「宮崎正弘の国際情勢解題」
令和五年(2023)6月2日(金曜日)
通巻第7777号 <前日発行>
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エルドアン再選の裏に金塊の大量売却があった。
トルコは経済的苦況のうえにシリア難民300万が加わる
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トルコには現在も尚、シリア難民が三百万人もいる。
ドイツはようやくシリアの若者たち4・5万人を難民として認定したのでドイツ国内で就労できる。イタリアはアフリカ難民の漂着センターとなって、社会的に不安視され、欧州全体でも難民対策がウクライナ支援よりも深刻な問題となっている。
5月28日のトルコ大統領選挙決戦でエルドアンが52%の過半をえて野党連合候補に勝った。
エルドアン再選の裏に金塊の大量売却があった。
トルコは、2022年第3四半期から金備蓄を増やしていた筈だった。ところが23年三月から連続的に加速度をつけて金を売却している。買い手は中国とロシアである。また産油国からおよそ300億ドルの緊急融資をうけたので、その担保かも知れない。
トルコの景気後退と通貨下落は猛烈なインフレを招いた。
そのうえ外貨準備払底が原因となって、生活が苦しく、事前には野党候補が勝つのではないかとする予測があった。
トルコの経済を綱渡りで運営するために流動通貨が必要だった。エルドアンは中央銀行に命じて金利を下げる荒治療にくわえ、サウジ、UAEから巨額を借りた。
外貨準備高はトルコ・リラ高を下支えし、パニックに陥った投資家に安全を与えるには市場介入により、自国の通貨を守るために他の外貨準備(金を含む)を清算し、中東中央銀行からの融資を確保した。アラブ首長国連邦、カタール、そして中国がトルコの事業継続のために為替スワップを行ってきた。
エルドアン大統領は金やその他の外貨準備のほぼすべてを売却したという。
選挙に向けて事態は加速した。トルコの純外貨準備高は5月19日に24億8000万ドル減少し、2002年2月以来の最低水準を記した。
選挙直前には純外貨準備高がマイナス30億ドルとなっていた。実態は 330 億ドルのマイナスではないかと欧米証券筋は推定した。
エルドアン大統領はインタビューで、「我が国の経済、銀行、金融システムは非常に強い。湾岸諸国資金がトルコで蓄えられている。これが中央銀行と市場を安心させた」とした。
トルコは欧米に対して不快感をあらわにしており、NATOメンバーでありながらEUには加盟できず、ましてユーロには、コソボのような小国が加盟しているのに仲間入りを認めない。それがフィンランドとスウェーでのNATO入りに反対し、フィンランドはその後の曲折を経てNATO入りしたが、スエェーデンは未加盟のママだ。
NATO海軍本部はトルコのイズミールにあって黒海を扼する要衝である。トルコはこの地政学的ポイントの強みからロシアと交渉し、ウクライナの小麦輸出を仲介した。ロシアからはサザンパイプラインを敷設し、ギリシアから南欧へのガス輸出の拠点ともなっている。
トルコは過去半世紀以上、キプロスとは領土係争を抱えており、また米国の反対を押し切ってロシアからS400ミサイルシステムを導入し、ナゴルノカラバフ紛争ではイスラム国家としてアゼルバイジャンを支援した。
▲トルコの金売却先は誰誰なのだ?
