「中国寄り」だったフランスはなぜ様変わりしたのか
2018年6月20日 WEDGEInfinity 岡崎研究所
フランスのハルリ国防相は6月3日、アジア安全保障会議(シャングリラ会合)で演説し、インド太平洋地域の
安全保障上の課題は、北朝鮮による核拡散、国際海洋法の尊重、テロ対策の3つであると指摘した上で、
フランスの地域への関与の強化を表明した。演説の主要点は次の通りである。
フランスは、南シナ海における法的拘束力のある行動規範を全面的に支持する。交渉が進むべき道だ。
一方、既成事実(fait accompli)が受け入れるべき事実とは限らないことを明確にしなければならない。
フランス軍のタスクグループが南シナ海に入る時は、英国のヘリコプターと艦船が加わる。
2017年には少なくとも5隻のフランスの艦船が同海域に入った。欧州はこうした動きに支持を強めている。
ドイツのオブザーバーも乗艦する。こうした努力を拡大すべきである。
同様のロジックが、テロ、犯罪、密輸との戦いにも当てはまる。フランスは、テロとの戦いの経験を豊富に積み、
密輸対策で重要な役割を果たし、海洋監視ネットワークの構築に努力してきた。我々は、ベストプラクティスを
パートナー国と共有し、協力を追求したい。
北朝鮮については、フランスは安保理とEUにおいて、不安定の高まりと事態のエスカレーションを避けるべく、
大きな役割を果たしていく。北朝鮮の不法行為に対する制裁は奏功しているが楽観はできない。
ガードを低くすることはしない。CVID(完全、検証可能、不可逆な非核化)が達成されるまで、
制裁は強固であるべきだ。
もう一つの大きな災厄は気候変動だ。インド太平洋には海面上昇により国土が消失する恐れのある国がある。
激しい気象現象がさらに増えれば、新たな安全保障上の脆弱性を作り出す。
フランスは、気候変動の影響を緩和すべく、インド太平洋のすべての国と協力する。
これらの深刻な課題に対応するには、友好、価値観、民主主義の強固な基盤に根差したパートナーシップが必要だ。
フランスは、インド太平洋地域における強力なパートナーシップを構築し始めている。
それは、フランスと豪印との素晴らしい関係に基づいている。
日本についても言及せねばならない。日仏は戦略的利害が一致し、特別な絆を共有している。
フランスがインド太平洋における航行の自由をはじめとする海洋についての国際規範に深くコミットするのは、
南太平洋の仏領ポリネシアやニューカレドニアといった領土、それに伴う900万平方メートルの排他的経済水域を
持っていることが大きい。そして、国際的法の支配という観点がある。
本演説は、名指しこそしていないが中国の南シナ海での行動を強く批判し、国際法の遵守、価値観の共有を
強調しており、良い内容であると評価できる。
演説でハルリ国防相は、フランス海軍の南シナ海における「航行の自由作戦」実施を明らかにしている。
それは英国と共同で実施された由である。英国のウィリアムソン国防相も、インド太平洋への英国の関与を
強化する旨、演説で述べた。ウィリアムソンは、この地域でのフランスとの協力を謳うとともに、
「フランスが昨年5隻派遣したと聞いて、英国は6隻出す必要があると思う。
英海軍は、地域の友邦、同盟国と協力し、国際的な権利と自由を保護する我々の決意を示すことになろう」と
言っている。欧州の主要国が、海洋における国際規範の遵守を強く主張するとともに、言葉だけでなく
実行に移すようになっている潮流が見て取れる。
フランスは、数年前までは経済関係を重視して中国寄りの姿勢をとっていたが、大きく様変わりした。
ハルリ国防相は、インド太平洋における重要なパートナー国として、特に、インド、豪州、日本を挙げている。
7月には、日仏は、安倍総理が訪仏しマクロン大統領と首脳会談をする際に、海洋対話を創設する方針であると
報じられている。同対話は、自衛隊とフランス軍の共同訓練、エネルギー資源開発など、インド太平洋における
広範な分野における協力強化について協議する場となる見込みであるという。日仏間の防衛協力の更なる
進展が期待される。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/13089