歩く事に流儀などない。
ただ楽しく歩けばいい。
しかし、その道を知る事でよりその楽しさをより深く知る事が出来る。
最近のメタボ対策に始まった健康ブームにも乗り、お金のかからないランニングやハイキングが注目されているらしい。近所の徘徊から始まり、スポーツジムや運動公園、近所のウォーキング道から都内の有名公園まで。進むべき道は多々あれど、ただ闇雲に歩き始めたハイカー達が、いつかはたどり着く道の一つ、そう、それが『木道』である。
自分も最近入門したばかりだが、師範の教えは、なかなか実践的であり、様々な局面で使える流派であった。そんな自分は、現在のところ、入門したてということもあり、皆さんにも分かる言葉で言えば「遊歩道レベル」。お師匠様からは、「あなたはまだまだ実践が不足しているから、もっと足を使って学ぶことを覚えなさい」と言われて日々研鑽をしている状況なので、
「ご趣味は」
「木道を少々・・・」
とは、恥ずかしくてまだ言えない段階。本当は、段位でも取った後にでも大々的に報告しようかと、密かに研鑽に励んでいたのであるが、報告しなければならないことが出来たため、恥を忍んでこうして発表することとなった。そんなお師匠様からの指導もあって、この週末は、木道界の東修験の一つ(と、言われている ← 諸説有り、認められていない場合もあるので注意)、『尾瀬』に入る事で経験を積もうと決めたのであった。
兄弟子であるシュウさん(仮名)からは、尾瀬は、タップリと歩けるので鍛練に良い場所であるが、「鳩待通りと八木沢道は、パねえっす」というアドバイスを頂いた。ということで、富士見下から富士見峠~アヤメ平までやってきて、次にどちらに向かうか逡巡していた自分は、『長沢新道』のコースを選んだのであった。

長沢新道入口付近
長沢新道は、入口から雪に覆われていた。
世間は、すっかり夏に向かっているので忘れがちだが、尾瀬は、まだまだ春をむかかえたばかり。日当たりと人出の少ない場所に行けば、まだまだ残雪が残っているのである。用心、用心。とはいえ、アイゼンまでは必要とせず、木道に所々にかかる雪を越えるだけ・・・と最初は思っていた。

木道は雪の下
しかし、歩くこと一分後には、すっかり木道が雪に埋もれてしまった。これでは、鍛練にならんではないか! と憤ってみたところで、自分の事前調査不足、すなわち木道に対する甘さが痛感されるだけ。お師匠様、自分はやはりまだまだのようです。

現場
これでは、練習の成果が発揮出来ないと心配しながら進んでいたが、この迷いが注意力にも影響したのか、踏み跡を辿った先は、突然道がなくなっていた。

どつぼ
とはいえ、まだ修正して戻ればいいレベルなので、辺りを見回すと、木の上に赤いテープを見つけてひと安堵。やれやれ、これでは、木道修行ではなく残雪山行かと歩いていくと、いきなり開けた池に出くわした。

尾瀬の妖精
水芭蕉に出会えたことを喜びつつ、こんな池がこのコースにあった発見を楽しみ一息つく。

ひと時の安らぎ
ひとしきり写真を撮って見渡すと、木道とそして小綺麗な標識が目に入る。

既視感
ここに分岐などあったかと、良く見てみると、富士見峠まで0.2K
・・・ん? ん?! んん!!!

