破滅への道」たどる中国のあくなきインフラ建設
中国のインフラ建設には歯止めがかからなくなっているようだ
2016 年 9 月 21 日 16:29 JST THE WALL STREET JOURNAL
【上海】独裁的支配を最も痛烈に批判する人々でさえ、インフラ建設に関しては、中国が裕福な民主国家に圧勝していることを認めている。
米国は事実上、勝利を断念している。米国土木学会(ASCE)は4年ごとに、崩れ落ちそうな学校や慢性的に混雑している主要空港、
くぼんだ道路や老朽化した輸送システムといった国内のインフラ状況を点検し、全体評価を下す。最新の2013年は「Dプラス」だった。
一方、中国は十分なペースで建設を進められない。北京を走る第6環状高速道路(六環路)が先ごろ開通し、建設作業員は現在七環
路(所によっては100マイル外側)の作業に当たっている。これは首都と周辺都市を結び、日本の人口をやや上回る1億3000万人の
「巨大都市」を作る計画の一環だ。10年前には存在しなかった高速鉄道網は今や欧州連合(EU)の鉄道より広範に及び、急速に拡大
している。政府の経済計画当局にとってダムや橋、トンネル、地下鉄の新設は目新しいことではない。
だが、それにはどれだけの費用がかかるのだろうか。オックスフォード大学サイード・ビジネススクールの研究者4人がまとめた論文
は、第三者が中国のシステムの突出した強みとしてよく称賛する点がむしろ途方もない浪費につながっていると主張し、物議を醸してい
る。これらの建設は、2014年に積み上げられた債務28兆2000億ドルの3分の1に相当する予算超過を招いたという。規模を縮小し
ない限り中国は「インフラ主導の金融・経済危機に向かい」、その影響が世界的に波及すると論文は指摘している。
研究者らは95の道路・鉄道建設プロジェクトのデータを調査した。予算超過は一般的に民主主義国家とほぼ同水準で、中国はス
ピードでは圧勝しているが、品質や安全性、環境を犠牲にしているという。
開通した道路の大部分は交通量が少なく、若干が渋滞している。どちらにしてもこの結果は非効率極まりない。
これらの問題点が全体を象徴するものであるなら、中国の金融崩壊を暗示しているばかりか、建設を加速すれば企業や家計のコスト
は下がり、経済成長が上向くという世間一般の見方が試練にさらされる。中国の場合、インフラは破滅への道なのかもしれない。
債務が中国経済の泣き所であることにほぼ異論はない。政府はサービスや消費主導経済へのリバランス(再均衡)を図っているもの
の、いかなる代償を払ってでも成長を促そうと必死になって建設している。マッキンゼーは、中国の債務が2000年〜14年に26兆
1000億ドル増えたと試算しているが、これは米国と日本、ドイツの国内総生産(GDP)を合わせた数字より大きい。
そうした債務はインフラ建設の大半を担う国有企業に集中している。鉄道建設大手の中国中鉄は、ギリシャの約2倍の債務を抱えて
いる。それでも政府は年内のさらなる鉄道建設に1200億ドルの予算を計上している。
中国指導部は危険を十分認識している。人民日報は今年初め、「権威ある人物」(習近平国家主席を指すものと思われる)が語った
ものとして、「樹木が空まで伸びることはない。高いレバレッジは必然的に高いリスクを生み出す」という発言を伝えた。
オックスフォード大の論文については懐疑的な見解もある。調査会社ゲイブカル・ドラゴノミクスの中国担当調査ディレクター、アンド
リュー・バトソン氏はブログで、同論文は「いささか曖昧なミクロのデータに基づき、中国について壮大なマクロ的主張を打ち出している」
と指摘した。つまり、中国は他国と同様に個別のインフラプロジェクトでは失敗しているが、金融危機のリスクを招くほど大きな失敗を犯
してしているわけではないという。
カリフォルニア大学サンディエゴ校のバリー・ノートン教授(中国経済)は、中国モデルの強みはインドのようにボトルネックが浮かび上
がるまで待つのではなく、需要に先んじてインフラを建設することだと主張している。同教授はオックスフォードの論文について問われる
と、「低リターンのインフラ建設は(経済にできることの中で)最も悲惨というわけではない」と答えた。
それでも、近年は中国のインフラ建設に抑えが利かなくなっているとの見方は広がっている。地方政府は価値あるプロジェクトが枯渇
し、実につまらないお金の使い方をしている一方、企業は戦略を仕掛けている。湖南省はスリルを求める観光客を呼び寄せるため、
340万ドルを投じてガラスのつり橋を設置した。同省の省都・長沙市のある企業は、57階建ての高層ビルをわずか19日間で完成させ
た。
米戦略国際問題研究所(CSIS)で中国の産業政策を専門とするスコット・ケネディ氏は、中国はインフラ支出を続けるべきだが、異な
る方法でやるべきだと指摘する。地域間の貧富の差を是正するため地方部での投資拡大や、病院や学校の整備を重視すべきだとい
う。
当然ながら、米国にとってこれらの選択肢は夢物語でしかない。大統領選では民主党候補のヒラリー・クリントン氏も共和党候補のド
ナルド・トランプ氏も、成長促進や雇用創出のためインフラ投資を拡大すると公約しているが、資金の調達や拠出を阻む政治的行き詰
まりをどうやって打開するかは定かでない。
紛れもなくはっきりしているのは、インフラという領域において中国は度が過ぎてうんざりするが、米国など西側の民主主義国は到底
十分とは言えない、ということだ。いずれの行き過ぎも長期的な経済成長や人類の幸福、金融の脆弱(ぜいじゃく)性を脅かすことにな
る。
中国、頓挫するインフラプロジェクト 資金枯渇で中断 請負業者を苦しめ、経済の重荷に
筆者のアンドリュー・ブラウンはWSJ中国担当コラムニスト)
いつもお読み頂きましてありがとうございます。