海外での誤算でつまずく中国株式会社
スリランカでラジャパスカ兄弟が権力の座に返り咲いたことは、南アジアおよび東南アジアに
おける中国の不運な地政学的誤算を思い出させる出来事だ。
2005~15年にマヒンダ・ラジャパスカ氏が大統領を務めた10年間に、中国最大級の国営企業が
こぞって大規模建設プロジェクトの契約獲得に走ったが、スリランカは結局、その費用をまかなえ
なかった。
5年前の選挙で政敵が予想外にラジャパスカ氏を倒し、こうしたプロジェクトの多くを縮小したり、
プロジェクトを支える中国の融資の再交渉に乗り出したりした後、これが中国政府にとんだ大恥を
もたらすことになった。
そのラジャパスカ氏が今、首相として再び成功を収めている。
弟で元国防次官のゴタバヤ・ラジャパスカ氏が先月、大統領選に勝利し、スリランカきっての
有力一族に大統領の座を取り戻した後のことだ。
だが、ゴタバヤ・ラジャパスカ氏は大統領としての初の外遊先――意味深にもインド――で、
中国の経済的な抱擁に急いで戻ることはないと述べた。
モルディブとマレーシアでも似たような話があり、野党が選挙で勝利を収め、両国と中国との
金銭的、商業的取引に厳しい目が向けられるようになったことで、中国国営企業が同じように
足元をすくわれている。
中国共産党が自国で権力掌握を強めていることを考えると、共産党の支配下にある大手国営企業が
諸外国で政治的な風向きの変化を読み取るのに苦労することは意外ではない。
だが、中国国内での見事な実績を考えると、もっとうまい舵取りができるはずの商業的な文脈では、
これらの国営企業は南アジアおよび東南アジアでどんな成績を上げてきただろうか。
残念ながら、現在インドで注目の企業ケーススタディーが行われているアニル・アンバニ氏の
リライアンス・コミュニケーションズ(RCom)の破綻は、中国国営企業は民間の地域コングロマリット
(複合企業)とそれら企業を支配する大物実業家と取引する際に、学ぶことがまだ多いことを
物語っている。
今から10年前、インド通信産業にとってのアニル・アンバニ氏は、スリランカ政治にとっての
マヒンダ・ラジャパスカ氏のような存在だった。
行く手に動かせない障害が何もない、一見圧倒的な勢力だということだ。
米フォーブス誌は2008年、同氏を総資産420億ドルの世界第6位の大富豪にランクづけしていた。
順位は兄のムケシュ・アンバニ氏のすぐ下で、資産額も10億ドル少ないだけだった。
アンバニ兄弟の母が仲裁した2005年の相続争いで、アニル氏は亡き父の電力、通信、金融部門を
与えられる一方、ムケシュ氏は一族の石油事業を受け継いだ。
財閥の分割から数年後には、アニル氏は株式時価総額が合計1080億ドルにのぼる旗艦上場企業
4社を支配していた。
その当時、中国株式会社はマヒンダ・ラジャパスカ氏を相手にした時と同じくらい熱心に
アニル氏に言い寄った。
中国の2大政策銀行である国家開発銀行(CDB)、中国輸出入銀行と、大手商業銀行の中国工商銀行
(ICBC)は、RComに大量の資金を貸しつけた。
RComの事業展開に通じた複数の人物によると、融資の大半は華為技術(ファーウェイ)のような
中国チャンピオン企業から通信機器を購入するために使われた。
CDB、中国輸出入銀行、ICBCとRComとの取引の規模は何年も後、主に兄がインド通信産業に
参入したためにアニル氏の帝国が崩壊し始めた時になって初めて明らかになった。
ムケシュ氏が立ち上げた新興企業リライアンス・ジオは業界をまさにひっくり返した。
フォーブス誌によると、ムケシュ氏は今、推定ほぼ600億ドルの資産を持つアジア一の大富豪だが、
アニル氏の資産は20億ドル足らずまで激減しており、RComは約70億ドルの負債を抱えて倒産した。
本紙フィナンシャル・タイムズが確認した2018年の再建計画によれば、CDB、中国輸出入銀行、
ICBCの3行は、負債額のおよそ3分の1を貸しつけている。
ファーウェイは2018年の年次報告書で、このエクスポージャーから生じる損失は一切、取引先の
国営金融機関が負うと示唆している。
「ファーウェイはリスクを移転するために、輸出信用保険、リース、債権買取といった販売金融を
第三者の金融機関が提供するよう手配している」
同社はこう書いた。「これらの金融機関が関連リスクを負い、こうした事業活動から利益を得る」。
中国株式会社のキャプテンにしてみると、選挙に先駆けて間違った政治家に賭けてしまい、
その後、その政治家が敗れることはある。
だが、ある財界大物に賭け、その人が兄弟の事業拡大に打ちのめされ、煩雑な破産手続きに
追い込まれることは、それ以上に大きなショックに違いない。
この手のことは中国では決して起きない。
共産党が通常、国の支配下にある債権者と国の支配下にある債務者の間で静かな取引をまとめる
ことができるからだ。
中国政府は少なくとも、スリランカのラジャパスカ兄弟がまだ仲がいいことに感謝しているはずだ。
英フィナンシャル・タイムズ紙 2019年12月4日付 By Tom Mitchell