PRIMO信号処理研究所 / Synchro PRIMO Lab.

周波数測定、位相差測定に関する新しい数理。
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電力系統周波数の「急降下?」

2017-01-23 01:39:50 | 信号処理

 東京電力の電力波形(50Hz)をコンセントからモニタする実験を続けていますが、溜まりに溜まったデータを解析していて、珍しいシーンを発見しました。

研究会で発表しそこなったので、YouTubeに測定の様子を公開しました。

Rapid Mains Frequency Decsent in Tokyo   https://youtu.be/ejQsBP8EW80

 周波数変化率(ROCOF)が瞬間的に -0.05 Hz/s になっており、Synchro PRIMO の目盛りからすっ飛んでしまいました。数秒で低下は収まり -49.8 Hz で安定したのですが、もし低下が止まらなければ、あっという間に49Hzを割るところだったでしょう。 この回復はどうやったのか?

 電力系統工学では「周波数制御」として解説されています。今回の現象は、「ガバナーフリー運転」が働き、複数発電機の間の「速度調定率」できまる周波数に落ち着いたのだと思います。急激な負荷の変動を、発電機間で「うまく分担」して「ちょっと低めの周波数」で(自立的に!)安定させたのです。

 データを細かくみると、現象の発生する数十秒前に、わずかな「(進み方向への)位相飛び」がありました。推測ですが、どこかの系統で工事等で計画的に切り離したのでしょう。周波数低下のカーブは綺麗なexpカーブだったです・・・

 動画では公開しませんでしたが、この後、数分くらいでの50Hzに何事もなく戻っています。ご安心くださいませ。

 こんな技は三相同期発電機のみなせることで、パワーエレクトロニクス技術満載?のパワーコンディショナーでこんな制御はできるのでしょうか? 分散電源は大ブーム、でもやばくなるとさっさと「解列」して逃げてしまう・・・ 「3相同期発電機」は歴史も古くレガシー技術ではありますが、こんな秘めた能力について、皆さんにも知っていただきたいと思います。

 下記はイギリスでのワンシーン。一瞬周波数が -0.3 Hz まで低下しています。フランスからの緊急送電でしのいだみたいです。 Synchro PRIMOが検出したのは、これと同じ現象です。

https://www.youtube.com/watch?v=UTM2Ck6XWHg

 

参考図書

 荒井純一(監修)ほか,  ”基本からわかる電力システム講義ノート" , オーム社.

 


微分と差分

2017-01-23 00:44:26 | 信号処理

 デジタル信号処理では、微分の代わりに差分が用いられ、アナログでは s をつかったラプラス変換、デジタルでは z 変換がいわゆる周波数領域での設計に用いられています。

 z 変換に登場する z^(-1) はデジタル処理では、「一段の遅延」と等価で、この原理が Synchro PRIMO では大きな意味をもっています。

 2階微分を考えてみます。 x(t) = A * sin(ωt) という連続関数では ω 自乗が飛び出してきて、d2/dt2 x(t) = - (ω^2) sin(ωt) となりますが、「離散系」(=デジタル)ではどうなるか?

 このあたり、詳しく解説されている専門書・教科書は少ない気がしますが・・・差分演算は連続系の問題を解く際の「近似解法」と考えられているような気配も・・・

計算は難しくありません。一応、「1階差分」をとり、差分の差分として2階差分を計算すると、

Δ(2) x[n] = 1/4 * { x[n+1] + x[n-1] - 2* x[n] } * A

となります。Aは振幅項です。連続系では  - ω^2 となりますが、デジタルではどうなるか。 z 変換 を習ったあとの演習問題としてはよくできていますね。半角の公式が見事にヒットし綺麗にまとまり、

 A = - sin^2(Ω/2)   

となります。 

上の式をみたとき・・・積分ではどうなる? ・・・ との疑問から、積分でやってみましたが、「積分」はデジタルでは、どうなるのでしょうか?どう呼べばいいのでしょうか。差分がΔなら、いっそのこと「累積」=Σ と呼んでみることにします。暫定的にやってみると、

Σ(2) x[n] = 1/4 * { x[n+1] + x[n-1] + 2* x[n] } * A

形としては初学の時に習う「平均化」です。 A を計算してみると、今度は、

 A = cos^2(Ω/2)

となります。あれれ? Δ(2)とΣ(2) を演算子としてみると、振幅項だけでは、 Δ(2) + Σ(2) = 1 ではないですか・・・微分と積分(平均)に着目した演算子では、3項の和差の1箇所しか違わないのに。。。なにかしらの「秘密の恒等式」が隠れている???

 これらの演算、振幅項を厳密に求めていることと、一応線形演算なので、私の 「Lissajous 外積」よりははるかにシンプル。積分とはいっても、非常に短い区間での、(一応)「瞬時演算」なのでエンジニアリング向けに何かの用途がありそうです。

 平均化・スムージングといった「実用演算」ではなく、「微分の代用」といった近似演算でもなく、時系列波形をもっと厳密に考えてみたいと思っていました。 下記文献の影響です。もっと理解したいですが、超難解 です ... orz  

 参考書籍: 

  • 飯島泰蔵,  "自然観測法 - 瞬時性に着目した新しい波形解析法,"  森北出版.
  • 飯島泰蔵,  "デジタル自然観測法 - 時系列解析のための新しい理論,"  森北出版. 

