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私は誰?ここは何処?

先日話題にした映画ジェイソン=ボーンの三部作はいずれも面白かった。一作目は主人公ボーンがスエット・スーツ姿で海に浮かんでいる所を漁船に助けられる所から始まった。彼は自分が誰なのか判らない。名前も知らなければ今まで何をしてきたかも思い出せない。が、自分の身に危険が迫ると野獣のようなすばやい動きと勘でそれから逃れる。観客は彼と同じ気分で彼が何者なのかをドキドキしながら追ってゆくことになる。

この緊張感が完結する第三作まで続けられたのが原作者ロバート・ラドラムの腕なんだろう。ぼーずは一時、桐野夏生さん描く所の“メタボラ”という新聞小説にはまっていたことがあった。主人公は記憶喪失の二十代の男性、ボーンと同じで何も覚えていない上に、ジャングルらしき所をさまよっていた。但しこちらは種明かしが進むにつれ興味が薄れてゆき、最終編では『これは無いだろう』とぼやく羽目に陥ってしまった。

映画や小説ではこの記憶喪失が重要な要素となる事があるが、実際の生活で『私は誰?』状態になったという話はあまり聞かない。記憶喪失がないというのではない。そう『ここは何処?』は結構あるからだ。試合中にラグビーで頭を打ったプレイヤーは必ずレフリーからチェックを受ける。外傷は無くともまっすぐ立てるか、脳にダメージはないか等だ。

と言っても医者ではないので精密検査が出来るわけではない。簡単な質問に答えられるかをチェックするのだ。レフリー講習会では相手チーム名や会場の位置を尋ねる様に指導された。ところがこれが意外に難問なのだ(笑)。一部二部の有名チームならともかく、三部四部になると馴染みのないチーム名もある。ましてや四部あたりになると15名の選手を集めるにも苦しむチームがあり、学生時代のチームメイトを、打ち上げを餌に連れてきたなんてところもある。

相手チーム名やグランド名を聞いても日雇いプレーヤーの中には本当に知らない奴がいるのだ。ぼーずは『貴方のポジションは?』とか『今日は何曜日(日付だとこれも答えられない奴がいるので)?』と聞くようにしてきた。聞かれた方は大抵が『このおっさん何言い出すんや?』と怪訝な顔でぼーずを見る。そして笑いながら『大丈夫です。今日は日曜日』等と答えてくれるのだが、中には『えへへ、そんなもん判ってますよ。えへへ』と笑うだけで、最後まで答えられない奴がいるのだ。
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