米軍がシリア アサド政権へミサイル攻撃 ロシアは強く反発
4月7日 18時42分 NHKニュース
アメリカのトランプ政権はシリアのアサド政権が化学兵器を使用したと断定し、対抗措置として、アサド政権の軍事施設を巡航ミサイルで攻撃しました。これに対して、アサド政権とそれを支援するロシアは強く反発していて、シリア情勢の混迷がさらに深まる可能性も出ています。
アメリカ国防総省は、地中海に展開するアメリカ軍の駆逐艦2隻から現地時間の7日午前4時40分ごろ、日本時間の7日午前9時40分ごろ、巡航ミサイル「トマホーク」59発を発射し、シリア中部のシャイラート空軍基地を攻撃したことを明らかにしました。
シリアでは今月4日、北西部イドリブ県の反政府勢力が支配する町が空爆を受け少なくとも72人が死亡し、猛毒のサリンなどの化学兵器が使われた疑いが強まっています。
トランプ大統領は6日、滞在先の南部フロリダ州で声明を発表し、「シリアの独裁者アサドがおそろしい神経ガスの化学兵器を使って罪のない市民を攻撃した」とアサド政権が化学兵器を使用したと断定したうえで、「化学兵器の使用と拡散を防ぐことはアメリカの安全保障上の重要な利益だ」として、対抗措置として攻撃に踏み切ったことを明らかにしました。国防総省は、化学兵器を使った攻撃にはシャイラート空軍基地から飛び立った航空機が関わっていたとしています。
シリアで内戦が始まってからアメリカは過激派組織IS=イスラミックステートに対して空爆を続けてきましたが、アサド政権を攻撃したのは今回が初めてです。
これに対してシリア政府軍は7日、国営テレビを通じて声明を発表し、攻撃で6人が死亡したことを明らかにしたうえで「露骨な侵略行為だ」とアメリカの軍事行動を強く非難しました。
また、アサド政権を支援するロシアの大統領府のペスコフ報道官は、「プーチン大統領は今回の攻撃について、主権国家への侵略行為で、国際法違反だと考えている」と述べ、プーチン大統領が強く反発していることを明らかにしました。
アメリカは、今回の攻撃についてロシアには事前に通告したとしていますが、ロシアはシリアとともに強く反発しており、シリア情勢の混迷がさらに深まる可能性も出ています。
シャイラート空軍基地とは
アメリカ軍が攻撃したシャイラート空軍基地は、シリア中部の都市ホムスから南東におよそ25キロ離れた位置にあります。アメリカメディアは、このシャイラート空軍基地は、化学兵器の使用が疑われる攻撃に関わった戦闘機が離陸した基地だと伝えています。
また、内戦の情報を集めているシリア人権監視団によりますと、シャイラート空軍基地はシリアで2番目に大きな基地とみられ、ロシア製の戦闘機などが配備されているということです。
<各国の反応 支持 不支持>
シリア大統領府「不当で傲慢な侵略行為」
シリア大統領府は7日、国営通信を通じて声明を出し、「アメリカがけさ行ったことは不当で傲慢な侵略行為であり、無責任な行動以外の何ものでもない」と激しく非難しました。そのうえで、「主権国家の基地を標的にするという愚かな行動によって、われわれの政策を変えることはできない。シリア政府はこの侵略行為によって、テロリストを壊滅する意志をさらに強くした」として、今後もテロとの戦いを掲げて、反政府勢力への攻撃を続ける姿勢を強調しました。
シリア政府軍「6人死亡 露骨な侵略行為だ」
シリア政府軍は7日、国営テレビを通じて声明を発表し、攻撃で6人が死亡したことを明らかにしたうえで「露骨な侵略行為だ」とアメリカの軍事行動を強く非難しました。
この中で政府軍は、空軍基地の1つがアメリカ軍による攻撃を受け、6人が死亡し、多くのけが人が出ているほか、施設に大きな損害が出たことを明らかにしました。
