AKB48を卒業後、前田敦子、大島優子、秋元才加らが「女優」の道へまい進するなか、篠田麻里子は、ドラマなどへの出演はあったものの、仕事の中心は「演じること」ではなかった。そんな篠田が、天才 ・園子温監督作『リアル鬼ごっこ』でトリプルヒロインの一人を務めた。「選択肢に入っていなかった」という女優業──。本作出演によって彼女はどんな想いを抱いたのだろうか。
タイトルからインスピレーションを受けた園監督が“何かが何かに追われる”という設定だけを活かし、完全オリジナルで挑んだ意欲作。そんな作品のヒロインに抜擢された篠田は「園監督の作品はパワフルでエネルギッシュな作品が多かったので、これまでの自分じゃない部分が出せるのかなって思いました」と撮影前の心境を語る。
彼女の思惑通り、劇中、篠田演じるケイコは、壮絶な“鬼ごっこ”を繰り広げ、今までと違った一面を見せてくれる。「これまでは役作りをしていくという過程で、セリフや言葉にとらわれていたのですが、この作品はまさに放り込まれた感じ。園監督からは『物事を頭で考えすぎないで』とアドバイスを受けました。身体が動くことで、心がついてくる感覚。まっさらな気持ちで臨めたので、その空間を楽しめたんです」。
これまでの篠田は“演じること”に積極的ではなかったという。「私の中で“女優”というカテゴリーは仕事の選択肢に入っていなかったんです。一番向いていない職業だなって……」と胸の内を明かす。「初めて演技のお仕事をさせていただいたとき、ちょっとしたトラウマがあって……。それ以来、演技のお話をいただくたびに辛かったんです。演じることの楽しさや魅力が見出せず、遠ざけていました。AKB48を卒業するまでは、自分からお芝居をやりたいと思ったこともなかったんです」。
そんな篠田にとって、本作で得た「楽しめた」という感情は“女優”という仕事に大きな変化をもたらした。「人の人生を自分が体験、体感できるってすごく魅力的だし、楽しいんだなって思えるようになったんです。今回、園監督の作品に参加させていただいて『こういう作品のアプローチの仕方もあるんだ』って挑戦心が芽生えてきました。女優さんになりたいなんて大きなことは言えませんが、この作品に巡り会えたことによって、多くのことを発見できたので、経験を無駄にしたくはないですね」と前を見据える。
これでもかという“困難”が降りかかる本作。高校生の制服姿やウエディングドレスを着ながら、血みどろの激しい立ち回りのシーンを披露している。「どんどん汚れて血まみれになっていきますよね。そういう自分にワクワクしました。汚されていくうちに、いい意味で“どうにでもなれ”って感覚になるのですが、その気持ちってすごいパワーを生み出すんです」と語った篠田。続けて「もっと大胆なシーンもやりたかったし、自分を極限状態に追い詰めてくれるのことに興奮を覚えました。私ってドMですね」とニヤリ。
一方で、「困難には立ち向かうように見えて、いったんは(結論を)持ち帰るかも」と冷静な一面も持ち合わせている。「色々なお話をいただいても、即答しないタイプですね(笑)。何事にも不安を感じてしまうんです。でも、やった先にある達成感や喜びも知っているので、絶対チャレンジした方がいいというのも分かっている」。本作で“達成感”を得た篠田の今後の女優業に注目だ。(取材・文・写真:磯部正和)
映画『リアル鬼ごっこ』は7月11日より全国公開。