じゅにあ★Schutzstaffel II

キン肉マンの2次創作。小説載せてます。(以後更新予定無し)

幕引き、もしくは収束(1)

2019-06-13 21:53:00 | 小説/幕引き、もしくは収束
 
 
 
変わったものと変わらないもの。
 
それらが確かに、ここにはあった。
 
 
 
 
 
 
「ーーで、俺はそのまま教室に入って、その居眠りしてた奴の後頭部に、全体重乗っけた肘打ちを食らわせてやったんだが、あの三つ編み仙人、全く何も気にしねぇで淡々と講義続けてやがったんだ。でけぇ音して教室の奴ら全員驚いて振り返ってんのにーーだぜ?」
「ははーー師匠らしいな」
「だろう?しかもそれで終わりじゃねぇんだ、これが」
「まだ続きがあるのか?」
「ああ。その肘食らわせた時、一緒に机と椅子も粉々になってな・・・まあ、当然の結果なんだが。で、次の日仮面校長に呼ばれた俺は、嫌味タラタラの挙句、始末書まで書かされた」
「はははっ」
「理由はどうあれ、器物損壊だと。しかも給料から引いておくなんて事まで言いやがって・・・。それで思い出したが、あいつ人の勤務外行動まで口出ししてきやがるんだぜ。酒はいいが騒ぐなってな。だが確かによく飲んではいたが、騒いでたのは俺じゃなくてほぼウルフの野郎だってのに・・・」
「はははは。あいつのリーダー気質も変わらないな」
「お前は見てねぇからそんな気楽に済ませられるんだ。下手すりゃこっちが生徒かって気分になるし、そのくせーー」
 
 
 
 
 
 
それは再び開催された超人オリンピックから更に一年経ったくらいの、夏が始まる一歩手前頃の事だった。
 
 
 
かつて数え切れない程訪れた大きな屋敷。
俺はその屋敷の家主に会いに、ここを訪れていた。
 
 
ベルリンという大都市にありながら、そこだけ一昔前の雰囲気を醸し出し続けるその場所は、一見以前と何も変わっていない様に見えた。だが重苦しい門を潜(くぐ)り歩いていくと、其処にはちょっとした記憶とのズレが疎(まば)らに点在していて、それがかえって過ぎた時間の長さを実感する材料になっていた。
 
 
ーーここの木の幹。こんな抉(えぐ)れてたっけな・・・。
 
ーーあの柵、以前は錆びてた様な気がするが、最近塗り直したのか・・・?
 
ーー車が違う・・・まぁ、十年も経てば変わっても当然か。
 
 
そんな妙な感慨深さを味わいつつ、辿り着いた扉の呼び鈴を押した。
 
 
 
以前は何処か憂鬱な。だが今回は純粋な懐かしさと喜び、加えて僅かな面映ゆさが混じったような気分で、俺は扉が開かれるのを待った。
 
 
 
 
 
 
こうしてまたその家主ーーJr.を訪れる運びになったきっかけは、ファクトリーでロビンから渡された薄い封筒だった。
 
 
 
凝った意匠に封蝋が押されたそれには、宛名も何も無し。さては面倒臭い頼み事かと訝しがる俺に、あの男は「預かっていたのを忘れていたがーー」と、全く悪びれもせず、その懐かしい差出人の名を明かしたのだった。
 
 
ーーあの時程、あいつを殴り倒してやりたいと思った事は無かったぜ・・・。
 
 
それは、もう一生面と向かって話す事も無いだろうと思っていた仲間。
Jr.から俺への手紙だった。
 
 
 
逸(はや)る気持ちと仮面野郎への怒りを抑え、俺は自室で手紙を開けた。もしも期限付きの用件が書かれていて、それが過ぎてしまっていたりした日には、本当にあの男を殺してやろうと思っていた。だが幸いな事にそうではなく、便箋に書かれていたのはたった一行、ほんの一文のみだった。
 
 
“暇なので、良ければまた、顔を出してくれ。”
 
 
送り主らしい几帳面な、しかし走り書きの様にも見えるその文字に、俺は拍子抜けした。そして直後、大笑いした。
 
記憶の奥に仕舞い込んでいたJr.の声を、はっきりと思い出していた。思い出すと、余計に笑いが止まらなくなった。かなり響いていたのか、隣部屋のジェロニモが何事かとノックしてくる程、俺は笑った。
 
 
 
そして長めの休暇を取り、こうして懐かしいこの地を踏んだのだった。
 
 
 
 
 
 
扉は程なく開き、初対面ながら何処かで見たような気もする中年の男に、Jr.の部屋まで案内された。
 
 
屋敷の外以上に、内部は変わっていた。
デザイン的には相変わらずの時代錯誤だが、何処もかしこも一新されていて、俺は何だか此処をかつて訪れていた時よりも、さらに前にタイムスリップしたかのような気分になった。
 
 
 
案内されたのは、以前来ていた時のそれとは違う部屋だった。
そして中に居た家主もまた、俺が知るどの姿の奴とも違っていた。
 
 
「ーーああ、やっと来てくれたな。手紙を託してからそこそこ経ったし、もう会っては貰えないのかと思っていた」
「悪い。思わぬ不可抗力でな・・・にしても、お前は変わらねぇなーーと普通は言いたい所だが、本当に、随分お前は変わったな」
 
 
Jr.の姿は現役の頃はおろか、ファクトリー創設当初に目にした時の姿と比べても、それは全く別人と言っていい程の変わりようだった。
 
 
 
先ず軍帽を被っていなかった。
金より銀に近くなってきた髪を軽く後ろに撫で付け、何か書き物でもしていたのか、縁の無い眼鏡を外しながら立ち上がり、こちらに歩み寄って来た。
 
そして服にしても、糊の利(き)いた白いシャツに濃い色の細身のスラックス。磨き上げられた靴。超人レスリングに携わっていた名残は見事なまでに皆無だった。が、俺の目の前に立った時、釦(ボタン)を外した襟元から覗(のぞ)く首元の肌には、証(あかし)の刺青が鮮やかに浮かび上がっていた。
 
 
「本当に良く来てくれた。こっちから出向く事も考えたんだが、協力を断った手前、あの学校だけはどうも敷居が高くてな」
「気にするな。俺もたまには全部忘れて休みてぇし、余計な邪魔が入るのも御免だ。今日は長居しても?」
「勿論。お前が飽きるまで幾らでも」
 
 
正直、部屋の扉を潜(くぐ)るまで緊張しなかったと言えば嘘になる。
 
 
何せ俺達の最後の会話は、お世辞にも幸福なものでは無かったから。
喧嘩別れーーとは似て非なる気もするが、とにかく一方的に俺が終(しま)いにしてしまったのだ。
 
 
だが、目の前のJr.の余りの変わりように加えて、悪い物でも食ったのかと思う程の素直な物言い。
 
 
ーーいや・・・ただ、時間が流れたんだ。
 
ーーこいつもやっと、”大人”になっただけの事だ・・・。
 
 
 
その二つのお陰もあって、俺はごく自然に勧められたソファに着いた。
 
そしてさっきの中年執事に出された紅茶を片手に、二人向き合って、互いの知らない事柄を思い付くまま語り始めたのだった。