悪夢
いやいや、それはない。
・・・と否定してみたところで、眼前の標識がその事実を正確に告げているわけであるが、リングワンデリングもビックリな、いつの間にやら360度行って戻ってしまったらしい。だだっ広い平原ならともかく、コースにもなっている一般観光客も足を踏み入れるような一本道での失態にしばし呆然。しかも、標識を見るまで、あの池が「富士見田代」だと気がつかないという事態も相まって、自分の雪山能力というか、方向感覚の無さに悲しさがこみ上げてくるのであった。
燧さえ見えていれば・・・くぅ。
ここまでおよそ30分という時間が過ぎていた。歩く事は、楽しいのだが、こう同じ場所をウロウロするのは、新鮮な気分も薄れ、徒労も大きい。時計を見ると、12時30分を過ぎてしまったので、遅れを取り戻そうとやや急ぎ足で歩き出す。
ワイワイという声が前方から聞こえて来るなと思っていたら、楽しげに若者達が木道と残雪を楽しんでいた。装備からすると、知らずに冒険に乗り込んでしまったようであるが、みんな協力し合って歩いているのが微笑ましい。
丁度雪道であったため、先に通ってもらうように止まった。すれ違ったところで「よし自分も」と気持ちを入れ替えて踏み出した先には、飴色に輝いた木道があった。両足を乗せたとたん、濡れた平坦な木道とザラメのような雪がついた登山靴は、相乗効果をもって自分の身体を後押しした。いや、両足だけが後押しされていた。いきなり全ての光景はスローモーションとなって自分がコマ送りのように動くのが分かった。両足がドロップキックをするかのように高く舞い上がり、支えを失った身体は重力に従って落下した。
そのままいけば背中を強打 → 後頭部強打という最悪なシナリオも考えれたが、背面にはザックがあるため背中へのダメージは幸運なことに抑えられた。そのままひっくり返った亀のように止まってくれれば有り難いのであるが、この勢いでは、そのまま停止することはないだろう。
そんな自分の状況を冷静に見ながら、横転をしていく自分を抑えるため転がる方向に向けて手を差し出した。柔道の受身の要領でダメージの軽減と、そのまま転がってしまうことを防ぐことが目的であった。そんな瞬時な対応が出来るのも、なぜかクロックアップ(?)をしてしまい世界がスローモーションとなっているからなのだが、もしかするとこれも木道の修行のせいかなのかもしれない。ただ、その手の先に何があるかまでは、判断できていなかった。
木道の脇にあったのは、自分が越えてきた残雪が作り出した水溜りであった。そこに右手を振りかぶって落としたものだからたまらない。バシャという音と共に顔から上半身にかけてが泥にまみれていた。ただ、これでも落ちて全身ずぶぬれにならなかっただけでも、幸運と考えた方が良いかもしれない。サングラス色に染まった自分のメガネを外しながら、立ち上がる。
そういえば、シュウさん(仮名)が言っていたっけ。
「つーかさぁ、木道とかってすごくね? 俺らだって油断してるとクルーッといっちまうんだかんな。つうか、お師匠さんが言ってたなぁ。ほら、あれ、『秘技・ちゃぶ台返し』とか。てか、ちゃぶ台とかもうねえだろって」
『ちゃぶ台返し』、か。確かに古いな。
身も心もすっかりやられてしまい、自嘲気味に笑いながら立ち上がる自分に 『大丈夫ですか?』と声がかかった。驚いて振り返ると、先程すれ違った若者達が心配そうにこちらを眺めていた。擬音で表現すれば、ズルッ、ドス、ジャバという音と共に、先程すれ違った人が水溜りに片手を突っ込みながら転がっているのだから、それはそれは心配なはずである。優しさにありがたさを感じつつ、とにかく恥ずかしさに満ち溢れてしまった自分は、大丈夫ですよと返事をしながら、大丈夫なことをアピールするかのように一目散に歩き出した。汚れなどは気にせず、まずは離れてから考えようとしばらく歩くと、
・・・あれ、道がない。
再び同じ過ちを繰り返していたのであった・・・。
ただ楽しく歩けばいい。
しかし、その道を知る事でよりその楽しさをより深く知る事が出来る。
最近のメタボ対策に始まった健康ブームにも乗り、お金のかからないランニングやハイキングが注目されているらしい。近所の徘徊から始まり、スポーツジムや運動公園、近所のウォーキング道から都内の有名公園まで。進むべき道は多々あれど、ただ闇雲に歩き始めたハイカー達が、いつかはたどり着く道の一つ、そう、それが『木道』である。
自分も最近入門したばかりだが、師範の教えは、なかなか実践的であり、様々な局面で使える流派であった。そんな自分は、現在のところ、入門したてということもあり、皆さんにも分かる言葉で言えば「遊歩道レベル」。お師匠様からは、「あなたはまだまだ実践が不足しているから、もっと足を使って学ぶことを覚えなさい」と言われて日々研鑽をしている状況なので、
「ご趣味は」
「木道を少々・・・」
とは、恥ずかしくてまだ言えない段階。本当は、段位でも取った後にでも大々的に報告しようかと、密かに研鑽に励んでいたのであるが、報告しなければならないことが出来たため、恥を忍んでこうして発表することとなった。そんなお師匠様からの指導もあって、この週末は、木道界の東修験の一つ(と、言われている ← 諸説有り、認められていない場合もあるので注意)、『尾瀬』に入る事で経験を積もうと決めたのであった。
兄弟子であるシュウさん(仮名)からは、尾瀬は、タップリと歩けるので鍛練に良い場所であるが、「鳩待通りと八木沢道は、パねえっす」というアドバイスを頂いた。ということで、富士見下から富士見峠~アヤメ平までやってきて、次にどちらに向かうか逡巡していた自分は、『長沢新道』のコースを選んだのであった。

