ハニカム薔薇ノ神殿

西南戦争の現地記者の歴史漫画を描いてます。歴史、美術史、ゲーム、特撮、同人誌の話他

「あの?有名画家もトレスしてたのか…」美術史に見る写真のトレース

2017年06月05日 | 文学・歴史・美術および書評
某アニメの背景を手で描いたのか、写真の加工か?
なんて話題が。

そうそう、努力してリアルな絵を描きたいと
何年も練習してる人の前で、さも1から自分で描いたように
写真を使っただの、トレスしただの
インチキですよね!!

て、まあ言う人はいつの時代にもいます。

人間の眼と手だけで、正確な形を捉えられたら…
その1つしかない決定した「正解」を描き出せたらと
何人もの画家が悪戦苦闘したことでしょう。
「描けねーよ」の上に、美術の歴史がある気がします。

でも、ちょっと待って。
「写真なんてずるいずるい!天才を見ろ、あの正確さは天才だから〜」
て人へ。

有名画家も「写真」を使っていたの、ご存知です?


例えば15世紀。



ウィキからお借りしましたこれは
「カメラオブスクラ」という装置です。

暗い部屋や仕切った箱に、映像を映し出す装置でして
カンバスの上に結んだ実際の映像をトレースして、正確な絵を描こうというもの。

「投影法」とも言われ、15世紀にはダヴィンチが
17世紀にはフェルメール、カラヴァッジョらが用いたそうな。

でも特にフェルメール、カラヴァッジョ
この二人、普通に描いてもデッサン力あるんですよ…
つまり、ある程度描ける人にデジタルツールを持たせるのと似てるというか
輪郭トレスは、リアル追求のための補助なんでしょうね。

トレースやったことある人はわかるはずで、ある程度「わかって」いる人のトレースと
絵筆持ったことすらない人のそれって差が出ます。細かい部分は特に。
だからまあ
1から素人でもパパッとできちゃったw にはならないでしょう。


次、時代が少し進みますと

おめでとう、オブスクラはルシダに進化した。
カメラルシダてのが出てきます

こちらもWikiから



もう暗くしなくてもいいし、持ち運べる。

これを使っていたのが、19世紀前半、アングル。
ドミニク・アングル。

うむ><
私、アングルの「一発描き」を見たんですが
この人も、下書きなし一発で正確にデッサン取れるのに
なおもこんな道具を使うとは。
鬼に金棒すぎるです。

しかもアングルは堂々と人前で
「カメラルシダとか使うやつズルいよな」
「俺はそんなもん使わない」
と、言っております。
言っておきながら誰より早く取り入れてるんです。
ズルはお前じゃん!て感じです。


さて、また時代は進んで19世紀後半〜20世紀初頭
に、なりますともうカメラ、どんどん普及していきます。
写真が発明されたのは1856年。そう思うと、19世紀からの進歩のスピードは早いです。

ミュシャ展やってますが、ミュシャも写真拡大とかトレスをやっております。




美術は「写真」が出たせいで

「だったらもう写真家でいい」人
「写真をコラージュ」って人も出てくるし
写実的とは全く逆の、抽象表現のものに芸術性を求めたり
ただ写実的に描くんでなくて、あえてそこを一歩超えて行こうとしたり

とりあえずいろいろOK!になりました。


「いろいろOK」様々な表現方法があり、どれも不正解ではない
多様化した中で、どうすればいいのかと迷う事があるかもしれませんが
現代はアートって言葉があれば、どういうもんでも「ダメだよ」ではなくなってる気がします。
何が芸術かようわからんのに、こうあるべきだ〜を掲げがちな「芸術」、そこまで行かなくていい便利な言葉。

背景に素材写真を使うか使わないか
あるいは、トレスするかしないか。

「目的」によって違っててもいいんじゃないかな。

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