今日の一貫

民主党 戸別所得補償政策への疑問 その1

民主党の「戸別所得補償」の中身が明らかになった。
先週(10月15日)10年度予算概算要求の中で、全国を対象としたモデル事業を行うのだという。
総額3447億円。
ほかに別枠で、2171億円
別枠には、これまでの生産調整にともなう「産地作り交付金」が名前を変えてシフト。
その名前も、「水田利活用自給力向上事業」とネーミングがいいし、生産調整達成ともリンクさせていない。生産調整は選択制だ。

これ石破プランの3の④だ。


ただ、民主党の補償に疑問はいくつかある。

①まず、生産費と価格の差額補填というそもそものスキーム。
戸別の額をどうやっておさえるというのだろうか?

結果は平均でいくのだという。
平均で損失が出たらその分固定支払い。
しかも規模・地域に関係なく固定支払い。一律だ。
過去数年(5中3か?)の標準価格と標準コストの差を定額部分として全農家に固定額補填するという。
価格がさらに下がったらそれと標準コストの差額の全額を補填すると言うし、価格が上がったらそれでも固定額は全額補填という。

もっとも個々の農家の価格や生産費は把握・補足しようがないから当初から無理とは思っていたからさほど驚くに値しないが、それでは「戸別所得補償」の名に値しないではないか。
平均所得補償だ。

②二番目はこれが戸別所得補償制度の全容かどうかと言うこと
まず、単価だが、
総額3371億円と言うことは生産調整面積は160万(152万)haだから、生産調整参加の全農家に2万円/10aほどの現金が配られることになる。
この単価でいいのか?
1万円位の額を固定で後は、赤字の大きい兼業農家になどと言い出すのかどうか?

この単価と平均固定額で計算すると、大規模層に有利になる。
大規模層は、コストが低く、自己販売で高い価格を実現しているからだ。たとえ価格が同じでも、コスト部分で有利になるだろう。

ところが、民主党のマニフェストには、次のように書いてある。

まず、「規模、品質」要件を入れると書いてある。
さらには「小規模の農家を含めて農業の継続を可能」とできるようにと書いてある。
ということは、今回出てきた制度設計で、規模も地域性も関係なく、固定でという仕組みは、マニフェストに違反していると言うこと。
マニフェストをきちんと理解すれば、やはりここは残りの部分で小規模層に手厚く保護をかけるのだろうと読むのが普通の考えだろう。

まーそうなってはほしくはないが、、.今出てきてるのが戸別所得補償の全容とは思えないのもそうした理由からだ。

③今出てきてる限りでの、つまり全額定額支払いの戸別所得補償だとすれば、大規模層に有利とはいうものの、その中身は決して構造改革を推進するようなものではない。構造改革にアクセルを踏むものではない。

石破シュミレーションの「3の④」のような、大規模層に絞った「ならし」の「水田経営所得安定対策」と併用してはじめて構造改革の意味が出てくる。石破シミュレーションは、「水田経営所得安定対策」と併用だ。これ、8万5千戸の立派な農業者が参加、49万haの水田をカバーしている。
が、今回の戸別所得補償から民主党は「水田経営所得安定対策」を抜いてしまうようだ(22年度概算要求はしているが、23年度からは廃止の予定らしい)。

単独では、構造改革的な意味合いは非常に弱くなる。逆に価格支持政策的な意味合いをもつ。定額部分を超える額が、価格の取れない兼業農家へ行くことになるので、構造政策とは逆方向に機能する。逆選択だ。
構造政策に寄与すると言うことなら、私が批判した「農地流動化加速化事業」の方がまだましだった。ただ、農地流動化加速化事業は農協の利権になる。



④単なる価格支持と異なる点は、価格は市場原理に任せる点。従って市場歪曲的ではない点だ。その点確かに消費者余剰は増えるので戸別所得補償が評価される点の一つはそこにある。

⑤また、固定支払いだけなら、規模、地域を、無視している点から、兼業農家が「赤字になればなっただけ補填してくれるので赤字にした方が得」というモラルハザードを起こすかも微妙だ。しかし、これだけ生産費を補填してくれるなら、やはりコストダウンの努力は弱くなると考えた方がいい。

⑥またこれだけの補助金を「全販売農家」を対象にして補填することが、農政にとって、はたまた日本にとって意味あることなのかも考えるべきだろう。
我が国の販売農家の1戸あたり耕作面積は1,4haだから、10アール2万円としても単純に計算して1戸あたり28万円の補助金が交付されることになる。

対象農家となる当の「全ての販売農家」の実態は以下のごとく。
戸数にして170万戸。内訳は以下。
主業農家戸数 35万戸。所得548万円。農業所得420万円、農業所得率78%。
準主業農家戸数40万戸。所得592万円。農業所得48万円、農業所得率8%。
副業農家   95万戸。所得445万円。農業所得32万円、農業所得率7%