一方、中国は米国債保有を急減させ、3月末の速報で8700億ドル。往時は1兆3000億ドルで世界一だったが、米中対決の環境変化のなかで徐々に保有を減らし、22年には日本が世界一に復活していた。
ウクライナ戦争以後も1400億ドルを売却していた。
中国の金備蓄は2076トン(23年5月末速報)。民間でも宝飾品需要は197トン、金貨と金塊の需要が66屯で前年比34%増である。
「人民元がブレトンウッズ体制に風穴をあけ、ドル基軸体制を人民元基軸と代替する」などと通貨覇権丸出しの目標を標榜する中国政府の思惑とはかけ離れて、中国人民は金塊、金貨を貯め込み、人民元を信用していないことになる。
令和五年(2023)6月2日(金曜日)
通巻第7777号 <前日発行>
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エルドアン再選の裏に金塊の大量売却があった。
トルコは経済的苦況のうえにシリア難民300万が加わる
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トルコには現在も尚、シリア難民が三百万人もいる。
ドイツはようやくシリアの若者たち4・5万人を難民として認定したのでドイツ国内で就労できる。イタリアはアフリカ難民の漂着センターとなって、社会的に不安視され、欧州全体でも難民対策がウクライナ支援よりも深刻な問題となっている。
5月28日のトルコ大統領選挙決戦でエルドアンが52%の過半をえて野党連合候補に勝った。
エルドアン再選の裏に金塊の大量売却があった。
トルコは、2022年第3四半期から金備蓄を増やしていた筈だった。ところが23年三月から連続的に加速度をつけて金を売却している。買い手は中国とロシアである。また産油国からおよそ300億ドルの緊急融資をうけたので、その担保かも知れない。
トルコの景気後退と通貨下落は猛烈なインフレを招いた。
そのうえ外貨準備払底が原因となって、生活が苦しく、事前には野党候補が勝つのではないかとする予測があった。
トルコの経済を綱渡りで運営するために流動通貨が必要だった。エルドアンは中央銀行に命じて金利を下げる荒治療にくわえ、サウジ、UAEから巨額を借りた。
外貨準備高はトルコ・リラ高を下支えし、パニックに陥った投資家に安全を与えるには市場介入により、自国の通貨を守るために他の外貨準備(金を含む)を清算し、中東中央銀行からの融資を確保した。アラブ首長国連邦、カタール、そして中国がトルコの事業継続のために為替スワップを行ってきた。
エルドアン大統領は金やその他の外貨準備のほぼすべてを売却したという。
選挙に向けて事態は加速した。トルコの純外貨準備高は5月19日に24億8000万ドル減少し、2002年2月以来の最低水準を記した。
選挙直前には純外貨準備高がマイナス30億ドルとなっていた。実態は 330 億ドルのマイナスではないかと欧米証券筋は推定した。
エルドアン大統領はインタビューで、「我が国の経済、銀行、金融システムは非常に強い。湾岸諸国資金がトルコで蓄えられている。これが中央銀行と市場を安心させた」とした。
トルコは欧米に対して不快感をあらわにしており、NATOメンバーでありながらEUには加盟できず、ましてユーロには、コソボのような小国が加盟しているのに仲間入りを認めない。それがフィンランドとスウェーでのNATO入りに反対し、フィンランドはその後の曲折を経てNATO入りしたが、スエェーデンは未加盟のママだ。
NATO海軍本部はトルコのイズミールにあって黒海を扼する要衝である。トルコはこの地政学的ポイントの強みからロシアと交渉し、ウクライナの小麦輸出を仲介した。ロシアからはサザンパイプラインを敷設し、ギリシアから南欧へのガス輸出の拠点ともなっている。
トルコは過去半世紀以上、キプロスとは領土係争を抱えており、また米国の反対を押し切ってロシアからS400ミサイルシステムを導入し、ナゴルノカラバフ紛争ではイスラム国家としてアゼルバイジャンを支援した。
▲トルコの金売却先は誰誰なのだ?
一方、中国は米国債保有を急減させ、3月末の速報で8700億ドル。往時は1兆3000億ドルで世界一だったが、米中対決の環境変化のなかで徐々に保有を減らし、22年には日本が世界一に復活していた。
ウクライナ戦争以後も1400億ドルを売却していた。
中国の金備蓄は2076トン(23年5月末速報)。民間でも宝飾品需要は197トン、金貨と金塊の需要が66屯で前年比34%増である。
「人民元がブレトンウッズ体制に風穴をあけ、ドル基軸体制を人民元基軸と代替する」などと通貨覇権丸出しの目標を標榜する中国政府の思惑とはかけ離れて、中国人民は金塊、金貨を貯め込み、人民元を信用していないことになる。