一歩先の経済展望

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9人乱立の自民党総裁選、経済政策の印象散漫 注目される日銀・為替へのスタンス

2024-09-12 15:07:35 | 経済

 12日に告示された自民党総裁選は、9人が立候補する史上最大の「大乱立」となり、同日に行われた演説会を聞いても打ち出される政策の印象が散漫となり、マーケットが特定の政策テーマに焦点を当てて株価やドル/円が変動するような地合いからはほど遠い状況だった。

 今後、日銀の利上げスタンスや為替の水準、経済対策と消費税の関係、具体的な成長戦略の内容にどこまでブレークダウンして議論が進むのか──。もし、9人の議論がかみ合わないまま27日の投開票日を迎えた場合、海外勢を中心にマーケットから「失望」の声が上がるリスクが高まりそうだ。

 

 <9人の意見羅列、難しい市場への織り込み>

 この日の演説会では、届け出順に高市早苗経済安全保障相(63)、小林鷹之・前経済安全保障相(49)、林芳正官房長官(63)、小泉進次郎・元環境相(43)、上川陽子外相(71)、加藤勝信・元官房長官(68)、河野太郎デジタル相(61)、石破茂・元幹事長(67)、茂木敏充幹事長(68)の9人が10分間の持ち時間を使って所見を述べた。

 予想されていたこととはいえ、9人がばらばらに立候補の目的や国家観、注視している政策課題を様々な方面から述べたため「全く議論がかみ合わず、散漫な印象を持った」(国内金融機関関係者)との声が出ていた。

 あす13日に共同記者会見、14日に日本記者クラブ主催討論会が行われるほか、20日までに8都府県で地方遊説が行われ、22-24日に政策討論会も予定されている。

 26日に党員投票が締め切られ、27日に国会議員の投票と全体の開票が行われる。

 ただ、市場関係者の中からは、9人の議論を並列に展開する討論会が続けば、議論の焦点が散漫なままとなり、マーケットが能動的に「何かを織り込んでいくのは難しい」(別の国内金融機関関係者)という見方が台頭している。

 

 <市場が注目する日銀利上げ・ドル/円・成長戦略へのスタンス>

 複数の市場関係者によると、海外勢を含めた市場関係者の多くは、1)利上げの基本姿勢を示している日銀の金融政策に賛成なのか反対なのか、2)161円台から140円台前半まで進んだ円高の水準は妥当なのか、3)アベノミクスのようなわかりやすく具体的な成長戦略はあるのか──という点で、各候補がどのような見解を示すのかに関心があるという。

 特に上位に進出しそうな石破氏、小泉氏、高市氏、小林氏が上記の3項目でどのような意見を持っているのか知りたいとの声が多いようだ。

 また、一部の市場関係者の間では、立憲民主党の代表選で取り上げられた消費税をめぐる税率や食品非課税問題の是非などについて、自民党総裁選の立候補者にも意見を聞きたいとの声も浮上している。

 もし、市場が知りたい項目で具体的な回答が各候補から出ない場合、市場に失望感が漂う展開もありそうだ。その意味で、14日の日本記者クラブ主催の討論会で、経済問題に関するわかりやすく整理された質問を提起することができるかどうかが大きな分かれ道になる可能性がある。

 

 <田村審議委員が言及した1%までの利上げ>

 上記の3つの項目の中で、市場の関心が日に日に高まっているのが、一番目の日銀の金融政策に対する各候補のスタンスだ。

 日銀の田村直樹審議委員は12日に岡山市で行われた講演の中で、日銀政策委員会のメンバーとして初めて、日銀にとってのターミナルレート(利上げの最終到達点)に関連して具体的に言及。「中立金利について、私は、最低でも1%程度だろうとみており、したがって2026年度までの見通し期間の後半には少なくとも1%程度まで短期金利を引き上げておくことが、物価上振れリスクを抑え、物価安定の目標を持続的・安定的に達成する上で、必要だと考えている」と述べた。

 こうした見解に対し、総裁選に立候補した9人がどのような見解を示すのか、マーケットは固唾を飲んで見守っている。

 

 <生産年齢人口の減少と低成長、打開策はあるのか>

 また、経済成長と重要な関連がある生産年齢人口(15歳ー64歳)がピークだった1990年代の8000万人台から2020年には7406万人へと減少し、2040年には5978万人になるという試算に対し、どのような手を打って潜在成長率を高めていくのか、という重大な課題に対しても9人は回答する義務があると考える。

 足元における日本の潜在成長率は0%台との試算もある中で「経済成長による税収増を図る」と主張されても、具体的にどのような政策アプローチで経済成長を図るのか、説明のない提案では説得力を持たないだろう。

 筆者は、米国で実施されている本国への投資還流促進をモデルにし、日本でも海外に流出した製造業の生産拠点の国内回帰を促す政策を実行し、製造業を起点にした「成長力の回復」が不可欠な対応策であると考える。

 

 <浮上する10月27日の衆院選投開票、急ぐ政府・与党の本音は何か>

 その意味で、12日の討論会はイメージの悪化した自民党の「再生」を印象付けるイベントとしては成功したかもしれないが、散漫な議論が延々と続けば、成長戦略とは無縁の「不毛な総裁選」にならないとも限らない。

 共同通信によると、政府は、岸田文雄首相の後継を選出する臨時国会を10月1日に召集する方針を固め、与党側に伝えたという。

 10月1日に衆参両院本会議で首相指名選挙を実施し、9月27日の自民党総裁選で選ばれた新総裁が新首相に指名され、1日中に新内閣を発足させるという。政府・与党内で10月15日公示、27日投開票とする日程で衆院選を実施する見方が拡大した、と共同通信は伝えている。

 筆者には、「新装オープン」のご祝儀相場が消えないうちに衆院選を実施したいという政府・与党関係者の思惑が強く働いているように見える。

 新しい成長戦略をわかりやすく国民に訴える新政権が誕生していることを切望してやまない。


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