長沢新道入口付近
長沢新道は、入口から雪に覆われていた。
世間は、すっかり夏に向かっているので忘れがちだが、尾瀬は、まだまだ春をむかかえたばかり。日当たりと人出の少ない場所に行けば、まだまだ残雪が残っているのである。用心、用心。とはいえ、アイゼンまでは必要とせず、木道に所々にかかる雪を越えるだけ・・・と最初は思っていた。

木道は雪の下
しかし、歩くこと一分後には、すっかり木道が雪に埋もれてしまった。これでは、鍛練にならんではないか! と憤ってみたところで、自分の事前調査不足、すなわち木道に対する甘さが痛感されるだけ。お師匠様、自分はやはりまだまだのようです。

現場
これでは、練習の成果が発揮出来ないと心配しながら進んでいたが、この迷いが注意力にも影響したのか、踏み跡を辿った先は、突然道がなくなっていた。

どつぼ
とはいえ、まだ修正して戻ればいいレベルなので、辺りを見回すと、木の上に赤いテープを見つけてひと安堵。やれやれ、これでは、木道修行ではなく残雪山行かと歩いていくと、いきなり開けた池に出くわした。

尾瀬の妖精
水芭蕉に出会えたことを喜びつつ、こんな池がこのコースにあった発見を楽しみ一息つく。

ひと時の安らぎ
ひとしきり写真を撮って見渡すと、木道とそして小綺麗な標識が目に入る。

既視感
ここに分岐などあったかと、良く見てみると、富士見峠まで0.2K
・・・ん? ん?! んん!!!

