アンリ・ルソーという画家がいます。
彼は、実は植物園や図鑑を参照にしてジャングルの絵を描いたのですが、
当時の批評家らはそれを知らず、ルソーにこう言いました。
「こんな絵は、絶対に本当に戦地に行かねば描けない。
あなたはもしかして、ナポレオン3世のメキシコ遠征に行かれたんでは」
ルソーは、どうしても絵を売り出したかったのもあってつい、「そうです」と言ってしまいました。
その場の期待を裏切るわけにはいかないと、多分彼なりに空気を読んだのでしょう。
サロンに来た人達は、こぞってこう言った「そうでしょう、そうでしょう、どうりで納得です」
最初はそうでも無かったのが、だんだんとエスカレートして
「その時の話をぜひ聞きたい!あなたは英雄だ、進撃の画家だ」と
絵の事よりも、いかに戦地で苦労したとか戦ったとか、そういう話に飢えていたようだったので
ルソーは実際に行ってもいない進軍の様子をデッチアゲで、ウソ八百で語ってやったそうです。
近年、このルソーの絵画の研究が進んで、どうもイメージソースは図鑑のみならず写真も雑誌もあるので
これは実体験とはほど遠い、イメージコラージュであるのではという風になってますが
当時、ルソーの話をありがたがった人達が聞いたら、さぞびっくりするでしょうね。
ファンタジーに裏付けされる事実を掘り出そうとする人っています。
どんな時でも現実と繋げていないと嫌な人。
現実逃避が悪だと思い込んでいる人。
ある程度は嘘が通用し、虚構虚数を楽しむ事ができなければ
芸術は半分くらいしか理解できないと思います。
そう、アンリ・ルソーは実際にはメキシコなんか行って無い。けれど、想像力と資料を駆使して描いた。
実際に経験している必要は無いはずです。
宇宙の話は宇宙飛行士にしか描けないわけじゃないし。
だとすれば、作者はこうでなくてはならないなんてバカバカしい。
作者のリアルでなくて、作品のロマンでつながる事ってできませんかね。
ロマン派、ファンタジー
リアルでどういう生活をしているかなんて聞く必要が無いはずなのに。
ルソーはおそらく、作品だけを見て欲しかったのではないですかね。
リアルでどういう生活してるとか、どうでもよくて
ただファンタジーの世界を共有して、理解してくれる人と会話したかったのでは。
作品には最初から
「リアリズム」「写実主義」「自然主義」「ドキュメンタリー」
といった、現実に近いものから考えていくものと
その逆で現実から離れて楽しむものがあると思うのです。
それぞれがどんな形式を選択するかは
全て作者に委ねられています。
今ならグーグルがあるので、すぐ嘘バレちゃいますが…
ITの進歩でコラージュも簡単に作れて出せるようになったが故に
真偽に過敏になる必要が出てきたのでしょうね。
しかしそればっかりじゃなあ;
つまんないよね。