そのうえでアメリカ軍の軍事行動を「露骨な侵略行為だ」と非難し、アメリカは、政権側が戦う過激派組織IS=イスラミックステートやアルカイダ系のイスラム過激派などのテロ組織の側についたと主張しました。そして、今後もテロ組織の壊滅に向けた作戦を続け、シリア全土の平和と安全を取り戻すと強調しました。
ロシア報道官 プーチン大統領は強く反発
ロシア大統領府のペスコフ報道官は記者団に対し、「プーチン大統領は今回の攻撃について、主権国家への侵略行為で、国際法違反だと考えている」と述べ、プーチン大統領が強く反発していることを明らかにしました。
そのうえでペスコフ報道官は、プーチン大統領の考えとして「こうした行為は、すでにひどい状態にある米ロ関係に重大な損害をもたらすことになる」と指摘しました。さらにペスコフ報道官は「シリア軍は化学兵器を所有していない。武装勢力が化学兵器を使用したという事実を全く無視することは、状況を一層難しいものにするだけだ」と述べ、アメリカがアサド政権が化学兵器を所有しているという証拠がないまま、空爆に踏み切ったとして批判しました。
また、ロシア外務省は声明を発表しました。この中で「アメリカは詳しい状況を把握しないまま、国際テロリズムと戦っている国に対して武力を誇示した」として、アメリカは、アサド政権が化学兵器を使用したという根拠がないまま攻撃に踏み切ったと批判しました。そのうえで「アメリカはこれまでも考え足らずの方法で国際問題を複雑にし、国際的な安全保障に脅威を作り上げている」として、アメリカがかつてイラクやリビアに軍事介入を行って政権を崩壊させ、この地域のイスラム過激派の台頭を許してきたと指摘しました。
さらに「今回の攻撃は主権国家シリアへの明確な侵略行為で、米ロ関係を一段と破壊するものだ。ロシアは、合法的なシリア政府に対する不法行為を決して容認することはできない」として、米ロ関係のさらなる悪化は避けられないとしています。
また、ロシア外務省は、シリアでの軍事作戦に関して、偶発的な衝突を防ぐため、アメリカとの間で結んでいる覚書の履行を一時的に停止することを明らかにしました。
イラン「テロリストを利する行動」と非難
イランの外務省は7日、声明を発表し「化学兵器が使われた疑いを一方的な軍事行動の口実とすることは危険で破壊的、そして国際法に違反する。このような行動は、シリア国内のテロリストを利するもので、シリア情勢の複雑化を招くことになる」などとして、アメリカを強く非難しました。
内戦が続くシリアで、イランはロシアとともにアサド政権を支援していて、精鋭部隊の革命防衛隊の幹部らを軍事顧問などとして派遣しています。
シリアの反政府勢力 アメリカの攻撃全面支持
反政府勢力の主要グループ、「最高交渉委員会」の幹部のジョージ・サブラ氏はNHKの電話取材に対し、「アサド政権によって行われてきた犯罪を止めるための前向きな一歩だ。同盟国のイランやロシアに対しても、シリアでやりたいことが何でもできるわけではないということを示すメッセージになると思う」と述べ、アメリカの攻撃を全面的に支持する姿勢を示しました。
トルコ「アサド政権は罰せられるべき」と歓迎
アメリカとともにアサド政権の退陣を強く求めているトルコのクルトゥルムシュ副首相は、地元のテレビ局に対し「アメリカ軍の基地に対する攻撃は重要で意味のあるものだ。アサド政権は完全に罰せられるべきだ」と述べて歓迎しました。
そのうえで、今回の対抗措置がアサド政権の野蛮な行為を止め、和平プロセスの加速につながるよう期待を示しました。
サウジアラビア「トランプ大統領の決断評価」
中東のサウジアラビアは7日、国営通信を通じて攻撃を全面的に支持する声明を発表しました。声明は外務省の高官による見解だとしたうえで「サウジアラビアはシリアの軍事的な拠点に対するアメリカの軍事作戦を全面的に支持する。攻撃は、シリアの政権が多くの罪のない市民を殺害した化学兵器を使用したことに応じたもので、アメリカのトランプ大統領の勇気ある決断を評価する」としています。
