じゅにあ★Schutzstaffel II

キン肉マンの2次創作。小説載せてます。(以後更新予定無し)

幕引き、もしくは収束(3)

2019-06-13 21:52:00 | 小説/幕引き、もしくは収束
 
 
 
直後、まるで主人の助け船でもあるかの様な絶好のタイミングで扉がノックされた。そしてさっきとは違う執事が新しい紅茶と茶菓子を持って、部屋に入って来た。
 
 
ーー違う・・・が、やはり何処か見た事がある顔だな・・・。
 
 
二人の間に漂う妙な空気も手伝ってか。
 
慣れた手つきで皿を上げ下げする様子を、俺もJr.も無言でただ見ていた。
窓に向けた顔がまだ赤いのが微笑ましい。
 
 
やがて一礼し、執事は扉の向こうに消えた。
 
 
今度は暖かいそれを、二人して飲む。
当たり前だが、やはり暖かい方が美味い。
 
 
これ以上からかうのも可哀想になり、俺は出された菓子を口にしながら話を切り替えた。
 
 
 
「うん、甘くなくていいな・・・。ところで、あの執事二人は兄弟か?」
「あ、ああそうだ。お前も前に何度も会っている・・・前の家人の息子達でな。退(しりぞ)いた父親の後を継いで、屋敷の管理やら世話やら、全て担ってくれている」
「成る程・・・あの人の。道理で、何処かで見た顔な訳だ」
「ああ、とても助かっているよ。他にも出入りする人間は居るが、何せこの通り、全く身の回りの事が出来ない駄目頭首だからな。勝手が分かる人が常駐してくれるのは、本当に有り難い・・・」
 
 
かつて俺が訪ねる度、部屋まで案内してくれたあの人。他の奴らが何処か白い目で俺を見ていた中、あの人は常に、静かに暖かく迎え入れてくれていた。
 
 
ーーあの人が居なかったら、流石の俺も、あんなにも長く通えなかっただろうな・・・。
 
 
 
信頼出来る人間が側に居て、かつ、それに心から感謝しているJr.に、俺はつい数分前の己のからかいも忘れ、再び子の成長を喜ぶ親の様な、満たされた気分になった。
 
 
 
 
 
 
「ーーで、本題・・・って訳でもねぇんだが」
「ああ」
「お前の弟子なんだが・・・」
「ああ、そうだな」
 
 
 
お互いの近況もとりあえず話し終わり、遂に俺は、ずっと気になっていた話題を切り出した。
 
 
どん底まで堕ちたJr.を立ち直らせた、ある種救世主と言っても過言ではない奴の弟子ーージェイド。
 
Jr.の弟子であると共に俺の教え子でもあるその新世代超人の事を、俺はこの訪問で何としてもJr.本人から説明してもらいたかったのだった。
 
 
正直、ガキの頃の弟子についての記憶は殆ど無かった。名乗っていたような気もするが、俺の頭に残っていたのは、緑の眼と”面倒臭い”という感情のみ。
だから、大きくなった弟子を指導した時も、別段何も思わなかったーーというのは嘘で、その生徒の身のこなしや雰囲気にJr.を重ねた事はあった。
だがそれも女々しい己の感傷だと封じ込め、それ以上特別な目で奴を見るのは止(や)めにしたのだった。まして緑の眼だって、特段珍しい色ではない。
 
 
だがその後、驚天動地もいい展開が俺を待ち構えていた。
 
自分を負かす程の実力を身に付け、入れ替え戦の初戦を勝ち上がったジェイドの師匠が、まさかのJr.だったのだ。
 
 
 
そこで全ての記憶が俺の中で繋がった。しかし余りに都合の良すぎる話で、懐かしいJr.の姿を直(じか)に見てもなお、それを信じる事が出来なかったのだった。
 
 
強くなりたいと食い下がってきたガキ。
Jr.の事に触れるや、あっという間に消えた。
年齢は合う。緑の眼。似た身のこなしーー。
 
 
 
正直、何度Jr.に詰め寄ろうと思ったか。
だがその後ジェイドは敗北し負傷。俺も立場上、人目のつく場所で妙な事を口にする訳にもいかず、結局、最後まで真偽を確かめられなかったのだった。
 
 
ーー何とか無理矢理諦めた・・・が、まさかこんな形でチャンスがやって来るとはな。
 
 
 
だから俺は、この日この時を心待ちにしていた。
下手をすれば、久々に会える喜びと肩を並べるくらいにだ。
 
 
 
 
 
 
「お前のその反応だと、知ってるんだな」
「ああ。ファクトリーから戻ったジェイドから聞かされた時は、正直作り話だと思ったよ。こいつは俺をからかっているのか・・・ってな」
「まあ、誰でもそう思うわな」
「だが、俺を騙す理由もあれには無いし、そもそもそんな器用な奴じゃない。むしろ、誰に似たのか、真面目すぎるのが難点だ」
「そりゃあ・・・一人しかいねぇだろ」
「はは・・・そうだな。全く、子供というのは悪い所ばかり似て困る・・・」
 
 
そこで少々会話は途切れた。
弟子を思い浮かべる奴の顔は、今迄で一番年相応だった。
 
 
 
「じゃあ・・・やはりあいつがあの時のガキなんだな」
「ああ、そのようだ。・・・順を追って話そう。お前には知る権利があると思うし、何より・・・俺はお前に、知って欲しいしな」
 
 
 
そしてJr.は、全てを俺に話した。
 
 
ジェイドとの出会いの経緯だけではない。
俺と袂(たもと)を分かってから、弟子と出会い、育て。そして独り立ちさせるまでの全てを。
 
 
 
長い長い物語だ。
 
だが時間は幾らでもあったし、こんなに自分の身の上をありのまま語るJr.は、それこそ初めてだった。