当社の方法を用いると、コンセントに来ている交流の周波数(=50/60Hz)の挙動を精密に観測できます。
普段は意識することはないのですが、電力網には多数の発電機がつながり、また電力消費量は常に変動しています。電力会社では「系統周波数」を正しく50/60Hzに維持するため「需要と同じ量の発電」を常に行っています。
しかし、秒単位でみると、消費量と発電量は厳密には同じではありません。分単位・1時間単位でつじつまが合うように実際は制御されています。
では消費量と発電量が合わないとどうなるか?
・ 消費量 > 発電量 だと周波数は低下していきます。
・ 消費量 < 発電量 だと周波数は上昇していきます。
系統周波数の変化をみることで、瞬間的なロードバランス(消費量と発電量の差)を観察することができます。
電力系統の周波数の、振幅・周波数・位相角を実時間計測する装置を「同期位相計測装置」(Phasor Measurement Unit = PMU)と呼び、現在さかんに研究開発が行われています。
下記は当社PMUによる系統周波数のモニター実験です。
(1) 東京電力(50Hz)のモニター
画面はほぼ実時間で表示されています。
グラフ:右上が波形、左上が位相角(周波数が50/60Hzより高いと右回りに回る)、左下が系統周波数の"カスケード表示"です。1目盛りが2秒間,1/10秒おきの計測です。
系統周波数グラフですが、49.9Hz ~ 50.1 Hzのレンジです。グラフの1ピクセルは1mHz(1/1000Hz)を表しており、目盛り1マスが10mHz (1/100 Hz)の変化となっています。東京電力では、めったなことで±100mHzを超えることはないようです。
https://www.youtube.com/watch?v=yR3R7KRuTn4
(2) 北陸電力(60Hz)のモニター
今度は60Hz地区より北陸電力のデータです。収集は富山県高岡市内で夜間。
周波数変動(グラフ右下)をごらんください。妙に波打っています。変動も東京電力とくらべて乱高下ぎみです。60Hz地域は九州電力・中国電力・四国電力・関西電力・中部電力・北陸電力がずべて「系統連携」されており、周波数は非常に正確に同期されています。 ・・・が、実際には電力会社間の電力の流れ(潮流)の変化の関係で、「系統動揺」と呼ばれる現象が発生しています。正確には動揺ではなく何百キロも離れた「同期発電機」間の同期過渡現象というべきでしょう。しかしこの動揺が大きくなりすぎると様々な問題を引き起こします。
60Hz地域で実験した経験では、変動が激しいときは±100mHzを飛び越しているシーンを結構みかけます。また比較的急激な変化(といっても、グラフで見ていて、おっとっと・・・と言う感じの10mHz程度の急降下です)が夜間から早朝にかけてよく見られます。 下記のグラフでもそんなシーンが何カ所かあります。
https://www.youtube.com/watch?v=n3DQLr6NHn0
下記は英国における運用の様子を紹介するビデオのようです。
How the National Grid responds to demand 「どのように電力系統は需要に対して対応するか」
https://www.youtube.com/watch?v=UTM2Ck6XWHg
動画2:10あたりから英国内の系統周波数の実測データが紹介されていますが、ナレーションでいう"フランスからの供給が止まったとき"の周波数低下はなんと -0.3Hz 。一応安全圏内ではありますが、こんな周波数低下は私の日本での実験では出会ったことがありません。
当社のPMUはこの動画に紹介されているものよりも、はるかに短時間(動画では1秒、当社のものは1/10秒)で同程度の分解能(1mHz)を実現しています。緊急時の周波数低下の検出にはおそらく威力を発揮するでしょう。
昨年9月、欧州の各地で電力波形を収集してきてまいりました。(フランス南部・イタリア・スイス・ドイツ南部・北部、オーストリア南部・Wien郊外、ベルギー)
欧州はすべてが50Hzで同一の系統で運用されており、広大なエリアでコンセントから見える周波数はすべて同一なのです。エリアによっては、近隣の発電所が火力中心であったり水力中心であったり、また系統のど真ん中なのか、枝線の末端なのかによって、波形・周波数挙動は全く異なっておりました。 機会あれが紹介したいと思います。