サウジアラビアはイランなどが支援するアサド政権と対立し、アメリカとともにシリアの反政府勢力に対する支援を続けています。
イスラエル「米大統領は明確なメッセージ送った」
アメリカの同盟国でシリアと国境を接するイスラエルの首相府は攻撃を歓迎する声明を発表しました。声明で首相府は「トランプ大統領はきょう、その言葉と行動で化学兵器の使用と拡散は容認しないという強く明確なメッセージを送った。イスラエルはトランプ大統領の決断を完全に支持する」としています。
そのうえで「アサド政権の恐るべき行為に対する決意あるメッセージがダマスカスだけでなく、テヘランやピョンヤンにも響き渡ることを望む」としており、今回の攻撃がシリアを支援するイランや、ミサイルの発射を繰り返す北朝鮮のけん制につながることに期待感を示しました。
また、イスラエルのメディアは、政府高官の話として今回の攻撃は事前にイスラエルに通告されていたと報じています。
独仏首脳が声明「すべての責任はアサド政権に」。伊外相も支持
ドイツのメルケル首相とフランスのオランド大統領は7日、電話で協議したあと共同で声明を発表しました。
この中で両首脳は「こうした事態を招いたすべての責任はアサド政権にある」として、アサド政権を非難するとともにアメリカの攻撃に理解を示しました。そのうえで「フランスとドイツは国際社会のほかのパートナーとともに国連の枠組みの中でアサド大統領の責任を追及する努力を続けていく」として、あくまでも国際法に基づいてアサド政権の責任を追及していく姿勢を強調しました。
フランスのオランド大統領は7日、フランス南部で演説し、アメリカ側から事前に通知があったとしたうえで、「アサド政権が化学兵器を使ったのは今回が初めてではない。アメリカ軍の攻撃はアサド政権への回答だと受け止めている」と述べ、攻撃を支持する姿勢を示しました。そしてこれ以上の化学兵器の使用を避けるためにも、国連の枠組みの中でアサド政権の責任を追及し、政権移行に向けてドイツなどとともに協議を進めるよう努める考えを示しました。
また、来週、イタリアで開かれるG7=主要7か国外相会合の議長を務めるアルファノ外相は7日、声明を出し「アメリカ軍の行動は化学兵器の使用という受け入れがたい罪への対処として、またアサド政権による将来の化学兵器の使用を抑止するものとして、適切な対応だ」と述べ、支持する姿勢を示しました。
イギリス首相報道官「野蛮な攻撃への対処として適切」
イギリスの首相報道官は声明を出し「シリアの政権が行った化学兵器による野蛮な攻撃への対処としては適切であり、将来の使用を抑止するものだ。イギリス政府は全面的に支持する」と述べました。
オーストラリア首相 アメリカの攻撃を全面支持
アメリカがシリア国内にあるアサド政権の軍事施設を巡航ミサイルで攻撃したことについて、アメリカの同盟国、オーストラリアのターンブル首相は声明を発表し「どんな状況であれ、化学兵器の使用は戦争犯罪だ。迅速な対抗措置はアサド政権へのメッセージだ」として、攻撃を全面的に支持しました。
また、ターンブル首相は、今回の攻撃にはオーストラリアは直接、関与していないものの、アメリカから事前に連絡を受けていたことを明らかにし、今後もシリア情勢でアメリカと緊密に連携する考えを強調しました。
中国外務省 調査待たずに攻撃したアメリカを批判
中国外務省の華春瑩報道官は7日の記者会見で、「このほどシリアで起きた化学兵器を使った攻撃を強く非難する」としたうえで、「国連の関係機関が今回の事件を独立した立場で全面的に調査し明確な証拠をもって、歴史的な検証に耐えられる結論を導き出すことを支持する」と述べ、アメリカが国連による調査を待たずに攻撃に踏み切ったことを間接的に批判しました。
そのうえで華報道官は「当面、急務なのは、事態をこれ以上悪化させず、やっと手に入れた政治的解決のプロセスを維持することだ」と述べ、アメリカなど関係国に自制を呼びかけました。
