自燈明・法燈明の考察

地涌の菩薩について②

 昨日の記事では、地涌の菩薩のあらましについて少し書きました。この地涌の菩薩の意義とは何なのか、ただ単純に末法に出現して法華経を弘める菩薩という事だけなのか。そこいら辺について、もう少し考えてみる必要があると思うので、この場を使ってすすめてみたいと思います。



◆地涌菩薩とは
 地涌菩薩は五百塵点刧という久遠の昔から、久遠実成の釈尊が教化してきた菩薩であると説かれています。そしてこの菩薩達は、法華経以前の経典でも姿を現した事はなく、法華経以降の経典(涅槃経)にも登場していません。

「阿逸多、是の諸の大菩薩摩訶薩の無量無数
 阿僧祇にして地より涌出せる、汝等昔より
 未だ見ざる所の者は、
 我是の娑婆世界に於て阿耨多羅三藐三菩提
 を得已って、是の諸の菩薩を教化示導し、
 其の心を調伏して道の意を発さしめたり。」

 従地涌出品で釈尊は、六万恒河沙という膨大な菩薩達を、自分が成道してから教化してきた事を明かしました。しかしこの従地涌出品第十五の段階では、これを説いている釈尊自身は始成正覚という、この世界で始めて成仏したという立場なので、弥勒菩薩を始め、虚空会に参集した多くの菩薩や二乗等の人達に疑念を生じさせる事になったのです。

 いわば法華経の如来寿量品というのは、この地涌の菩薩の出現を契機として説かれる事になり、そこで釈尊は久遠実成という仏の姿を説く事になりました。そういう観点からすれば、久遠実成の釈尊という、法華経で説かれる久遠実成の仏の姿を現すための役割を担っている菩薩という事なのかもしれません。

◆末法の法華経弘教の主体者
 創価学会や日蓮正宗などでは、末法に法華経を弘め、広宣流布するのは地涌の菩薩の専権事項という感じで捉えています。正法(仏滅後千年まで)や像法(仏滅後千年から二千年まで)の間には、四依の大士と言われる天親菩薩や龍樹菩薩、また天台大師は薬王菩薩の再誕と呼ばれていますが、それぞれ迹化の菩薩が出現して法華経を弘め、末法で法華経を弘通するのは地涌の菩薩だけと言われています。そしてその末法で弘めるべき法華経とは、上行菩薩の再誕、本地久遠元初自受用報身如来の日蓮大聖人の仏法だと言うのです。

 しかし、そもそも久遠実成の釈尊をも「迹仏」という様な久遠元初の本仏というのは、天台宗恵心流の中古天台から派生したものであり、その様な思想は法華経にはありません。また確かに法華経では総付嘱や別付嘱(結要付嘱)はありますが、総じて仏滅後の法華経の弘教を託されているのです。また前の記事にも少し紹介しましたが、法華経薬王菩薩本事品第二十三では以下の様に説かれています。

「是の故に宿王華、此の薬王菩薩本事品を以て汝に嘱累す。
 我が滅度の後後の五百歳の中、閻浮提に広宣流布して、
 断絶して悪魔・魔民・諸天・龍・夜叉・鳩槃荼等に
 其の便を得せしむることなかれ。
 宿王華、汝当に神通の力を以て是の経を守護すべし。」

 ここでは「後後の五百歳の中」と末法を指し示して、その時に広宣流布する事を、釈尊は宿王華菩薩に託しています。そういう事から考えると、末法の広宣流布というのは地涌の菩薩の専権事項という事でも無いように思うのです。

 創価学会の一部では「私達は地涌の菩薩の眷属だ」と自任する向きもあったりして、場合によっては、日蓮が久遠元初の本仏であるという観点から、釈迦は自分達とは無縁の仏、だから従来の仏教など学ぶ必要は無いという様な雰囲気もあります。しかし結果としてそれが仏教という、そもそも自分達の源流ともいえる宗教に対する無関心を生んでしまっているのではないでしょうか。

◆経典中の仏菩薩について
 日蓮は蒙古使御書の中で、以下の様に語っています。

「所詮万法は己心に収まりて一塵もかけず九山八海も我が身に備わりて日月衆星も己心にあり」

 また戸田会長も法華経講義では以下の様に語っていました。

「その何十万と集まったのは釈尊己心の声聞であり、釈尊己心の菩薩なのです。 何千万おたってさしつかえない」

 そういう事から考えてみれば、法華経の中に説かれている菩薩等の姿も、それぞれが一人ひとりの心の中にあると捉えるべきであり、何かどこかに菩薩が居て、そんな菩薩は時々に娑婆世界に生まれ出てくるというものでは無いと思うのです。そして地涌の菩薩という事も、そんな一人ひとりの己心の中にある存在であり、何も特別な存在ではない様に私は思います。



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