることができる。
これが上野の実術館や博物館ではこうはいかない。
ここでは北斎や広重たちがぐっと身近に寄ってきてくれるのである。

氏家浮世絵コレクションは故氏家武雄氏と鎌倉市が協力して1974年10月1日に国宝館内に財団として設立したもので、毎年収集作品を公開しているようだ。知らなかった。でも楽しみが増えた。
思いがけずに良いものを見た。



葛飾北斎「酔余美人図」


鈴木春信「桜下遊君立姿図」


国宝館前に掲げられた蛍光ピンク色の看板。これに誘われてフラフラと…
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