アサド政権の化学兵器使用 たびたび取り沙汰
内戦が続くシリアでは、アサド政権による化学兵器の使用がたびたび取り沙汰されてきました。
アメリカのオバマ前大統領は、アサド政権が化学兵器を使用した場合には「一線を越えた」と見なし、対シリア政策を大きく転換すると警告していましたが、その後も北部のアレッポなど反政府勢力の支配地域で化学兵器を使ったと見られる攻撃が相次ぎました。
2013年8月には、国連の調査団が化学兵器をめぐる調査のためシリア入りしているさなかに、ダマスカス郊外の反政府勢力の支配地域で化学兵器を使ったと見られる大規模な攻撃があり、数百人が死亡したとされています。
当時アサド政権は反政府勢力による自作自演だと主張しましたが、アメリカは政権側による攻撃だと断定し軍事行動に踏み切る構えを見せます。また、フランスは、アメリカに同調して軍事行動への参加を決める一方で、イギリスは議会の反対を理由に軍事行動に参加しない意向を表明しました。
これに対してロシアは政権側の主張を擁護したうえで、シリアが保有するすべての化学兵器の破棄を提案。アメリカとロシアは、国連とOPCW=化学兵器禁止機関の監視のもとでシリアの化学兵器を廃棄することで合意し、アメリカの軍事行動はぎりぎりのところで回避されました。その後、国連とOPCWは、すべての化学兵器をシリア国外に運び出し、去年1月、廃棄が完了したと発表します。
ところが、シリアではその後も反政府勢力が支配していたアレッポなどへの攻撃で、有毒の塩素ガスなどが使われた疑いがたびたび報告され、誰がこうした攻撃を続けているのか、国連が調査に乗り出します。
国連は去年8月になって報告書をまとめ、2014年の4月と2015年の3月にはシリアの空軍が有毒ガスを使った攻撃を行い、2015年の4月には過激派組織IS=イスラミックステートが化学兵器の一種のマスタードガスを使用したと、結論づけました。
これについて当時のアメリカのパワー国連大使は、「長い間疑われてきたアサド政権による化学兵器の使用が初めて裏付けられた」として政権を改めて非難したのに対し、シリアのジャファリ国連大使は「報告書は証拠に欠けており結論とは言えない」と反論しました。
こうした中、今回再び化学兵器を使ったと見られる大規模な攻撃が行われたことで、アメリカやロシアをはじめとする国際社会がどのような対応を取るのかが、焦点となっていました。
米連邦議会議員には賛否
連邦議会の議員からは、攻撃を支持する声が上がる一方、議会と緊密に連携を取るよう求める意見が出ています。
与党・共和党の重鎮、マケイン上院議員は、グラハム上院議員と共同で声明を発表し「最高司令官であるトランプ大統領の指示の下、アメリカ軍は、ロシアのプーチン大統領の支援を受けたアサド政権が、無実のシリア人を化学兵器で虐殺するのを黙って見ていることはしないという重要なメッセージを送った」としています。そのうえで「トランプ政権はオバマ前政権と違い、極めて重要な時期に行動を起こした」として攻撃を支持しています。
また、野党・民主党の上院トップ、シューマー院内総務は声明を発表し「アサド大統領に、卑劣で残虐な行為をすればその代償を払わないといけないということを知らしめるのは、正しいことだ」として、攻撃を評価しました。そのうえで「トランプ政権には、戦略を立て、それを実行する前に議会の意見を聞く必要がある」として、今後、議会と緊密に連携をとるよう求めました。
一方、共和党のポール上院議員はツイッターに「トランプ大統領が軍事行動を起こすためには、憲法で定められているように議会の承認を得る必要がある。アメリカがこれまでにこの地域に介入した結果、アメリカの安全が高まったことはなく、今回も同じ結果になるだろう」と投稿し、攻撃に批判的な考えを示しています。