平方録

鎌倉の田んぼ

我が家の近くには鎌倉市内でも極めて貴重になった田んぼがある。

猫の額くらいの小さな田んぼだが、周囲には畑やビニールハウス、低い丘や茅葺きの家も2、3軒残っていて、ちょっとした田園風景である。

この田んぼで昨日から腰の曲がってしまったお爺さんが稲刈りを始めた。
始めたと言っても、たった1人で釜を手に稲の根元に腰を折りたたんで一株一株刈っているから、能率云々の話ではない。
午後1時頃通りかかった時に稲刈りに気づき、再び2時半頃に通った時には刈り取り面積は大して広がっていなかった。そんなペースのようである。
この分だと刈り取りが終わるまで、1週間か10日はかかるのではあるまいか。

見渡す限り広がる田んぼならいざ知らず、猫の額である。おそらく、土日に家族総出で本格的な刈り取り作業をするのだろうが、爺さんにしては実った米が愛おしくて、ゆっくりで良いからじっくりじっくり刈り取りたかったんだと推測している。
大型台風が2週連続で襲来してきた時は、さぞや心配したことだろう。幸いなぎ倒されたりする被害も全くなかったのだから奇跡的と言ってよい。

爺さんの逸る気持ちもなんとなく分かる気がするのである。

ここの田んぼは珍しい存在のため、田植え時期には近くの幼稚園児や小学生たちが体験田植えをする光景も見られる。体操服姿の子どもたちが苗を片手に持って危なっかしい格好で泥田に足を取られながらガヤガヤやっている。
わざと転んで泥まみれになる腕白もいるかもしれない。

夏になればザリガニが取れるし、稲を刈り取った後にはコサギやアオサギも来て土の中の生き物を探して突き回る姿が見られる。
この田んぼには合鴨が放たれていた。おそらく雑草が生えないようにするためだと思うが、お役目が済んだ後の彼らの運命はどうなるのだろう。ひょっとして収穫祝いの鴨鍋の中身だろうか?

娘たちがまだ小学生だった頃、今から30年ほど前になるが、ここにはホタルがたくさんいて仕事帰りに深夜この道を通ると、稲の葉陰で小さな青白い光が点滅していたものである。

当時はタバコを吸っていたからタバコの箱を包んでいるセロファンに捕まえたホタルを入れて千鳥足で家に戻り、娘たちに「おーい起きろ、ホタルを捕まえてきたぞ。綺麗だろう」などとやって顰蹙を買ったのも今は昔である。

10年ほど前からこの場所でホタルを見ていない。


完全に腰の折れ曲がってしまったお爺さんの稲刈り作業
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