今日の一貫

日本農業 飛躍の条件

13日の日経新聞
『今を読み解く』に、
「日本の農業、飛躍の条件」
副題が、「不可欠な地方分権」

 時代の節目で常識や見方が変わるのは良くあることだ。強い
と思っていた日本の産業にかげりが見える一方で、一昔前まで
遅れた産業とみられていた農業がいま、夢と可能性をもって語
られている。
 田舎暮らしや市民農園などは既に定着した感がある。最近は
若者やギャルが、農業をファッションのように意識し始めたと
いう。自分たちで作った色とりどりの野菜が食卓に並べば、た
しかに話題に事欠くことはない。生活にも潤いが増すだろう。
 農産物輸出も活発になり、国際価格の何倍もの値段で売れる
ようになった。産業としての可能性も見え、農業は何か不思議
な魅力を秘めていると感じる人が増えてきた。
 浅川芳裕『日本は世界5位の農業大国』 (講談社十α新書、
2010年)は、タイトルのごとく、日本を農業大国と表現し、
魅力ある産業だとして自信回復を促している。しかも日本の一
人あたり輸入額は、英・独・仏よりも少ない位置にあるとい
う。これまで自給率40%の食料輸入大国といわれてきたのだか
ら、まさに常識の大転換である。

●弱者とされた農家
 日本農業は弱いとするのがこれまでの常識だった。国土は狭
く、どんなに努力しても米国やオーストラリアの大農場にはか
なわないとされてきた。これは高度経済成長時代の農政思想が
作り上げたものでしかないとするのが山下一仁『亡国農政の終
焉」(ベスト新書 同)だ。
 我が国では、農業も農家も弱者とされ、米価維持をはじめと
する各種の農家保護政策がとられた。世界最低の食料自給率だ
と危機意識をあおり、コメの高額関税維持によって農業を守ら
なければならないとする主張がなされた。自民党、農協、政府
の政官業のトライアングル構造によって作られ維持されてきた
農政思想であり、山下は、こうした農政を、農業の成長発展を
目指す本来あるべき農政思想からはずれたものと断じる。
 保護農政の行き着く先は、高齢化と兼業による担い手の枯渇
状況でしかなかった。そんな状況下でも青山浩子『強い農業を
作る』 (日本経済新聞出版社・09年)は、食の安全訴求やブラ
ンド化など現場から見えてきた農業の成功方程式を語る。財部
誠一『農業が日本を救う』 (PHP研究所、08年)も、カルビ
ーやカゴメのシステムを紹介し、輸出戦略をも視野に入れ、
農業が日本を救う、農業は成長産業になると言い切る。

●ノウハウの蓄積を
 「弱いもの」と「魅力あるもの」との間で、農業の可能性を
どのように開花させるのか、今必要なのは、そうした発想だ。
 農業が成長産業になるには様々な条件がありそうだ。イノベ
ーションの方向として見えてくるのは次の3つのことではない
か。まず、山下や財部が言うように、農政を成熟国型農政へと
転換することであろう。財部の農業成長産業論はこれまでの農
政の転換が前提となっている。
2つ目は農業をビジネスとして成長させるための法則をつかむ
ことであり、3つ目にそのための人材確保、新規参入の推進と
ノウハウを蓄積することである。人材に関して言えば、枯渇
する農業の担い手の対極に、農業の可能性を感じとる多くの人
々が登場してきているのが強みだ。参入障壁を低くして、農業
は多くの国民や企業に解放されるべきだろう。
 農業を成長産業にするための法則というのも実に単純なこと
かもしれない。青山たちが主張するのが、顧客志向であり需要
創造であり流通改革である。顧客は隣人から世界市場まで多様
にあるというのも大切な視点だ。それに見合ったビジネスモ
デルの構築も必要だ。IT(情報技術)など知識集約産業など
との連携や、生産性を高める仕組みが求められている。
 おそらく農業には様々なスタイルがあっていい。それぞれの
地域で、それぞれの人々のライフスタイルにあった農業がある
はずだ。これまでのような政官業の一部の人々が考えてきた型
にはまった発想ではなく、多様なイノベーションの方向が現場
から模索されていいのではないか。農業にこそ地方分権が必要
なのだ。それがはじまろうとしているところに私たちはたって
いる。
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