 PS: 計算式に誤りがあり修正しました。 (2/11)


欧州の電力系統、各地で波形収集

2017-01-08 22:10:46 | 信号処理

 欧州は巨大な単一系統(50Hz)となっています。チェコあたりからスペインの先まで、1つの系統になっています。地図でみると線路のように1つに繋がっていますが、すべてが単一系統として運用されているかどうかは不明です。

 系統図は ENTSO-E という機関で公開されています。 

https://www.entsoe.eu/map/Pages/default.aspx

 欧州では、電力の売買が自由化されているのですが、安定供給のためにはロードバランスや潮流を適切に管理する運用が大事なのです。国によっては発電過剰だったり消費過剰だったり・・・その埋め合わせのために「国際連系線」とよばれる国をまたぐ送電線で電力のやりとり(売買)を行っています。とは言うものの遠距離で売買をしようとしても実際の電力を送るのではなく、「最終的な供給・消費の収支」が合うように発電量・送電量が調整されるのです。上記の地図をみると国内はメッシュ状に多数の送電線がありますが、国をまたぐ送電線はそれほど多くないことが分かります。

 2015年、国際会議での発表がてら、欧州各地をまわり、電力波形・周波数変動データを収集してきました。しかし、その場所の選定をどうするか。。。そこで、上記のENTSO-Eの巨大地図のお世話になっています。

 この系統図から選んだ地点(訪問日程順)

  1. スイス:Laufenburg ・・・スイスのオペレータ(Swiss Grid)の本拠地であり、太い回線が多数集結、ドイツとのやりとりをしている。近場に原発もあり周囲の様子をみたかった。
  2. ドイツ:Simbach/Braunau am Inn ・・・ドイツ-オーストリアを結ぶ国際連携線。Inn川をはさんでドイツ・オーストリアの変電所が接続
  3. オーストリア:Villach ・・・かつて仕事で住んだところ。周囲はほとんどが水力発電で、大消費地からも遠い。Pureな波形ではないかと予想
  4. オーストリア:Wien郊外 ・・・東欧諸国と接続される巨大変電所。一帯にはLNG発電所が多数。消費地に近い
  5. ドイツ:Aachen ・・・ ドイツ・オランダ国境近く。波形はあれているかもと予想
  6. ベルギー:ベルギー・フランス間にある連携線 ・・・ 帰国直前の静養もかねてベルギーのDinant という町を起点に現地を視察。
 このツアーですが・・・欧州で発生した難民の大移動に見事に遭遇してしまい、当初予定を変更、上記のように落ち着いています。当初はチェコ方面も計画していたのですが、難民のハンガリーからオーストリアへの流入、クロアチア経由オーストリアへの流入に遭遇しキャンセル。
 
 上記Simbachという町はInn川を渡ってオーストリアからドイツへ徒歩で移動できます。なんと国境の橋(Simbach-Braunau間)では検問があり救護所の設営の真っ最中でした。またWien中央駅でも1000人を超えているであろう集団に遭遇しています。そんな事情もあり移動は電車・バスのみとし、治安に不安を生じそうなエリアへの移動は控えました。
 
 この時のモニター波形については、次回以降、記事にしたいと思います。
 
 
 
 

 

 


ゆらゆら? 系統電圧波形

2017-01-08 21:36:51 | 信号処理

 添付の画像(GIF)をご覧ください。複数画像をあつめてGIFアニメーションにしたものです。

 この波形は、フランス・ニース市内で取得した電圧波形(欧州の系統は50Hz)です。なんと、奇数/偶数サイクルごとに図のようにゆらゆらと波形がゆれています。ミクロ的には、ゼロクロス点が毎サイクルで前後しており、Synchro PRIMOで周波数を計測すると、2値が突然現れるように観測されます。

 

ゆらゆら

 

 詳細な原因は不明ですが、おそらく1サイクルおきに電流が大きく変動する負荷がつながったのでしょう。しかし抵抗負荷だけだと仮に非線形であったとしても、ゼロクロス点が変動するのは理解できません。おそらく・・・ですが、かなり大きい誘導性の負荷が、かつ1サイクルおきに変動していた・・・と想像しています。

 見かけの周波数のゆれは、別の言い方をすれば、位相角が波打っているともとれます。時変の誘導性負荷が接続されていたと考えれば、「インピーダンスの変化率」できまる「位相角の変化率」が系統周波数の変動として観測されているのでしょう。

 現在、欧米で研究開発がすすめられているPMU(=Phasor Measurment Unit)ですが、こういった電圧フリッカーの検出はできるのでしょうか? PMU仕様や観測標準として検討されているのでしょうか・・・ 

  Synchro PRIMOは半サイクルのデータでも瞬時周波数・位相角、瞬時振幅の測定が可能です。

 余談ですが、2015年9月にニースで開催された国際会議(EUSIPCO-2015)で発表した際に計測したものです。ニースの配電系統はわりとシンプルで、ニース郊外のCarrosという町にそこそこの変電所があり、ここから供給されているようです。https://www.google.co.jp/maps/@43.80259,7.1916265,16z 近隣には工場が多数あり、変電所に近いところでの誘導負荷の影響があったのかと想像しています。

 CarrosまではNice市内からレンタカーを使用しましたが・・・現地の運転は短気なドライバー?が多く、市内への戻りは大変だったです・・・Carros から上流にも足を伸ばしましたが・・・ドライブを堪能できました。ただし欧州ではMT車が標準・・・私はMT乗りなので問題なかったですが、シフトミスでエンスト多数。少々後ろをイライラさせたかも。