農政改革、コメとWTO、という3回シリーズ。
農業で、経営者政策がうまくいってないのは、農地法規定をそのままにし、経営基盤強化法など、別の法体系で対応しようとしているから、まるで、ブレーキを踏みながらアクセルを踏むといっているようなモノ。
だから、本音のところで、経営者育成が阻害されてしまう。川上記者はそのへんのところをうまく捕まえて書いている。
以下記事
専業農家の間で「貸しはがし」の広がりが懸念されるようになった。
銀行融資の引き揚げではない。専業農家が、兼業農家から借りて耕作していた農地の返却を迫られることだ。
高齢化や後継者不足で耕作できない兼業農家は、農地を貸して借地料を得る。農地を借りた専業農家は規模を広げ、効率的な経営を行う。農地は住宅地などに転用できる可能性があり、これまでも兼業農家が返却を求めるケースはあった。
しかし、最近は違う。ある専業農家は借地先から「地元の集落に農地を貸さないと、集落で責められる」と言われた。
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この背景には、政府が来年度の導入を予定する新政策「品目横断的経営安定対策」がある。
政府は昨年三月、やる気と能力のある農業経営者を「農業の担い手」と位置づけ、担い手を軸にした農政への転換を明確にした。品目横断的経営安定対策は、これまで決まった作物を作ればどの農家も受けられた補助金をやめ、担い手に補助金を集中させることを目指す。世界貿易機関(WTO)交渉の進展による農業の国際化に備え、担い手を支える安全網の役割を持つ。
担い手は当初、専業農家や農業法人にほぼ限られるはずだった。しかし、補助金を受けられなくなる兼業農家への配慮からか、二十ヘクタール以上の農地を集約した「集落営農」も対象になった。
兼業農家などが地域内で共同して耕作する集落営農を組織すれば、補助金を受けられる。今夏以降、補助金受け付けが本格的に始まる。貸しはがしの広がりが懸念される理由だ。
ただ、農地は担い手が経営に応じて集めるのが筋。農地集めが先に立つのは順序が逆だ。農業問題に詳しい大泉一貫・宮城大学事業構想学部長は「補助金目的の集落営農は責任の所在があいまいで、やがて立ちゆかなくなる」と指摘する。
旧農業基本法は、農家と工業従事者の所得格差の是正をうたい、「農家は弱者」と位置づけた。ところが、兼業農家を含めた農家の平均所得は十年以上前から勤労者世帯を上回っている。旧農基法は改められたが、農家に対する過保護の構造は温存された。
「多くの農家は今でも自分を弱者と思いこみ、政治の力で農村が都会のようになることを望んでいる。そんな意識は変えなくてはならない。経営感覚を磨き、自立する気構えが必要だ」。大泉学部長は訴える。
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一方、経営感覚を持った担い手の導きで、収益を上げる集落営農もある。
三重県いなべ市藤原町古田。兼業農家四十五戸の集落。周囲を山で囲まれ、約二十ヘクタールの田んぼ以外、特に何もない。しかし、集落の直売店には、名古屋市などから年間三万人が訪れる。お目当ては地元のもち米で手作りした草もちだ。
「コメを作って農協経由で売るだけでは、経営が続かない。生産に加え加工・販売も一体で手がけることで経営を成り立たせる」。直売店を運営する農業法人・藤原ファームの代表取締役、近藤正治さん(71)は草もち作りの意図を説明する。
近藤さんは十年前、集落営農の運営を託された。地元で縫製工場を営んでいたが、安い輸入品の流入で閉めざるを得なかった。「二度目の失敗は許されない」と腹をくくり、大部分を出資して農業法人を設立した。
農村で余暇を楽しむ「グリーンツーリズム」にも力を入れる。田植えやそば打ちなどのイベントに、都会から多くの人が集まる。「緑がきれい」「鳥の声が聞こえた」。うれしそうな感想に、近藤さんは何もない田舎の良さを教えられるそうだ。
(メモ)
品目横断的経営安定対策 「日本型直接支払い」と銘打った政府の新政策。直接支払いとは、生産する農産物の価格に影響を与えないように農家の所得を直接補償する政策。
WTO交渉でも「自由貿易を歪曲(わいきょく)しない」として認められている。欧州連合(EU)は直接支払いを段階的に導入、農業の構造改革を進めた。
安定対策の対象品目は麦や大豆など。コメも対象に含まれてはいる。だが、国産米は高関税で安い輸入米から守られており、日本政府はWTO交渉で高関税品目の税率引き下げに反対しているため、補助額は他の対象作物よりかなり低く抑えられている。
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