悪夢
いやいや、それはない。
・・・と否定してみたところで、眼前の標識がその事実を正確に告げているわけであるが、リングワンデリングもビックリな、いつの間にやら360度行って戻ってしまったらしい。だだっ広い平原ならともかく、コースにもなっている一般観光客も足を踏み入れるような一本道での失態にしばし呆然。しかも、標識を見るまで、あの池が「富士見田代」だと気がつかないという事態も相まって、自分の雪山能力というか、方向感覚の無さに悲しさがこみ上げてくるのであった。
燧さえ見えていれば・・・くぅ。
ここまでおよそ30分という時間が過ぎていた。歩く事は、楽しいのだが、こう同じ場所をウロウロするのは、新鮮な気分も薄れ、徒労も大きい。時計を見ると、12時30分を過ぎてしまったので、遅れを取り戻そうとやや急ぎ足で歩き出す。
ワイワイという声が前方から聞こえて来るなと思っていたら、楽しげに若者達が木道と残雪を楽しんでいた。装備からすると、知らずに冒険に乗り込んでしまったようであるが、みんな協力し合って歩いているのが微笑ましい。
丁度雪道であったため、先に通ってもらうように止まった。すれ違ったところで「よし自分も」と気持ちを入れ替えて踏み出した先には、飴色に輝いた木道があった。両足を乗せたとたん、濡れた平坦な木道とザラメのような雪がついた登山靴は、相乗効果をもって自分の身体を後押しした。いや、両足だけが後押しされていた。いきなり全ての光景はスローモーションとなって自分がコマ送りのように動くのが分かった。両足がドロップキックをするかのように高く舞い上がり、支えを失った身体は重力に従って落下した。
そのままいけば背中を強打 → 後頭部強打という最悪なシナリオも考えれたが、背面にはザックがあるため背中へのダメージは幸運なことに抑えられた。そのままひっくり返った亀のように止まってくれれば有り難いのであるが、この勢いでは、そのまま停止することはないだろう。
そんな自分の状況を冷静に見ながら、横転をしていく自分を抑えるため転がる方向に向けて手を差し出した。柔道の受身の要領でダメージの軽減と、そのまま転がってしまうことを防ぐことが目的であった。そんな瞬時な対応が出来るのも、なぜかクロックアップ(?)をしてしまい世界がスローモーションとなっているからなのだが、もしかするとこれも木道の修行のせいかなのかもしれない。ただ、その手の先に何があるかまでは、判断できていなかった。
木道の脇にあったのは、自分が越えてきた残雪が作り出した水溜りであった。そこに右手を振りかぶって落としたものだからたまらない。バシャという音と共に顔から上半身にかけてが泥にまみれていた。ただ、これでも落ちて全身ずぶぬれにならなかっただけでも、幸運と考えた方が良いかもしれない。サングラス色に染まった自分のメガネを外しながら、立ち上がる。
そういえば、シュウさん(仮名)が言っていたっけ。
「つーかさぁ、木道とかってすごくね? 俺らだって油断してるとクルーッといっちまうんだかんな。つうか、お師匠さんが言ってたなぁ。ほら、あれ、『秘技・ちゃぶ台返し』とか。てか、ちゃぶ台とかもうねえだろって」
『ちゃぶ台返し』、か。確かに古いな。
身も心もすっかりやられてしまい、自嘲気味に笑いながら立ち上がる自分に 『大丈夫ですか?』と声がかかった。驚いて振り返ると、先程すれ違った若者達が心配そうにこちらを眺めていた。擬音で表現すれば、ズルッ、ドス、ジャバという音と共に、先程すれ違った人が水溜りに片手を突っ込みながら転がっているのだから、それはそれは心配なはずである。優しさにありがたさを感じつつ、とにかく恥ずかしさに満ち溢れてしまった自分は、大丈夫ですよと返事をしながら、大丈夫なことをアピールするかのように一目散に歩き出した。汚れなどは気にせず、まずは離れてから考えようとしばらく歩くと、
・・・あれ、道がない。
再び同じ過ちを繰り返していたのであった・・・。
長沢新道登り返し
読んでいて頭の中がリングワンデリングだす。
そんな事ありえねぇぇ!!!と一人ツッコミしつつも、
飼い猫さんなら・・・^^;
などど思ってしまうのでした(笑)
しかし転倒はケガしなくて良かったですね
続き早く~
「そんなこと有り得ない」全く同じ事を別の方に言われました(涙)。登り返すといっても最初はほぼ平坦な道ではありませんか?ですから雪が積もっていることを考慮に入れれば、そんな状況になるのもおかしくないと思うんですけどね(←必死のフォロー)。
転倒については、全く怪我もありませんでした。これも日々の木道の鍛練の賜物かと。早く昇段試験の木人との百人組み手を…(無いって)。
ありえないことがおこるのは、山でも町でもままあります。(じゃ、ありえないことじゃないじゃないかというつっこみはなしで)
まあ、怪我がなくてほんとによかったですよ。
そのための木道ですものね。
私もかいねこさんを見習って、アスファルト道の鍛錬をしなくっちゃなあ。。。(遠い目)
で、転倒は...仕方ないですよ、あそこは。私もズボンにはっきりと痕跡を残しましたし。まぁ、お互い怪我なくて良かったですね。。(←棒読みっぽく...)
ありえなことが起こるのが、ねこさんワールドとまっきーワールドですからね。
本当に、怪我がなくてよかったですよ。
あすから木道修行にいく身としては、同じ過ちを犯さないことを肝に命じてまいります。
後編or続編、とっても楽しみにしていますね。
ぼくも「長沢新道の下りの濡れた木道の道」を極めたい~
監督さんの冒頭コメントから、何だか、いぢめコメントが蔓延してしまっています(涙)。皆さん、ひどす…。
まぁ、こんな事をしている時点で不適格者のレッテルを貼られても仕方がないレベルなのですが…迷子や怪我の報告にならなかっただけ良かったと思いたいです。
はいはい。わかりますわかります。
まきくまさんの場合は、どんな場所でも危険地帯になりかねませんから。しかも、有り得ない奇跡を数々起こしてきた実績もありますし、まさに四六時中死角無し(笑)。
アスファルト道で鍛練ですか、あ、まきくまさんはジョギングもされているんですよね。どんな場所でも転ばない訓練から頑張って下さいませ。
汚れなどは気にせず、まずは離れてから考えようと
「気持ち」と「態度」はよ~く分かりますよ、
自分もバイク(カブ90)で駅前のギャラリー50人位いる所でスピード出し過ぎてコーナーで転倒、
体がコロコロ回転していても、ギャラリーの中にバイクが突っ込んで行くか心配で眼で追っていました。
直ぐにバイクを起こして現場から立ち去り、
少し走ってから「痛って~!」と叫びました(笑)