つまり、農業所得が全体所得の7-8%しかない農家、金額にして32-48万円の農家が、全販売農家の8割にも及ぶ135万戸に28万円が支払われるということ。小規模農家維持政策といって良い。その様な政策の国策的な意義はどこにあるのだろうか?。


⑦全販売農家の8割にも及ぶ、準主業・副業サラリーマン農家(農業所得は全体の所得の7-8%しかない小規模販売農家)に、彼らの農業所得の6割から8割に匹敵する補助金を交付するというのが戸別所得補償の本質と言って良い。
こうした政策に一体どのような意味があるのだろうか?

「全ての販売農家」を対象とするこの政策は、意味のあることとは思えない。主業農家と全く同じ体系の中でサラリーマン農家のための所得補償が組まれているというのはやはり納得がいくものではない。

⑧直接支払い制度は、消費者負担から財政負担へと道を開くもので、その点確かに消費者余剰は増えるので戸別所得補償が評価される点の一つはそこにある。
しかし同時にこの政策は、国際基準に沿って何らかの農業の課題を解決するために存在するもの。その一つは、国際競争力を強化するための農業の構造改革を推し進めることにある。痛みを伴う改革だけに、そのセーフティネットとして機能するためにこの政策が設けられるのではないか。
政策的な意図の明確ではない直接支払いは、単なるバラマキといわざるを得ない。

⑨今回概算要求で、考えられている戸別所得支払いの関連施策として、「水田利活用自給力向上事業」がある。
これも問題の多い政策なので、時を改め、別項でその課題を書いておこう。

コメント一覧

o
(長いです)
①「戸別所得補償」の名に値しない
 戸別所得補償の「戸別」とは、農家戸別の収入などに応じて補償するという意味ではありません。農協などを経由せず国が農家「戸別」に直接支払うという意味です。したがって平均値をとるのは何の不思議もないのですが、おっしゃる通り依然として、ちっとも差額補填になっていないという疑問は残りますね。

②これが戸別所得補償制度の全容かどうか
 違うでしょう。違うでしょうが、おっしゃるような「補償する相手を区別する」ようなことを後から出してくるかどうかは疑問です。品質加算や規模加算をやっていない点をマニフェスト違反とおっしゃいますが、この点、農林3役(大臣、副大臣、政務官の5人)は会見で「あくまでモデル事業だから、完全実施までに(品質加算や規模加算を)考える」と発言しています。まぁ、どうとでもなるということでしょう。
 総額3,371億円÷160万ha(152万ha)=10a約2万円という単価計算をなさってましたが、さて、果たしてどうでしょう? この点を農林3役は黙して語っていませんが、あちこちで「独自計算」が見受けられます。ただ、確か山田副大臣がモデル事業の総額算定にあたって、「販売農家」の作付対象面積に「130万haを想定した」と発言していますから、これだけでもちょっと多いことになります。

③その中身は決して構造改革を推進するようなものではない
 おっしゃる通りです。この点に、現段階で疑問を差し挟む余地はないように見えます。ただ完全実施となった場合に、ここのところを追加あるいは改変してくる可能性はあります。

④価格は市場原理に任せる→市場歪曲的ではない→消費者余剰は増える→戸別所得補償が評価される点の一つ
 米という商品単体で限って云えば、ごもっともなんですが、固定払いではなく上乗せ部分は、明らかにWTO上「黄色の政策」ですよね? 将来的なことを考えれば「限りなく赤に近い黄色の政策」です。これによって近い将来、交渉が不利な方向へいき、選挙前に小澤さんと全中との間であったバトルのようなことが実現してしまい、でもその間に構造改革が進まないのだとすると、米単体の消費者余剰なんて吹き飛んでしまいませんかね?

⑤これだけ生産費を補填してくれるなら、やはりコストダウンの努力は弱くなると考えた方がいい
 おっしゃる通りです。それをモラルハザードと呼ぶかどうか(だって、そちら方向へ誘導している政策に乗っかることをモラルハザードと呼べるでしょうか)は別にして、「何もしなくていいよ」というメッセージだと、どんな農家だって受け止めるのはまちがいないところでしょう。

⑥⑦⑧「全販売農家」を対象にして補填することが、農政にとって、はたまた日本にとって意味あることなのかも考えるべきだろう
 いろいろ計算なさってますが、農水省の統計上の「販売農家」と、民主党が云う「販売農家」は定義が異なるのだそうです。数字で云うと、何でも民主党「販売農家」のほうが「ちょっと多い」んだとか。そこは「調整する」そうですが…。
 まさしくバラまきという意味では、確かにその通りですね。
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