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米朝首脳会談の「不確実なレガシー」

2018-07-04 10:52:12 | 朝鮮半島有事・非核・南北朝鮮

米朝首脳会談の「不確実なレガシー」

2018年7月2日   WEDGEInfinity   岡崎研究所

 6月12日の米朝首脳会談を受けて、米外交問題評議会のリチャード・ハース会長が、6月16日付の

Project Syndicateのサイトで、「シンガポール・サミットの不確かなレガシー」と題し、米朝首脳会談は

北朝鮮の核問題を解決して大成功だったと言うトランプ大統領の主張は、北朝鮮に圧力をかけるのに

今後も必要な国際社会の経済制裁への協力を難しいものしてしまう、と批判している。

その要点は以下の通りである。

 

・トランプ大統領は、「もはや北朝鮮の核の脅威はなくなった。」「「私は問題を解決した。」と述べたが、

それは嘘である。北朝鮮の核の脅威は、減っていない。米朝共同声明は、たったの391語で、曖昧な

ものである。


・北朝鮮は、単に、「朝鮮半島の完全な非核化に前向きに行動する」とのみ約束した。非核化の

定義もなければ、タイム・スケジュールも、査察への言及さえない。核兵器に関連する、弾道ミサイルを

含む他の問題にも一切触れていない。北朝鮮との合意は、1か月前にトランプが離脱したイランの

合意より悪い。


・別にシンガポールでの米朝首脳会談に意味がなかったと言うつもりはない。少なくとも、米朝二国間関係は

改善された。1年前には、北朝鮮が核、ミサイル実験を行ない、戦争のリスクもあった。シンガポールで

残された課題についても、今後、米朝で合意する可能性もある。


・しかし、現実にはそのような合意は難しい。何故なら、北朝鮮が核兵器を放棄することが疑わしい

からである。ウクライナがクリミア半島をロシアに併合されても世界は何もしなかったし、リビアのカ

ダフィ大佐の例も見ている。


・トランプ大統領は、個人的関係が大事で金正恩を信用している、と言った。しかし、叔父や兄も含めて

敵を殺す指導者を信用できるのか。レーガン大統領は、「信用しても、確かめよ。」と言ったが、

「確かめずに、信ぜよ。」では困る。


・トランプ大統領は、「挑発的」戦争ゲームとして、米韓軍事演習の中止を一方的に決めた。金正恩と

取引できたであろうことを譲歩しすぎていないか。


・完全で査察可能な北朝鮮の非核化が早期に行われずに交渉が失敗することもあり得、トランプ大統領は、

金正恩に裏切られたと思うだろう。その場合、3つの選択肢が考えられる。

1つは、完全な非核化の水準を下げることだが、米国が許さないだろう。そして、経済制裁を強化する

ことには、中国とロシアが反対するだろう。

2つ目は、軍事力の脅威を再導入することだが、これには韓国が反対するだろう。

そして、3つ目は、ボルトン氏が主張していた軍事的行動である。これはトランプがシンガポールで

予期していたレガシーではないが、十分あり得ることである。


「完全な朝鮮半島の非核化」への道は、何も進まなかった

 6月12日にシンガポールで開催された米朝首脳会談については、6月12日付のワシントン・ポスト紙、

ニューヨーク・タイムズ紙、ウォールストリート・ジャーナル紙の社説に見られるように、

米国では、トランプ氏が北朝鮮に譲歩しすぎたというのが概ねの評価である。上記のハース会長の論説も、

その具体的例の1つである。

 


 米朝首脳会談の後、トランプ大統領は、共同声明は包括的ものである、と自慢した。シンガポールに

集まった記者達は、何が出て来るかと、トランプ大統領の記者会見を待っていた。

そこで、明らかになったのが、上記でハースも指摘している短く、曖昧で、米国の主張が盛られていない

声明文であった。


 ホワイト・ハウスは、ずっと、「完全で、検証可能かつ不可逆的な非核化」(CVID)を主張してきた。

米国の識者やメディアは、その言葉が入ることを期待しただろう。それが、「完全な朝鮮半島の非核化」、

すなわち南北首脳会談で合意された板門店宣言から、何も進まなかった。

ホワイト・ハウスは、北朝鮮への経済制裁は維持し、CVIDを目指すというが、北朝鮮がそれに応じて

いるかは疑問が残る。


 そして、出て来たのが、トランプ大統領の米韓合同軍事演習中止の発表だった。それも、北朝鮮が

米韓合同軍事演習を非難する時に使ってきた「挑発的」という形容詞を使用したことには、驚いた。

そこまで、トランプ大統領が北朝鮮に譲歩してしまうようになった背景には一体何があったのか。疑問が残る。


 ハース会長が論説で主張していることはもっともであり、説得力がある。トランプが金正恩に裏切られたと

感じた時、時計は逆戻りしてしまうのだろうか。CVIDが、現実には不完全で査察不可能で可逆的な非核化に

ならなければ良いのだが…‥‥。全ては、これからの米国の外交交渉にかかってくる。
 

出典:Richard N. Haass ‘The Singapore Summit’s Uncertain Legacy’ June 16, 2018, Project Syndicate,  https://www.project-syndicate.org/commentary/trump-kim-singapore-summit-outcome-by-richard-n--haass-2018-06


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