【WSJ社説】平壌共同宣言の落とし穴
2018 年 9 月 20 日 11:45 JST THE WALL STREET JOURNAL
平壌から伝えられた朗報は、北朝鮮の独裁者がいまでも核兵器を放棄したいと考えていると述べたことだ。
しかし金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長と韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領による
今年3回目の首脳会談後、19日に発表された共同宣言は、友好ムードにもかかわらず、核廃棄の目標に
関しては大きな前進をもたらさなかった。
金委員長は、確かにミサイル試験施設の廃棄を約束したが、これは6月にシンガポールで行われた
ドナルド・トランプ米大統領との会談で話したのと同じ内容だ。ただし今回は、世界各国の専門家による
監視を容認するとしている。同じものを別物のように売り込むのは、北朝鮮が得意とするやり方だ。
そして、もともと象徴的だった譲歩に若干の要素を追加した、今回の首脳会談で得られた唯一の
具体的成果を飛躍的な前進とたたえるのは残念なことだ。
南北問題を注視する一部の人々は、金委員長が核弾頭の中身を生産するための原子炉と遠心分離機を
備えた寧辺(ニョンビョン)の核施設を廃棄する可能性にも言及したことに期待感を示した。
しかし北朝鮮は、同じことをブッシュ(子)政権の時代にも約束し、それをほごにしている。
しかも、今回は落とし穴がある。米国が最初に、何らかの利益を与えなくてはならない点だ。
具体的にどんな利益かは言及されなかった。北朝鮮の要求には、朝鮮戦争の終結を正式に宣言する
ことのほか、国連の制裁措置および米国による一方的な制裁措置の緩和が含まれる公算が大きい。
北朝鮮は6月以降、これと同じ非現実的な要求をしている。米国との交渉が停滞している理由はここにある。
最も重要なことは、金委員長が北朝鮮の核施設に関する申告と、その廃棄スケジュールを米国に
提供すると約束しなかった点だ。核施設の申告は、最初の重要なステップになる。同国の研究施設、
爆弾格納庫、ミサイル発射台や弾頭設計施設の場所が分からなければ、国際社会は非核化のプロセスを
監視できないからだ。これは6月の米朝首脳会談後にマイク・ポンペオ国務長官が最初に要求したことだった。
だが、北朝鮮は何も提供していない。
文大統領は、金委員長にほとんど圧力をかけなかった。文氏は、南北を経済的に統合するという
アジェンダとともに、当局者およびビジネスリーダーから成る200人の代表団を連れて平壌を訪れた。
自らのコミットメントを示すためだ。非核化に関する進ちょくがない一方で、こうした計画は前進している。
韓国は制裁を破って、非武装地帯の向こう側に原材料や機材を送った。これは先週オープンした
連絡事務所の建設のためだった。
19日の平壌共同宣言は韓国と北朝鮮が年末までに鉄道、道路連結のための着工式を行うことを
うたっている。
同宣言はまた、双方が金剛山観光事業と開城工業団地での事業再開に努めることを盛り込んでいる。
両事業はそれぞれ2008年、2016年に停止されるまでの間、金正恩体制に外貨を提供する事業となっていた。
こうした計画を実現するためには北朝鮮に対する制裁措置の緩和が必要となるため、今回の合意は事実上、
北朝鮮の対外貿易再開を認めるよう求める内容だった。韓国が米国に北朝鮮向け制裁措置を撤回するよう
圧力を掛けることで北朝鮮を支援する中で、金委員長が核計画について説明しなかったのは驚くべき
ことではない。
韓国の文正仁・統一外交安保特別補佐官は先月、本紙に対し、韓国は信頼醸成のため米国と北朝鮮が
相互に譲歩案を提示することを望んでいると述べた。この発言は北朝鮮が表明している北朝鮮と
米国による「段階的で同時的な措置」という要求に呼応したものだが、まず非核化、次いで報償(緩和措置)、
という米国の立場とは対立している。
このようなすべての事柄から判断すると、古い約束を繰り返すだけの金委員長の態度にトランプ大統領が
あれほど熱烈に対応したのは奇妙だ。トランプ氏は19日、「金正恩氏は、最終交渉を条件に、核査察の
容認に同意した。また国際専門家の立ち会いの下に実験場と発射台を恒久的に廃棄することに同意した」
とツイート。そして「この間、ミサイルないし核の実験はないだろう。(朝鮮戦争当時の)英雄の
遺骨は米国の故郷に戻り続けるだろう。また北朝鮮と韓国は2032年五輪を主催する申請を共同で出すだろう。
非常にわくわくする!」と書いた。
残念なことに、(発射)実験の一時停止は有用だが、非核化への進展ではない。保有兵器の放棄に
金委員長が同意するチャンスは依然としてある。それは、米国がテコとなる制裁措置をしっかり
維持している場合だ。19日の共同宣言は、韓国が金委員長にアメをどっさり差し出してムチをしまい
込みたいと望んでいることを示唆した。
だが北朝鮮の過去の行動は、そうしたやり方では成功がおぼつかないことを示している。
米政府「非核化が先」崩さず、北朝鮮が核施設廃棄に条件
南北首脳会談で北朝鮮が寧辺(ヨンビョン)の核施設を永久に廃棄する条件として、
アメリカに「相応の措置」を求めたことについて、アメリカ政府は「非核化が先だ」との立場を
改めて強調しました。
「非核化抜きには何も起こりえない。まずは非核化だ」(米国務省 ナウアート報道官)
南北首脳会談の共同宣言で、北朝鮮が寧辺の核施設の廃棄の条件として、アメリカの「相応の措置」を
求めていることに対し、ナウアート報道官は「非核化が先だ」と北朝鮮をけん制しました。
さらに、寧辺の核施設を廃棄する際には、アメリカやIAEA=国際原子力機関の査察官が立ち会うことを
北朝鮮も理解していると強調しました。ナウアート氏は、査察官の立ち会いは「通常のやり方だ」と指摘、
南北首脳会談で査察官の扱いについても話しあったと述べました。
アメリカは北朝鮮に対し、来週ニューヨークで行われる国連総会に合わせて、外相会談の開催を
呼びかけていますが、日程は固まっていないということです。
南北共同宣言受けて「非核化抜きには何も起こりえない。まずは非核化だ」(米国務省 ナウアート報道官)