カンボジアだより シーライツ

国際子ども権利センターのカンボジアプロジェクト・スタッフによるカンボジアの子どもとプロジェクトについてのお便り

新しいかたちの人身売買

2006年09月27日 07時22分06秒 | 人身売買防止プロジェクト(意識啓発)

みなさんこんにちは、平野です。前回前々回の記事で縫製工場で働く女性の生活や、村の少女たちの彼女たちへの憧れなどをご紹介しました。だからこそ人身売買業者は「縫製工場で働けるよ」という嘘の職業斡旋を利用するわけですが、嘘の職業斡旋は職業斡旋全体のごく一部です。では、無事縫製工場で仕事を始めたらそれでもう安全と言えるでしょうか。今回は新しい形の人身売買についてお伝えします。

【辛い仕事や寂しい都会暮らし】

前回前々回の記事でお伝えしたように、縫製工場労働者には、狭い部屋に大人数で住み、特に娯楽を楽しむわけでもなく、家族への仕送りのお金を貯めている人が多くいます。カンボジアの縫製工場の労働条件は年々向上していると言われますが、それでも雇用側による虐待などがないわけではありません。また、仕事の適性や職場の人間関係、ホームシックなど悩む理由はいくらでもあります

【工場の周辺に集まる人々】

このようなさまざまな悩みを抱えた人々に「もっと楽で給料も高い仕事があるよ」などといって近づいてくる危険な人間がいます。彼らは時には悩みの相談にも乗り、友達、あるいは頼れるお兄さん/お姉さんのような存在になったりもします。そして結局他の州の買春宿に売り飛ばしてしまったりするのです。

また、プノンペンは農村部と違い自由恋愛が黙認(あるいは強行)されている都会であり、そういった華やかな雰囲気に飲まれる少女や女性もいます。夕方の工場付近にはそこにつけこもうとする男性が沢山集まってくるとも言われています。彼らの中には、女性と恋愛関係になり信用させた挙句に買春宿に売り飛ばす人間もいます。それどころか、買春宿のオーナーがバイクタクシーの運転手を雇ってリクルート活動をしているという報告もあります(註)。

また、例えそのようなことはされないまでも、「将来結婚する」という約束で(あるいはそう騙されて)婚前交渉を持つが結局その男性とうまくいかず(あるいは捨てられ)、将来を悲観する女性が増えています。彼女らの中には自殺を図る人や、それがきっかけで性産業に足を踏み入れる人もいます。その背景には女性だけに婚前交渉を禁じる伝統的価値観の根強さと外国のテレビ等の影響から来る自由恋愛への憧れがあります。

【ある雑誌の取り組み】

このような状況は新しいものであり、支援活動は出稼ぎ者を出す農村に向けたものがほとんどです。そんな中、ある英国人女性による縫製工場労働者をターゲットにした雑誌が創刊されました。その雑誌「precious girl(大切な女の子)」は、若い女性が関心を持ちやすいテーマ(洋服や化粧など)をメインに扱いつつ、「本当の愛ってなに?」「信頼できる友だちって?」といった内容の特集を組み、少女や女性たちが慣れない都会暮らしの中で傷つくことがないよう啓発しています。人身売買が新しいかたちを取るのに対し、このようなかたちの啓発活動も新しいものです。多様化する人身売買に対抗するには、支援する側も常に新しい動きに敏感であり、かつ自分たちの活動を常に見直すことが必要と言えるでしょう。

(註)今回のテーマは最近の動きのためまだあまりリサーチ等はないのですが、ここではLegal Assist for Children and Womenのリサーチペーパー“Gender Analysis of the Patterns of Human Trafficking into and through Koh Kong Province”を参考にしました。

※画像は“precious girl”のウェブサイトです。

複雑化する人身売買には、これまで以上の取り組みと支援が必要です↓

http://jicrc.org/pc/member/index.html


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