自燈明・法燈明の考察

牧場怪談で思う事①

 先日の事、You Tubeを見ていたら、怪談師の竈猫氏の北海道の牧場の怪談があり、一時間ほどの内容でしたが、聞き入ってしまいました。この牧場の話に近しいものとして、同じく怪談作家の中山市朗氏の山の牧場という話もありますが、両者の話は似通った点が多くあります。

 この話は少しシリーズとして取り上げ、考察をしてみたいと思いましたので、よろしくお願いします。

◆中山市朗氏の「山の牧場」

 中山氏の山の牧場の話ですが、こちらは1982年8月頃の話と言われていて、中山氏が大阪芸大四回生のとき、卒業制作の映画ロケの為に訪れた兵庫県のある山の頂上付近の牧場で、不思議な建物を見つけました。


 何でも俯瞰した風景を撮影しようと、山道に仲間の持つスカイラインで乗り入れたのですが、その山道の幅はスカイラインとほぼ同じ幅の道で、とても狭い一本道だったと言います。余りの狭さに不安を持ちながらその道を上っていくと、「終点」と書かれたドラム缶が道の真ん中にあったので、車をそこに置いて更に道を歩いて行くと、赤いトタン屋根の建物が見えてきました。中山氏と仲間はその建物に興味を持ち、その建物に近づくと、そこには牛舎と建物が二棟平行に建っていたと言います。こんな山奥の少し開けた場所でこんな牧場がある事に驚きながら、中山氏たちは牛舎に入ってみると、真ん中を通路にして、左右に鉄柵のある牛舎で、その鉄柵もピカピカの真新しい設備だったそうです。見た感じは、建てたけれども未だ使っていない大きな牛舎の様でした。またこの牧場は一切人気も無い感じで「これ、どういう事?」と疑問を持ちました。

 この時、中山氏に同行していた地元の「フジモト君」という友人も「こんな処に牧場あったかなぁ?」と言い出したそうです。

 確かにこんな山奥に真新しい牧場が立てられていて、しかも牛舎には藁クズ一本も落ちていない。がらーんとした無機質な感じの牛舎でいぶかしく感じていた処、仲間の一人が「屋根がおかしいぞ?」というので、屋根を見上げると、直径二メートル位の半球型のへこみがあり、そこから日差しが差し込んでいました。そのへこみ方は台風などでモノがぶつかって凹んだというものではなく、本当に直径二メートル位のものがぶつかって凹んだ様にしか見えないものでした。

 こんな山奥で、来る道幅もスカイラインの横幅とほぼ同じ狭い道しか無いのに、建物を破壊する鉄球の機材を持ち込める筈もなく、また牛舎の脇にはトラクターが横倒しになっている等、何かとても全体として不条理な状況で不気味さ感じる場所でしたが、良く見ると二棟の牛舎の間に、一階建てのコンクリートの建物があったので、これは何だろうとその建物を見に行きました。するとその建物のガラスは割れていて中が見えたそうですが、一見すると何かの実験室の様になっていて、様々な実験機器の様なものがあり、棚にあったビーカーなどは全て床に落ちて割れていました。

 この建物に入れないもんかと、中山氏は建物を見たそうですが、全て鉄扉で閉まっていて入れない状況に「何かへんやぞ」と思ったそうです。

 そしてこの牛舎を見て振り返ると、そこにもコンクリートの二階建ての建物がありました。その一階部分は物置の様になっていましたが、二階は住居部分の様に見えたそうです。この建物を一見すると、一階部分には牛の飼料などが置かれているのかと思ったのですが、その一階部分を見てみると、置いてあるのが石灰岩で、それがふた山ありました。

 その二階に登れば人の生活した痕跡があると思い、建物の周囲を探してみると、どこにも二階に登る階段がありません。普通なら外に非常用の階段なりハシゴがあって然るべきと考えたのですが、その二階に登るものが一切ありません。建物の裏に赤土の崖があったので、その崖から二階に飛び移れるのではないかと思い、崖の上から庇(ひさし)の上に飛び乗り二階に侵入すると、二階にはL字型の廊下があり、右側にはドアがあり、左側はL字型に曲がっていました。しかしこのL字型の先はどん詰まりとなっていました。
 「この廊下は何?」
 その様に思い、右側のドアを開けてみると、そこには四畳半のボロボロの畳敷きの部屋があり、押入れの襖は倒れていました。そしてその襖の下を開けてみると人形が落ちていました。
 「これ何?なんなん??」
 この部屋にあるのは襖と人形だけしか無いのですが、天井を見てみるとお札が一面にビッシリと貼ってあり、また押入れにも様々なお札が束で置いてあったそうです。
 そこで振り返ると入って来たドアの横に、隣の部屋に行く襖があったそうですが、その襖には白ペンキで「たすけて」と書かれていました。

 これを見た時、何か監禁事件か何かに使われた場所では無いかと思い、鳥肌がたったそうで、一緒に来ていた仲間も「もう帰ろう!」となったのですが、帰ろうにも、そもそも階段が無いので帰れません。しかし部屋があるのであれば、畳や襖をどこからか持ち込んだはずで階段が無いのはおかしいと考え、先ほど崖から飛び降りた庇を使って建物を一回りしたのですが、どこにも階段らしきものが見つかりません。そこでL字型の外見から、もう一部屋がある事が判るったので、中山氏は庇を回りその部屋に窓から見ると、そこは板の間で四畳ほどの部屋、木の壁には見た事も無い謎の文字がびっしり書き込まれているのが見えました。
 「誰が何のために書いたのか」
 そこは一切判らなかったそうですが、その部屋にも先ほどの部屋同様、床の上には人形が沢山落ちていたそうです。そして銀行で貰える様な手帖も落ちていたそうですが、そこにも謎の文字が最終ページまでびっしりと書かれており、そこの場所には医学書も落ちていました。
 「この場所はやばい!」
 中山氏は気持ち悪くなり、先に行っていた仲間を追いかけ、先の飛び降りた崖によじ登り建物から出る事が出来ました。
 「俺たちは一体、何を見ているの?」
 もう帰ろうと車を置いている場所まで歩き出すと、そこにはもう一棟建物があったそうです。

 その建物も二階建てとなっていて、1階部分は事務所の様になっていました。1階部分の扉を開けるとスチールの事務所机が二つあり、電話が置いてありましたが、その電話線がグルグル巻きで置かれていたそうです。そしてこの事務所にも先ほどの部屋と同様にお札が多数、貼り付けられていたそうです。またこの事務所の真ん中には大人が三人ほどで抱き抱えられる様な巨石があったそうで、高さは1.8メートル程度の大きさでした。この巨石は恐らく後から持ち込まれたのか、置いている場所の床が抜け落ちていました。

 この時には時間も既に夕方になっていたので、皆がまるで狐に摘ままれた感じもしましたが、その場所から撤収したそうです。

 ここまでが、この怪談の序盤であり、ここから謎が更に深まっていく展開となっていますが、それは次回以降に書いていきます。

(続く)


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