平方録

ああぁ~、勝っちゃったよ!

初日から勝ちっ放してきた新横綱が13日目に対戦した先輩の横綱に土俵の下まで吹っ飛ばされたと思ったら、打ち所が悪かったと見えて立ち上がれず、結局救急車で病院に運ばれるというアクシデントに見舞われてしまった。

好事魔多しとは言うけれど、この20年近く不在だった日本人横綱が誕生し、その初めての場所で優勝争いのトップを走り続けていたのに、あろうことか悲劇が待ち構えているなどということをだれが想像したか。想像できたか。
あの様子じゃぁ休場だろうと誰もが思っていたら、何と休まずに出てきて「おぉ、よかったよかった。大したことはなかったんだ」と思わせたのもつかの間、14日目に対戦したもう1人の先輩横綱相手にまったく力が入らず、痛みに顔をしかめるありさまでは、つくづくこの横綱は悲劇的な星のもとに生まれついたものであることよ、と嘆息を漏らさざるを得ないほどであった。

通常なら、結末の分かり切ったお涙頂戴の芝居じゃぁあるまいし、千秋楽のテレビ中継など見もしないのだが、そこが日本人の日本人たるゆえんかと、つくづく思うのだが、悲劇の主人公の悲劇のストーリーの結末を最後まで見届けてあげて、引導の一つも渡してあげようろうという気になる人が多かったと見える。
ボクもその1人で、負けるところを見届けたらさっさと風呂に入って、すべてを洗い流した後に涙酒で一杯やろうと考えていたんである。
それがまぁ、あろうことか、優勝決定戦まで2番も勝負し、立て続けに勝って優勝してしまったのだからキツネにつままれたような展開、話なのである。

来し方を振り返れば、この新横綱の道のりは何度も何度も優勝のチャンスをつかみながら、最後の最後にぽろっと負けてしまい、相撲ファンの期待を裏切り続けてきたものだった。
だから大くのファンが横綱昇進も初優勝もあきらめかけていたら、ライバルたちがが次々と休場する幸運にも恵まれ初優勝にこぎつけ、連続優勝かもしくはそれに準ずる成績という横綱昇進のための内規もあらばこそ、あれよあれと横綱に推挙されてしまったのである。
その挙句の悲劇――、。誰もがそう思ったはずである。

別な見方をするならば、次から次にハラハラドキドキさせてばかりいるわけで、それはそれで見世物としての大相撲という観点からすれば、ファンの心をくすぐり、気になりすぎる存在、決して無視できない存在として心をしっかり捕えてしまっているのである。
そういう点において、この新横綱の存在は横綱になる前からそうであり、横綱になったら圧倒的な強さで勝ち進むんだろうという淡い期待もものかわ、横綱になってもまだハラハラドキドキさせる存在で居続けようとしているかのようである。

まったくもって面倒くさい男、面倒くさい相撲取りなのだが、日本人という人種は圧倒的な強さを誇るような存在より、どこか一本抜けているような、強そうでいていざという時にコロリと負けてしまうような存在に惹かれる性分なのである。
悲劇性への共感と言ったらいいのか、はたまた「おしん」のような健気に必死に生きようとする人に同情や共感の心を寄せるように、なかなか前には進めず、よしんば前に進むにしたって、つっかえつっかえ、わずかずつしか前に進めないような存在を是とする性分なのである。
源義経しかり、今あげた「おしん」しかり、日本人の大いに好む人物像なんである。
稀勢の里という「滅多にない、まれな勢い」というしこ名を持つ新横綱が持っているという「まれな力」とは、ハラハラドキドキでファンの心をやきもきさせる力だったのかと、ここでも慨嘆せざるを得ないが、それもまた一つの形であり、日本人の好む典型ならばそう受け止めるしかないんである。

相撲界で最高位の実力を持つ力士に与えられるのが横綱という名称だが、わけても一番強い横綱に贈られる称号が「日下開山」である。
ヒノシタカイサンともヒノシタカイザンとも発音するが、この新横綱を何と呼ぶべきか。少なくとも金剛力を誇る「日下開山」ではないことは確かなのである。

ボクの文章まで屈折してきてしまったか…?



わが家のアネモネ紅白
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