自燈明・法燈明の考察

牧場怪談で思う事⑨

 竈猫氏の山の牧場はまだ続きます。

 竈猫氏は正月休みのつぎに、夏休みに再度帰省をしました。その時には地元の友人の間には「山の牧場」の話は広がっており「絶対に行かない」という話になっていたので、専門学校時代の友人を半分騙す形でお願いし、牧場に連れて行ってもらいました。



 この時、牧場の入り口の処には土が盛られていて入れなくなっていました。「何だろう?」と思ったらそこには看板が立っていて「〇〇〇(横文字)不動産所有地、関係者以外立ち入り禁止」と書いてあり、電話番号が書かれていて、その電話番号は東京の電話番号でした。「へー、こんな所、不動産屋が買うなんてモノ好きだな」と思い、車で入れないとも思いましたが、よく見ると廃墟側ではなく牧場側の道は入れる様になっていました。バリケードも何もないので、牧場側から車で入っていったら、牧場の少し高台の場所には全面フル・スモーク貼りの黒いワンボックス車(ハイエース)が停まっていました。
 「何かヤバくね?」と思いましたが車を降りたところ、直ぐにハイエースの扉が開いて、中から如何にもという風情の人(ヤの付く商売の人)が出て来て「おら!お前ら!私有地に何しとんじゃ!」と言われ、逃げようとしたのですが逃げられず、黒塗りのハイエースの中に連れ込まれました。しかしこのハイエースの中というのは異様なもので、お守りやお札だらけでした。

 「お前ら何しにこんな所へ来た!」と言われたので、竈猫氏はしょうがなく「山の牧場」について端折りながら説明をしました。するとその人は話をよく聞いてくれたのです。竈猫氏はその人に「何かあったんですか?」と聞くと、すると「お前らに本来、こんな話はするもんじゃないんだが、そうか、そういう場所か。。」と言い、「俺たちは〇〇〇不動産に頼まれて、ここの土地の管理をしている。ところが若い奴に見張りをやらすと、みんな2日も持たず”あんな所行きたくない”と言い出し、みんな帰ってきやがる。次から次へとこんな札なんて貼りやがってよ。。。だけどそうか、そういう所なのか」と言うのです。この人は地元でも大物の人であった様ですが、鉄拳制裁をしても下の人間は行きたいく無い。だから本人がここに来て見張りをしていたという事の様でした。

「分かった、もう良い。二度と来るな。俺も帰る!」

 それでそこは解放されました。その後、看板にあった電話番号に電話をしてみたのですが、「お掛けになった電話番号は。。」となっていたのです。そこでもうこの件には関わる事は止めよう、そう思ったそうです。

 その後、竈猫氏は様々な事があって、2011年の同時多発テロの時期に実家に帰っていたのですが、叔父の友達に地元の不動産屋がいて、その人も結構怖い話が大好きな人だったのですが。

「お前、何か面白い話を知っているらしいな」

 と言われ、聞いてみると山の牧場の事でした。どうやらこの叔父の友達が学生時代にも有名な話であったらしく「牧場の廃墟って、あれ一家心中ってやつだろ」という事を話しだしたのです。そして「あれ、一家心中じゃないんだぞ」と言い、話を聞いてみると、その牧場に住んでいた家族で父親がおかしくなり、家族全員の頭を鉈で勝ち割って、自分も首を切って死んだと言うのです。「そんな話はどっから聞いたの?」と聞くと、叔父の友達は学生時代には有名な話だった言いました。怪談話としてはよくある話だと竈猫氏は思ったそうですが、そのあとの叔父の友達の話が怖い内容でした。

「あの後、お前も知っているだろ?●●不動産。(地元では大きな不動産屋だったのが、竈猫氏が帰省した時には無くなっていた)お前な、あの不動産屋があの土地を買ったんだよ。お前が帰ってきたらあの不動産屋無くなっていただろ?あれは潰れたんじゃないんだ。何年か前に社員旅行でマイクロバスで出かけて、そのバス、谷に落ちて皆んな死んじゃったんだよ」

 叔父の友達はこの話を不動産屋の横の繫がりで知ったそうで、この話を聞いた時、竈猫氏は背筋が冷たくなったそうです。「もうお前やばいぞ、あそこは行くな」とこの時に叔父の友達には言われたそうです。

 その後、竈猫氏は東京に戻り、そのころには妹が結婚する事になりました。そして結婚式あるという事で、また故郷にとんぼ返りをしました。そこで妹の旦那と顔見せをしたのですが、いろいろな話を妹の旦那と話ているうちに、また山の牧場の話題になってしまいました。この時の妹の旦那の話によると、もう山の牧場は跡形もなく無くなっていたそうです。
 何でも竈猫氏の故郷の苫小牧近郊には火山が近くにあるので、砂防ダムの建設計画があって、山の牧場の土地もその建設計画の範囲に入っていた事から取り壊されてしまったとの事でした。それを聞いて竈猫氏は山の牧場のあった場所に行ってみたところ、確かに土地の形も変わってしまい、牧場は跡形もなくなっていました。
 妹の旦那は地元警備会社の役員をしているそうですが、この砂防ダムの建設は地元でも大規模公共事業という事で、多くの地元企業がかかわったそうです。竈猫氏が砂防ダムの場所に山の牧場があったでしょうと聞くと、旦那は「あれ、お兄さんもあの牧場の事を知っているんですか?」となり、話となったそうです。竈猫氏は旦那にも山の牧場の話をかいつまんでしたところ、妹の旦那は「実はあの工事、ちょっと変わった事があったんですよ」と話はじめました。

 妹の旦那によると、その山の廃墟(牧場)を掘ったところ、地下室が出てきたそうです。しかしその地下室がとても異様で、建物の規模に対して十倍近くの広さの地下室があり、廃墟から地下室までトンネルもあったというのです。地下室はコンクリート製で出来ていて、このトンネルはコンクリートではなく樹脂の様な、また繭の様な素材で出来ていて、それがコンクリートを突き破る形で上に延びていたとの事。

「何だ、これは」

 これを発見し、工事責任者は地元の役所に電話を入れたそうです。普通なら地元(苫小牧)とか札幌から役人が来るところ、この時には半日またずに東京から役人が現地に来て、何か地図と見比べて確認した後、「壊して下さい」と工事責任者に言って直ぐに帰ったそうで、そこから重機などで地下室を破壊し、ほじくり返して埋めたそうです。
 この時に不可思議だったのは、外側がコンクリートで出来た地下室でしたが、コンクリートの内側というのが石で組まれた「ムロ」の様なものであったそうで、この事から石で組まれたムロを誰かが発見し、その上からコンクリートで固めて作られたのかもしれないと言う事でした。またこの地下室から六角形のドラム缶ほどの大きさの柱が八本出て来たそうです。この柱の構造はハチの巣の様な構造で、重機で壊すと脆い素材で出来たものでした。

 結局、その牧場の正体は判る事もなく、跡形もなく破壊されてしまいました。

 これで「終わり」の様に思えますが、この竈猫氏の「山の牧場」の話は、もう少し続くのです。

(続く)


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