朝日新聞1月12日朝刊記事より、司馬遼太郎記念財団は11日、生誕100年を迎える同氏(1923~96)の好きな作品のアンケート結果を発表した。トップ3は「坂の上の雲」「竜馬がゆく」「燃えよ剣」だった。ここまで引用、以下筆者の感想、見解。
妥当なところだ。4位に「街道をゆく」が入っているがこの作品はエッセイなので別部門という気がする。5位「峠」「花神」「国盗り物語」「菜の花の沖」「関ヶ原」「世に棲む日々」とランキングされたが、これらの長編小説は過去にドラマ化されたり映画化されたりした作品ばかりだ。やはり映像化されると人気が出る。映像化される価値があるから、映像化されるのだが。
2位は歴史小説というより大衆小説に近い。作家の若書きという感想をもっていて推せない。しかし作中に出てくる史上の人物が滅多やたら多く、その来歴もそれぞれ紹介されていて、この作家は何という該博な知識の持ち主なんだと初読で感心した記憶がある。
3位は土方歳三を美化しすぎ。わたくしは映画を見ていないが、思想的に新選組は好きになれない。勤王の志士側に立っているので。土方は捕らえた志士を酷い拷問にかけている。それが池田屋事件につながった。ここでは勤王の志士を何人切り殺しているか。これも大衆小説だ。
順序は前後するが、1位は歴史小説と称するにふさわしい。当時の日本の情況、ロシア観、世界史観が明瞭に描かれている。帝国主義の時代はあんな雰囲気だったんだろうと思う。日本の明治時代を扱っていて、物質的には貧しい時代なのだが世相は明るい。新しい国づくりに国民は燃えている。
このトップ10の小説でわたくしが好きなのは「花神」と「世に棲む日々」だ。大村益次郎、吉田松陰、高杉晋作が主要人物で、他にも長州の人物が無数に登場する。伊藤博文や山県有朋は晋作の子分的存在だったと「世に棲む日々」を読んで知った。明治陸軍の創設者は大村益次郎だ。松陰に兄亊したのが木戸孝允だった。井上馨と高杉は莫逆の同志だ。
長州藩は幕末ほとんど滅亡寸前まで追い詰められたが、高杉晋作の功山寺挙兵によって逆転、興隆していった。長州人は怜悧であるという世評で、尊皇攘夷のスローガンを有言実行したので京では人気があった。
しかし「翔ぶが如く」が10位内に入っていない。司馬氏は大久保びいきだった。明治以降の西郷をあまり評価していない。版籍奉還、廃藩置県の政治過程では西郷の偉望なくして達成できなかったと思う。明治政府最初の実質上の首相は大久保利通が務めた。司馬氏のこの長編で描かれる西南戦争観はわたくしは納得ゆかない。西郷には勝つ意志がそもそも始めから無かったように思う。