前回の記事では「お金」の事を書きましたが、今回はそれに関連する事について書いてみます。私は前の記事にも書きましたが、今の人類社会はこの「お金」に代表され現れている欲望という事について、付き合い方を考えなければ、早晩、衰退していく運命から逃れられないかもしれません。
人間とこの欲望というか、日蓮は信徒の池上兄弟への手紙で以下の様にこの世界観について語っていますので、少しみたい見たいと思います。
「此の世界は第六天の魔王の所領なり一切衆生は無始已来彼の魔王の眷属なり六道の中に二十五有と申すろうをかまへて一切衆生を入るるのみならず妻子と申すほだしをうち父母主君と申すあみをそらにはり貪瞋癡の酒をのませて仏性の本心をたぼらかす、但あくのさかなのみをすすめて三悪道の大地に伏臥せしむ、たまたま善の心あれば障碍をなす」
(兄弟抄)
ここで日蓮が語るには、この世界は第六天の魔王の所領だと言うのです。第六天の魔王というのは「他化自在天」という天界に住む魔王と言われ、別名を「天子魔」と言います。
よく創価学会や日蓮正宗では「日顕は天子魔だ」とか「池田大作は天子魔だ」という様な言葉を言いますが、私から言わせれば思索が足りないですね。彼らは確かに天子魔の一分を現していると思いますが、この魔の本質というのは人間の中に誰しもが持ち合わせている「他者を自在に扱いたい」という様な欲望の事であり、私はこの人間の持つ欲望が、現在に於いて一番、端的に表れているのは「お金(資本)」だと思っています。
お金(資本)ほど人間を自在に操る存在はありませんからね。
私が昔よく見たアニメ映画で「オネアミスの翼」というのがありました。そこでは主役のシロツグが訓練をサボっていると、そこに宇宙軍の教官が来て、彼に以下の言葉を言いました。
「これがなんだか分かるか、1リーム硬貨だ。パンなら一斤、油なら1本分の価値がある。だがごぜの追いはぎはこれ一つの為に人を殺す。えー?そう思えば大金だろ?」
人間社会では人を動かす一番の物はお金であり、ある意味でこのお金こそが他化自在天の働きを良く表していると思うのです。
日蓮が考えていた世界観では、この人類社会とはこの化他自在天の欲望が渦巻く世界であると言うのです。そして人々はその欲望に従えられている眷属であると言います。またこの世界には二十五有という牢獄が構えられていると言うのです。二十五有とは簡単に言えば三界という欲望の世界を言います。
三界の欲望の世界とは、以下の様な世界を言います。
◆欲界
人間が根源的に持っている欲望。性欲や食欲、睡眠欲に戻づく欲望の世界。
◆色界
「色」とは物質の事であり、即物的な欲望の世界。
◆無色界
非物質に対する欲求の事であり、社会的な地位や名誉欲等の欲望の世界。
いずれの人間もこの様な欲望の牢獄に入れられているというのです。この表現とは言い得て妙な言葉だと思います。人間には善なる心があっても、日常的にこの欲望に囲まれ、閉じ込められて生活をしています。
そして人間とは単に入れられているだけではありません。そこでは「妻子眷属」という家族の「絆(きずな、ほだし)」という縛りつけを受けています。私もそうですが、嫁や子供をこの人間社会で生活させる為には、仕事をしてお金を得なければなりません。そしてその仕事では、けして綺麗ごとだけでは済まない事もありますが、場合によっては飲み込み取り組まなければならないのです。
またこの縛りは妻子眷属だけではありません。ここで日蓮が言う様に「父母主君」という人間関係もかぶさる様に縛り付けてきます。
ある意味で、人間社会とはそういった構造だと言えるでしょう。
またこういった縛りだけではなく、「貪瞋痴(むさぼり、いかり、おろか)」という酒を飲まして仏性の本心を判らなくしているというのです。これは日常生活の中で、ある意味当たり前に出てくる感情の動きですが、そのような情動的な感情によって、人々は本来、自分自身が持ち合わせている可能性や、本来の姿というのが見えなくなっている状況だと言う事でしょう。
こうして今の人類社会の中の人達は、三悪道という世界に人々が張り付くような生き方を強いられている。これが日蓮の持っていた世界観のようです。
これはある意味で真理の姿を的確に顕しています。
今の人類社会では、どの人々もこういった化他自在天の欲望に縛られ生活をしています。けしてそこに無縁な場所はありません。そして社会の中で、こういった欲望とは別に、本当に人類の為の思想があったり、またその為に行動をしている人が居ても、「貪瞋痴」という情動的な心の働きもあって、その動きの本質を無視してしまいます。
私は「お金(資本)」に、他化自在天の姿を観ていますが、この人類社会の仕組みを「資本主義」と呼ばれる事にも、それなりに意味を感じています。
今の人類社会には様々な課題があります。食糧問題やエネルギー問題、そして環境問題など。そしてこれら問題を解決していかなければ人類社会はこの先、自分達の存続問題につきあたり、行き詰まる事になっていくでしょう。
本年は新型コロナウィルスのパンデミックという一大イベントとなりましたが、この問題で明確になってきたのは、この人類社会が日蓮の言う「三界の衆生」という事であり、化他自在天が私達の生き方をコントロールしているという現実です。
人は「お金(資本)」に動かされ、情動によってコントロールされている。
だからと言って、この人類社会の形を変える事は難事中の難事です。ただしこの世界の構造を正確に認識する事に努力する事は可能だと思うのです。いま大事な事は、一人ひとりがこの世界の形(構造)を、理解する様に務める事ではないでしょうか。
ふとそんな事を考えたりしています。