米業界にとって重要なのは、これを業界の健全発展への絶好のチャンスとしなければならないということだ。
まず第一に、誰もが疑問に思うのは、取引監視委員会がなぜ機能しなかったかである。米穀取引・価格形成センターの機能そのものについては、いろいろと問題が多い。そもそも米業界では、市場実勢を反映しないセンター価格や、買い戻しが存在するかもしれないというのは語られていること。
食管法時代に作られた、全農が圧倒的な力を持つ市場構造、それをそのままにしながら、入札、市場原理の導入というのが不正の温床になっている。義理と人情がまかり通るこの世界で、卸が全農の要請に応じて買い戻し入札に嫌々応じさせられることが絶対にないとは言えない。そうしたことが価格のつり上げにつながり、そうならないように監視するのが監視委員会である。
センターの監視委員会はそうしたこともふまえ、全ての入札者の入札事情を知悉した上で、監視を機能させることが役割のはず。とても片手間・兼業でやれるものではない。
しかしこの事件で改めて委員を見てみたら、ほとんどが私の友人や知人ばかりだ。とてもコメ取引の監視役を全うできる人たちとは思えない。取引の実務に関わったことのある専門家といえば、平野氏ぐらいのものであろう。あとは片手間。大学教授やマスコミなど他に本業を持ちながらの兼業監視員だ。委員長は今村 奈良臣(運営委員長・東京大学名誉教授)先生。http://www.komekakakucenter.jp/intro/index.html
これらのメンバーは本来なら、顧問や運営委員会、あるいは理事会メンバーとなるべき人達であろう。また、片手間でも地方の農政事務所を手足のように使える権限があれば、それでも良い。中立性を意識したのだろうが監視は片手間でいいという事ではないはずだ。実際現物市場の充実は必要なのだから。コメ市場を本当の市場として真剣に機能させようとしているのか、疑問を感じさせるものとなっている。この点、私は、米政策改革大綱への問題点として指摘し続けていることである(拙著「農業と経済」参照)。
結局、監視委員会の役割・機能の位置づけが間違っていたのではないか。
どんなに金をかけても監視機能を充実しておくことは、コメ市場の生命線だったはず。実際これから先物やらが出てくるとすれば、なおさら厳格な運営と監視が求められる。監視は証券市場並のものが必要とされるのではないか。米価格センターは穀物商品取引所等を参考にしたらいい。
証券市場に見習うとすれば、もう一つ重要なのは、プレーヤーの倫理観である。
1940年にメルリリンチがニューヨークに支店長を集め、倫理観の徹底を指示した会議があったという。メルリリンチ日本の今井さんに教えてもらった話だが、アメリカ証券市場も20年代は未成熟で、個人投資家に多大の損害を与え、余り芳しい業界とは思われていなかったという。日本でも近年まで株屋などと蔑視されていた。そうした市場を倫理観あるものにするにはやはりプレーヤーの倫理観の徹底が必要なのだというので開かれた歴史的会議だという。
わが国でも卸業界や集荷業者はやはり倫理観が足りないと言われている。襟を正す必要があるだろう。
ただ、コメ市場の最大の問題は、食管法時代の構造を残しながら市場経済化しようとしていることである。これが今回の事件の最も本質的なポイントである。
これを正す必要がある。市場は売り手としての全農の独占状態にあり、また買い手に売り手の同族会社がいる。そもそもこんなばかげた取引市場があって良いのだろうか?食管法時代に作られた安定供給システムが今は機能不全に陥っている。しかしそれこそが安定供給上必要とする人たちもいて、それへのイリュージョンを払拭しきれないまま今日まで来ている。
他方、買い手としての卸は、GMSからシビアな要求を突きつけられて、この9年間身の細る思いを続けてきた。業界は構造再編のまっただ中にある。
そんな「市場」構造下で、集荷業者全農の意識文化は、売れ残ること、あるいは価格が下がることを極端に嫌う文化だ。コメの仮渡し金制度が最大のネックだ。また、「15年産売れ残りは、政府の責任」、といった様な、弱者意識・被害者意識を持ち、自己責任をあまり感じない文化も根強い。全農が価格操作をしようとすれば、卸に圧力(御願いというのだろうが)をかけるのは簡単なこと。倒産相次ぐ卸業界は、唯々諾々と従わざるを得ないだろう。政府はこの様な市場構造にどの様な手を打ってくるか?
政府が本気になるとしたら、これは単にコメ価格センターだけの問題ではない。価格下落に対するセーフティネットをきっちり張った上で、大胆な市場改革が必要なのだが、他方のセーフティネットも心許ない。いま政府が言っている「品目横断政策」では、ダメというのは「稲得」や、「担経」が既に実証済み。
95年の食糧法制定は、市場経済下の第一ラウンド、これは政府が支えた市場経済化であり、量販店主導の市場経済化。これが04年から第二ラウンドに入っている(拙論、日経MJ参照)。第二ラウンドの特徴は、完全なビジネスの世界になっていること。それは「仕組み」をきっちり作った物が勝つ世界。そのためにも市場はフェアーでなければ行けない。
政府は自らの市場からの撤退過程で、市場を如何にフエアーなものにするかを真剣に考えるべきだろう。それは米市場の再構築だ。一言で言えば、プレーヤーとしての全農への対応如何と言うこと。
もちろんその中で守るべきものも明確にしなければならない。私は、産業として成立するコメ生産業だと思っている。
全農秋田の不正コメ入札事件は、コメ市場や米政策を抜本的に変える絶好のチャンスなのだが。それを「単なる事件」で終わらせてしまうかもしれない。
ここは一度じっくりと全農の人たち、および農水省の計画課のと忌憚のない意見交換をしたいところだ。
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