ねがわくは 花のもとにて 春死なむ その如月の 望月のころ
西行法師の歌を引いて「かくありたいねぇ」と話していたとおりの旅立ちが、もうずいぶん前のことのように感じられる。
葬儀の後、遺稿集編纂の話が持ち上がり、編纂の中心を担ったNPOの「地球人間環境フォーラム」から昨日、10月30日の日付で発行された遺稿集が届いた。
少しばかり編纂作業のお手伝いをしたためである。
本の題名は「行くに径(こみち)に由らず」。
長い公務員生活を貫いた岡崎さんの信条を示す言葉で、知事就任に際して県庁職員に「県民のために仕事をする上で楽な道やバイパスを通るのではなく、正面から堂々と王道を進んで仕事をしてほしい」と訓示している。
届いたものは156ページと決して大部なものではない。表紙も硬い紙ではなく、学校の教科書のような和らなか装丁ということもあって、生前の人柄をしのばせるに十分なくらい質素である。
内容は環境行政についての考えを述べた環境庁時代のものから知事時代のもの、そして知事を辞した後に日々書き綴った来し方を振り返るような文章が、簡潔で分かりやすい言葉を使って表現されている。
既に読んでいたものもあるが、個人の思いを綴った文章は生前拝見する機会もないままだったものがほとんどで、それも「へぇ~」とびっくりするほど興味の対象が広く多岐にわたっていて、読書家だった人柄をしのばせるに十分である。
わけても2008年に地元のロータリークラブでの講演録「環境問題 思いつくままに」は現状分析から将来展望まで、環境問題の本質をやさしい言葉でさりげなく解説していて実に分かりやすい。
中学生や高校生にも十分通じる内容で、こういものを学校で読ませたらいいのにとさえ思う。
胸を打たれるのは、知事を辞めた2年後の2005年7月7日の七夕の夕に犬の散歩に出た奥さんと長女の2人を落雷事故で一度に失った当時の文章。
感情を抑えに抑え、出来るだけ平静に書こうとすればするほど、行間からお2人に対する愛情の深さと惜別しがたい感情がにじみ出ていて、痛々しくさえあった。
そして奥さんとの思い出を書き残した文章を目にした時は、思わず涙腺が緩んで文字がにじんでしまった。
私欲のない、県民のためにという強い意思を貫き通した知事の真髄にあふれた自筆文章の数々は哲学書や人生論の書でもあると言っても差し支えない。
ボクにとっては簡易な装丁とは裏腹に重量感に満ち溢れた珠玉の一冊を手に入れた思いである。
{注}残念ながらこの本は市販されない。
ぜひ目を通してみたいという方がいれば、「地球人間環境フォーラム」のホームページにアクセスすればテキスト版としてダウンロードできるようになる予定なので、そちらからどうぞ。
出来上がった岡崎洋遺稿集「行くに径に由らず」
昨日の富士山=片瀬西浜から
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